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Diana Larsen氏が語る - アジャイル流暢性,アジリティへの障壁,オープンスペーステクノロジの価値

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原文(投稿日:2015/02/20)へのリンク

FutureWorks Consultingの創設者であるDiana Larsen氏は,ソフトウェア産業での製品開発に長年の経験を持っている。アジャイル開発を行うチームをコーチングする一方で,氏はさらに,コラボレーティブな判断や計画に基づいて,チームやプロジェクトの指導も行っている。Open Space Technologyイベントの提唱者であり,推進役でもある氏は,アジャイルレトロスペクティブに関する業績で広く知られた存在だ。困難な状況下で重大な問題を解決する能力が,氏の実績を際立ったものとしている。

氏には‘Agile Retrospectives: Making Good Teams Great’など,3冊の共著がある。 James Shore氏と作り上げたアジャイル流暢性(Agile Fluency(tm))モデルは,世界中のチームで採用されている。Agile Allianceでは議長であり,Organization Design Forumでは現在,ボードメンバを務めている。

氏は今度のAgile Indiaカンファレンスで,基調講演を行う。“Dancing Along the Agile Fluency Path”と題されたその講演では,アジャイルの価値と原則を導入した組織に対して,その流暢性(fluency)の達成レベルを評価するためのモデルを取り上げる予定だ。

カンファレンスに先立って氏は,InfoQとのインタビューで,コラボレーティブな作業文化,アジリティに対する組織的障壁,レトロスペクティブ,オープンスペースの価値,さらにはアジャイル流暢性とは何かについて語ってくれた。

InfoQ: コラボレーティブな作業文化に対して,最も大きなボトルネックは何でしょうか?

ボトルネックのある組織のほとんど(すべてではありません)に共通するのは,期待の移行によってボトルネックが生じていることです。期待の変化は情報フローやコミュニケーションのチャネル,製品判断,経験から学習する機会,その他,ソフトウェアの開発と成果デリバリのさまざまな面でのボトルネックに影響します。階層的な作業方法からコラボレーティブな作業分化への移行は,組織における役割の定義や要件を変化させます。階層環境では有効だった習慣的な行動の放棄を求める一方で,コラボレーションが作業プロセスの重要な部分になれば,それに代わるものが提供されることはありません。

例えばQAマネージャやエンジニアリングマネージャといった人たちは,特定の機能領域において,たくさんの人々を管理することで報償を得ている場合があります。直属の部下から上げられた情報を上司に報告したり,低いコストと高い生産性を維持するための社会的通念に従っています。要するに彼らは,自分たちの機能に最適化しているのです。ソフトウェア開発のような知的作業にとって,このような行動から望ましい結果が得られないことは分かっています ... そうなのですが,これまでは,昇進のチャンスを握っていたのは彼らでした。よく言われるように“報償は成果に対するもの”であって,コラボレーションの土壌で育まれるようなイノベーションや,その他のパフォーマンス上のブレークスルーにつながるリスクの類いは,評価の対象にはならなかったのです。

先見の明のある人たちは,コラボレーションを重視した組織をデザインします。これらの企業には,これまでのような厳格な階層構造によるボトルネックは存在しません。

InfoQ: 大規模な組織にアジャイルを導入しようとするときにありがちな課題は,どのようなものでしょうか?

最も大きな課題だと思うのは,最前線のデリバリチームの作業方法が変わったことによって,アジャイルの実装が完了したという考えを持ってしまうことです。もうひとつ,さらにたちの悪いのは,知的作業の本質とそのあるべき姿を根本的に誤解していることです。このような誤解はどうやら,組織の規模に伴って拡大するようで,スタートアップや小さな企業では見たことがありません。

知的作業が他と違うのは,"非ルーチン的な"問題解決が重要であることです。Tim Ottingerと私は,ソフトウェア開発において,迅速な学習と迅速で高品質な意思決定のどちらの関連性が高いのか,これまで議論してきました。実際には,その両方なのです。知識労働者は情報の獲得に大部分の時間を費やし,残った時間で見つけ出したものを理解します。すでに知っていることを適用する時間はそれほど多くありません。誰かの言うように,彼らは"生活のために考える"のです。キーボードのタイプに要する時間の合計でソフトウェア開発を測定できると考えるようなマネージャは,これとはまったく対照的です。

作業を形成するのが何であるかについて,人々の信念を変えることは,大きな問題を呼び起こします。

InfoQ: 今後数年間で,アジャイルはどのようになるでしょうか?

一般論でお答えしましょう。私の見解では,アジャイルは青年期にあります。その能力の全容はまだ分かりません。私たちが"アジャイル"あるいはそれに類するものに関して持っている知識の本体には,毎月のように,新たなモデルやアプローチが加わっています。アジャイルの未来とは進化の継続であり,今日では創造もできないような方法による有効性の向上にあります。複雑なアイデアがいつもそうであるように,その有益性は徐々に現れます。その時には,名前さえ変わっているかも知れません。その特徴を挙げるならば - 技能習得に重点を置いた人間重視の作業,迅速な習得とフィードバックの重視,ビジネス価値の(早期かつ迅速な)提供,ユーザニーズ(ユーザ自身が気付いていないものも含む)への緊密な結合,といったところでしょう。

infoQ: "規範的"なレトロスペクティブについては,どのように思われますか?

そのことばの意味することが,よく分かりません。私が初めてそれを見たのは,Christian Historyのブログでしたが,それ以降,有用だと思わせるものはあまり見付けられていません。ですから,推測してみることにします。規範ということばの定義は,“規則主義”や“善悪”といった感覚を連想させます。これまで説明したような,現在の状況やニーズに重点を置く考え方とは対照的です。善悪に重点を置く考え方には,私はあまり同意できません。私が気に入っているRumiのことばを引用するなら,“悪事や善事という考えを超えたところに,ひとつの領域があります。そこでお会いしましょう。魂がその草原に横たわるとき,世界は語るべきもので満たされます。”

私は,自分自身の,あるいはすべての人々のレトロスペクティブが,チームやその製品,そして組織やその顧客に対して,有用な視点をもたらすものであって欲しいと願っています。もしもその結果がカイゼン(改善)あるいはカイカク(改革)であるのなら,それも正しいと私は思います。レトロスペクティブから何のメリットも得られないのなら,止めてしまいましょう!あるいは,改善へのアプローチを考え直すべきです。

Esther Derbyと私が著書で説明したレトロスペクティブのためのフレームワークは,ミーティングを企画する上での組織原理として,私にとっては有益なものでした。私が指導したレトロスペクティブはいずれも,対象とするチームのその時点の状態に合わせて企画されています。彼らの現在の状況を説明するとともに,それを改善するための方法を模索するのです。

多くのスクラムやアジャイルのトレーニングコースが教えるような,“うまくいったものと,違う方法でやりたいものの一覧を作る”方法は,私にはうまく行きませんでした。その方法が効果的なチームも,どこかにはあるのかも知れませんが,私や私のチームには,そうではありませんでした。そのようにして切り詰められたレトロスペクティブの形式は,レトロスペクティブが有用であることよりも,その時間を短く(30分)にすることに意義を見出している,組織に迎合するような方法です。

InfoQ: レトロスペクティブに共通する基本原則は何でしょうか?

まず,事前の準備です。グループのプロセス活動のフローを計画した上で,ミーティングに臨んでください。(実際よりも難しく思えますが)

ミーティングでは,

  1. 改善作業に集中できるように,メンバをまとめ上げます。Estherと私はこれを,“ステージをセットする”と呼んでいます。設定や考え方の方向性に注意を払ってください。

  2. グループとして,メンバ全員が自分たちのものだけでなく,すべての視点からイテレーション(あるいは作業期間)を認識できるように,その状況を記述してください。私たちはこれを,“データを収集する”と読んでいます。ヒューマンシステムダイナミクスや文化事業協会にいる私の同僚は,これを “What” – 現在の状況や,これまでの経緯に関する質問への回答だとしています。さらにこれは,レトロスペクティブの教育的側面でもあります。メンバが知っていることや経験したこと,それが自身の作業に与える影響について,全員が学ぶのです。

  3. “What”の意味を理解する時間を予定してください。アジャイルレトロスペクティブのフレームワークでは,これを“洞察の創造”と呼び,別の場所では“So What?”のステップだと説明しています。自分が何を知っているのかは分かっているのですから,それをどうやって使うのかが問題なのです。これは集団的思考ないし分析であり,結果や解釈,意義,評価への部分的な到達です。

  4. #2と#3でよい成果を上げられたならば,次に取るべきステップは,次の改善ための行動または試験を選択するか,つまり“何をするべきか”,フレームの“Now What(次は何)?”を決めることです。この“Now What?”には,行動を少し増やしたり,有効性の追跡や評価を行う方法も含まれています。

  5. 最後に,“レトロスペクティブを終了”します。参加した人たちと彼らの成果に尊敬と敬意を持ち,彼らが選択した行動をより強固なものとし,チームのまとめ役にフィードバックを提供できるような方法でミーティングを終了してください。それによって彼らがチームに貢献する方法を改善することができます。

その他の基本的な原理として,チームに実際に有用な,継続的な学習し,改善するための方法を見つけてください。使用するのは私たちのフレームワークでも,Toyota改善カタでも,品質サークルとA3レポート,その他のプロセスでも構いません ... 役に立つものを見つけてください。私からお願いしたいのはそれだけです。

InfoQ: アジャイルコミュニティにとって,オープンスペースセッションは,どのような面で重要なのでしょうか?

オープンスペーステクノロジは,Harrison Owenが40年近く前に提唱したものですが,アジャイルの原則に素晴らしくマッチします。これらがどちらも,行動の権限と自己組織化を推進するからです。私の最も最近のオープンスペース体験は,ほんの2日前 – Agile Open Northwest 2015 – でした。コミュニティのメンバが集まって,今,彼らにとって何が重要かを話し合うという,また違ったケースになりました。オープンスペースの時間を過ごすことで,アジャイルをより深く理解できるようになると思います。

InfoQ:  アジャイル流暢性モデルをアジャイル成熟度(Maturity)モデルと混同して,チームを測定するための尺度として使っている企業をよく見かけますが,そういった企業に対して,何かアドバイスはありますか?

アジャイルにはひとつの問題があります。アジャイルを使い始めた頃には,自分たちの生活や製品を向上するという目的がありました。最近になってアジャイルとは,会議やトップダウン指示であり,時間の浪費である,という不満を耳にします。もっとよい方法があるはずです。今が変革の時なのです。

これに対して,James Shoreと私がアジャイル流暢性モデルを開発して,Martin Fowlerがそれを“Your Path Through Fluency”という本にしました。このモデルは,チームが徐々に,アジャイルの理解を深める方法について説明するためのものです。アジャイル流暢性モデルは,実際の世界で発生したことを反映するという意味で,記述的なモデルです。また,チームの改善に注力する方法を理解するという意味では,上昇志向のモデルでもあります。

このモデルは,アジャイルによって何が得られるのか,その結果を得るには何に注力する必要があるのかを,チームやマネージャ,あるいは経営幹部が理解する上で,非常に有効であることが分かっています。このモデルが具体的な成果を重視しているということから,必要な労力を提供することに対して,経営幹部もオープン – さらには積極的 – です。また,リーダにとっては,トレードオフを確認し,戦略的決断を下せるというメリットがあります。有意義な目標と,それを達成するために必要な時間とリソースを与えられることによって,チームは成長するのです。

私たちはそのモデルが,アジャイル成熟度モデルとしてではなく,このような精神で使われることを望んでいます。興味をお持ちでしたら,Agile India 2014の私のセッションで,流暢性モデルがあなたのチームにどのように役立つか,ぜひ確認してみでください。

 

 

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