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James Shore氏に聞くアジャイルの現状

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原文(投稿日:2009/6/2)へのリンク

来週行われる予定のJames Shore氏とDiana Larsen氏というアジャイル関係者から尊敬を集めている2人のリーダーによるセミナーは、まもなく登録が締め切られる。InfoQはその準備に追われているJames氏に意見を聞く機会に恵まれた。 このインタビューでは、InfoQはJames氏が最近よく話題にしている、彼の著書「Art Of Agile(訳注:邦訳「アート・オブ・アジャイル デベロップメント――組織を成功に導くエクストリームプログラミング」)」という本のこと、昨今のアジャイルが骨抜きになっている傾向について、そしてカンバン方式が全体像というものをいかに欠いているかということ、こういったいくつかのことについて話を聞いた。

まず、James氏にShane Warden氏との共著であるArt of Agileという本について、なぜこの本が重要なのか、そして読者がこの本に期待していいことについて質問をした。James氏は、エクストリームプログラミング(XP)シリーズのようなアジャイルの初期にあった包括的な書籍の多くは、「イノベータとアーリーアダプター」(Jeffrey Moore氏の「キャズム」という本の用語)を対象にしているとした。一方、James氏の本は、その中にはっきりと書かれているが、現在アジャイル入門書を探している多くの「アーリーマジョリティ」に向けたより実践的な内容だとしている。James氏は何を元に本を書いたのかを説明してくれた。

この本は私がチームで得た経験の結晶と言えるもので、最初はXPの適用をベースにしていたんだけど、私が居た多くのチームはスクラムを採用していたから、スクラムからも部分的には取り込んでているし、同様にリーンの概念も取り入れています。 リーンととてもよく似ているけど、Eli Goldratt氏の制約条件の理論(TOC)モデルは少しずつあらゆるところに入っていると言えます。最後のピースとして、Brian Marick氏のアジャイルテスティング指南(Agile Testing Directions)についても取り入れています。

James氏が本で述べていることについてもっと詳しく知りたければAgile 2007カンファレンスのインタビュービデオを見ると良いだろう。

続いて、「ありがちな躓きやすいこと(Stumbling Through Mediocrity)」と「アジャイルの衰退と凋落(Decline and Fall Of Agile)(訳注:原文の邦訳)」というJames氏の有名なブログ記事にあるように、アジャイルの導入はどんどん骨抜きになってきているというという彼の意見について聞いた。彼の見解をまとめると、こうだ。

彼らは「アジャイルになりたい」と言っています。つまり「アジャイルになる」ための簡単でちゃちな方法を探しているだけで、結果として彼らの人生は何もよくならないのです。実際に多くの場合、自分自身の首を絞めてしまっているようです。
...
アジャイルはバズワードになってしまい、アジャイル自体が目的化しているように見えます。アジャイルを目的にしてしまうことで、ありとあらゆる機能不全を起こす可能性があるし、誰一人として実際に何もよくなってないないのに、そういうことを成功例として公表することで「アジャイル」という言葉を貶めてしまうのです。アジャイルが目指しているのは「アジャイルになること」ではありません。価値があり、目的に沿った、応答性と柔軟性を備える、血の通ったすばらしいソフトウェアを生み出すことなんです。

現状を好転させるためにアジャイルコミュニティができることは何かと尋ねたところ、James氏はこう提案してくれた。

アジャイルは簡単だ、とは言わない方がいいでしょう。アジャイルは、効果的で、強力で、価値をもたらすものだと言う必要がありますが、必ずしも簡単である必要はありません。実際、難しいと思います。アジャイルは組織を変革するといった類のものだし、組織を変革するのは困難なものです。

アジャイル方法論全体の実像が語られることなく、アジャイルが流行してきているという話の流れをうけて、カンバンも話題に上った。James氏はカンバンは優れたツールだとしたものの、カンバンに気を取られ過ぎることで、リーンで言うところの全体像を見失わせる可能性があることを懸念している。

カンバンは非常に面白いアイデアで、優れたツールだと思います...しかし、トヨタ生産方式から(はじめはPoppendieck夫妻によって)アジャイルの世界にもたらされたリーンソフトウェア開発の考え方というのは、カンバン方式の考え方の大部分を占めている単にどのように作業を計画するか、というよよりももっと大きなものです。継続的なフローのようなもので、ムダを省いていくカイゼンの哲学こそが「リーンの文化」なのです。カンバンはこの継続的なフローの環境を織りなすツールの一つという位置づけで、全体像をあらわすものではありません。カンバンを使っているとXPやスクラムを身に付けているかのように見えますが、単に計画を書いたパネルの上で何が起きているかを話しているに過ぎないのです。

多くのカンバンの支持者が「いやいや、カンバンにも全体性の哲学はある」と言うのであれば、「では、なぜリーンの全体性について言及してないのか?」と尋ねるでしょう。我々はすでにリーンの哲学があるのだし、完璧にアジャイルに適合しています。

カンバンをやろうとするならば、アジャイルとも非常に相性がよいので、カンバンだけではなくリーンを丸ごと受け入れてみてはどうでしょうか。

James氏が考えるリーンの素晴らしさについてさらに尋ねようとしたとき、彼はこういってインタビューを締めくくった。

はじめて Poppendieck氏の本を読んだとき、「アジャイルで実践しているすべてのことについて、それを説明できる最終的な答えがここにある。」と思いました。アジャイルマニフェストにも当然そういったいくつかの原則がありますが、私の考えではリーンの原則の方がよくできていると思います。例えば、なぜ交渉の余地を残しておくことに気を付けたり、なぜこまめに納品することに注意を払うのか、といったものがあります。リーンはこれらのことについて多くの素晴らしい解釈を与えてくれます。

James氏のアジャイルに対する取り組みや考え方に興味を持ったのであれば、James氏とDiana Larsen氏によって6月8日から12日に行われるArt of Agile Planning & Deliveryのセミナーを調べておいた方がよいだろう。

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