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デイリースクラムをゲームで学ぶ - スタンドアップミーティングの5つの機能不全

原文(投稿日:2020/03/08)へのリンク

私たちのカレンダに毎日、最も多く表示されるミーティングは何ですか?もはや"Daily Stand-up Meeting"ではなく、単に"Daily"と呼ばれているミーティングの事だと、誰でも分かるでしょう。週5回、年240回、3つの質問、いくつかの障害と、間もなく得られるであろう勝利。

適切なDailyはチームメンバの作業調整の場となります。ですが、本当に優れたDailyとは、私たちの仕事にエネルギを注ぎ込んで、スプリントの目標達成へと導いてくれるものなのです。適切な、あるいは本当に優れたDailyがなければ、作業にまとまりがなくなり、チームとのつながりは失われ、目標は遥か彼方に遠のいてしまうでしょう。

Dailyにはチーム毎のさまざまな"ストーリ"があります。ストーリがさまざまであっても、Dailyを有害で無駄なものにする共通パターンを指摘することはできます。ここではDailyに見られる、最も共通的なパターンを紹介したいと思います。

壊れたレコード(Broken Record)

定義

他のメンバの役に立たない、あるいは目標達成に向けた進捗状況を示さない、ありきたりの情報や必要のない状況報告でDailyを汚染する能力。

どのような状況か?

"昨日はバグを修正しました。今日はリストの次の項目を作業する予定です。"、"今日は長時間の会議に出席します。"
"昨日はワークショップに参加しました。今日の予定は ..."

何が問題か?

Dailyミーティングを短時間で行うことは重要ですが、詳細の重要性が忘れられています。このような状況報告では、残念ながら、たとえ毎日ミーティングしていたとしても、チームメンバのコミュニケーションに大きなギャップを生じさせることになります。そもそも、このような情報は、チームよりも個人の作業に関わるものです。

対処方法

スクラムマスタ(SM)あるいはアジャイルコーチ(AC)が、明確な説明を求める、タスクやミーティングに名称を付けるなどの方法で、有用な情報を加える必要があります。さらにSMは、現状報告よりも達成度を問うことで、メンバの回答を成果の方向へ導かなくてはなりません。

この状況を防ぐには、SMがチームメンバの回答をガイドするロールモデルの役割であることが必要です。同時にチームメンバに対しては、関連情報を共有することの重要性を最初から強調しておかなくてはなりません。

個々の作業の結果としてこのような状況になっているのであれば、もっと協調的に作業するように、SMがチームに働きかける必要があります。そうすれば、時間とともに問題は解決し、チームのシナジも向上するでしょう。

物語り(Storytelling)

定義

些細な情報を壮大なネバーエンディングストーリに拡張する能力。

どのような状況か?

ミーティングで状況を報告しているうちにミーティングが脱線して、議論が別の方向に向かってしまいます。他のメンバは窓の外を見たり、スマホをいじったり、退屈を感じて他事を始めます。

何が問題か?

Dailyを効果的に、かつ15分以内に終了させるためには、焦点を関係する情報のみに保たなくてはなりません。物語りは議論を無駄と無為の方に向けてしまいます。

対処方法

ミーティングを効率的かつ短時間にする上で、集中がいかに重要であるかを、SM/ACが説明するべきです。

"その話もなかなか面白そうだから、Dailyの後でもう一度議論してみよう"、"その話はDailyが終わってからにしよう"

一方でSM/ACには、関係のなさそうなトピックを議論する機会をメンバに認める忍耐力も必要です。不意に飛び出した情報が、チームメンバにとって有用な場合もあるからです。この場合ももちろん、時間制限は必要ですから、議論に60秒以上かかるようならば、ミーティング後に回した方が通常はよいでしょう。

関係のない議論を止めるのはよい(good)スクラムマスタですが、無駄な議論とチームにとって有益な議論との間のわずかな一線(thin red line)を見出すことができるのが優れた(great)スクラムマスタと言えるでしょう。

支障なし(No Obstacles)

定義

彼/彼女がスーパマン/スーパーウーマンだ!と信じる能力。

どのような状況か?

"何か問題はありますか?"という第3の質問に答えることを忘れてしまいます。

何が問題か?

この第3の質問は、イシューに予め注目しておくことで、将来的に何か問題が発生するかも知れない、という感覚を共有するためにあります。今行動すれば、将来的な長期間の停滞を回避できるかも知れません。

Dailyが"支障なしミーティング"で終わったにも関わらず、スプリントの目標に達していないことがよくありますが、それは変ではないでしょうか?

対処方法

障害がまったくなくても3つの質問すべてに答えるように、SMが働きかけるべきです。障害を認めれば、それに対する個人的な責任が自ずと生じます。これによって、リスクや考えられる障害に対して、より注意を払うようになります。

問題解決(Problem Solving)

定義

15分というDailyのスロットを問題の解決に使ってしまう能力。

どのような状況か?

"昨日から取り掛かっているこの機能について、私が考えたアイデアを、この場で話したいと思うのですが ..."

何が問題か?

数分のスロットで問題解決を図っても実行可能なソリューションは得られない、よい答を考案するには15分では時間が足りないのが普通だ、ということを理解する必要があります。

対処方法

SM/ACが問題解決に割って入って、Daily後に時間を設けてソリューションを詳細に議論するように諭す必要があります。

このパターンを実現する上で、肯定的なサインがいくつかあります。"昨日この問題を見つけたんだが、どんな解決方法が考えられるのか、Dailyの後で話し合えないだろうか。では後で ..."
"今日はまず最初に<feature>に取り掛かる予定ですが、作業の前にみんなの意見を聞きたいと思っています。Dailyの後で、少し時間をください。"

多くの場合これは、チームメンバの時間がもっと必要であると同時に、議論や課題のすべてをDailyに持ち込むことは避けたい、というシグナルです。

こっち向いて!(Loot at me!)

定義

Daily時間中、ひとりに注目し、報告する能力。

どのような状況か?

一部のチームでは、Dailyをひとりの人が仕切ることが習慣になっています。通常これは、SMやPO、マネージャ、あるいは(シニア開発者がチームにいる場合には)ひとりの開発者です。他のチームメンバは、最新情報をチームで共有するというよりも、権威者と見なされる人に状況を報告することになります。

SM/PO/シニア開発者が状況を聞いて、"よし!"、"よくやった!"などと返答するようになると、状況はさらに悪化します。Dailyがリーダを満足させるための報告会になるのです。

何が問題か?

このパターンは、かつて開発者がミーティングでマネージャに状況報告をしていた、旧式のアプローチによる古い習慣が発現したものです。スクラムやアジャイルでは、一般論としてチームにマネージャはいません。全員が自分自身のリーダなのです。

対処方法

Dailyはチームメンバからチームメンバへのものであり、目標達成のための情報統一を図るためのものであることを、スクラムマスタが今一度、チームや個々人に対して明確にする必要があります。SMが参加者の目から"隠れて"、状況報告中のアイコンタクトを意図的に避けることによって、報告がチーム全体に向けられるべきであることを示す、という方法も考えられます。

ここで、"バードウォッチャ(Bird Watcher)"のパターンについても述べておきましょう。チームの中には、同僚と会うことが苦手な、内向的なメンバもいます。そのような人たちは、状況を報告する時に周りを見回したり、窓の外を見たりすることがよくあります ... そうした行為を注意することも可能ですが、他の人たちとアイコンタクトを取ることを非常に苦痛と感じる人への配慮が必要です。

ゲームをする

過去の経験から、とにかくスクラムマスタに"教えられる"のがいやだ、と考える人がいることに気が付きました。そこで、Dailyの機能不全を面白おかしく表現できるようなゲームを利用して、チームの自己組織化を支援することを考えました。

このThe Daily Stand-up Gameには5枚のカードがあって、それぞれに問題状況が記されています。これをスクラムマスタなどがDailyミーティングに持ち込んで、ミーティングの進行に問題が発生した場合に、それに対応するカードを提示するのです。チームがカードを内容を理解したのならば、スクラムマスタはそれをチームメンバに渡して、問題状況のどれかが発生した時にお互いを"キャッチ"できるようにします。

例えばDailyで、ある開発者が第3の質問への回答を忘れたとします。スクラムマスタは彼にスーパーマンのカードを示して、みんなが笑う、という具合です。渡された人の反応は、"そうさ、今日の僕は無敵なんだから、問題なんて何もないよ!"というようなものでしょう。次の状況報告では、たとえ何の障害もなくても、他のチームメンバが第3の質問に答え忘れることはなくなるはずです。

別のチームでこのゲームを試した時、次のようなメリットのあることが分かりました。

  • Dailyミーティングが面白くなる

Dailyは1年に220回程度行われます。2つのチームを抱えていれば、その2倍です。第3の質問に何度も何度も答えるのは、どのチームにとっても大変なことかも知れません。ゲームを導入することで単調さをなくして、新たなエネルギを吹き込むことができます。

  • アジャイルコーチに指導されるのではなく、お互いに修正し合うというのは、チームメンバにとってもハッピーなことです。

チームメンバが5枚のカードを記憶すれば、チームメンバ同士で間違いを訂正できるようになるでしょう。Dailyをよくするための責任を相互に持つことは、自己組織化の実現につながります。

  • 隠れたトレーニングになる

Daily Cardを運用するのは、Daily改善の短期トレーニングセッションを受講するようなものです。ですからゲームの導入は、スクラムマスタにとって一石二鳥ということになります。

  • 同僚を"キャッチ"するために、互いの発言にこれまで以上に注意を払うようになった、と全員が言っています。

ゲームの大きなメリットのひとつは、Dailyでの同僚のパターンや"フレーム"を認識することが、チームにとって積極的なリスニングの練習になる、という点です。チームメンバが最新情報により多くの注意を払うことによって、Dailyの目標の達成が可能になるのです。

ゲーミフィケーション

Daily Stand-up Gameは非常に簡単なゲームなので、いろいろな方法で応用が可能です。

  • SMが導入したカードを、3日後にチームメンバが引き継いで、カードを互いに示し合う方法。
  • SMが導入したカードを、3日後にチームメンバがそれをチーム内で分け合う方法。チームの一部が数枚のカードを所有し、その他がカードの残りを所有するようにします。ひとつのグループが指摘できる問題状況が限定されるため、チームの注意度や責任はより高くなります。
  • ゲーム中、カードを示されたメンバに、壊れたハートマーク(broken heart)あるいはポイントを与えるようにします。同じように、カードを提示したメンバにも、ポイントあるいはハートマークを与えるという方法もあります。ポイントやハートマークを数えて、週末に勝者を決めるのです。
  • SMがポイントやハートマークを追跡して問題行動の最も多かったメンバを見つけ出し、フィードバックセッションでフォローアップすることもできます。

ゲームがあれば、全員が勝ちたいと思うので、Dailyがそれまでよりも面白くなります。さらにカードは、面白い方法で問題に気付かせたり、安全でない行為について議論する安全な場所を作り出す効果も持っています。ただし、ゲームのできるような楽しい環境を作り上げて、それをチームに引き渡すのはスクラムマスタの責任です。

変化を試すことのできる安全な場所で、建設的なアクティビティを導入することを通じて、チームが自分たちの行為あるいはプロセスを改善する方法を学ぶために、ゲームは優れた方法です。ただし、ゲームベースの学習を導入する前に、関係者がゲームの使用に寛容であること、希望しない人には参加しないという選択が可能であること、この2つを確実なものにしてください。

Daily Stand-up GameはOpen Source Agreement下でライセンスされていて、だれでも自由に使用することができます。こちらから無償でダウンロードして、自身のチームでテストすることが可能です。

著者について

Raluca Mitan氏はアジャイルコーチ、トレーナ、イノベータ、学習者です。アジャイルにトライする組織をサポートし、チームやマネージャとともに作業改善に取り組むことによって、カスタマをハッピーにしたいと願っています。氏は現在、ゲームベースの学習と、ゲームを通じた行動の変化や新たな作業方法の教育に注目しています。

Rade Zivanovic氏はアジャイリストで、企業やチーム、同僚や友人、時には家族や(容認されるならば)ペットをコーチしています。氏は2010年から、愛情を持ってアジャイルに取り組んでいます。氏は自身のキャリアを開発チームで始めているので、教えられる側の気持ちも十分に理解しています。人々を支援し、彼らの成功を見届けることが氏の喜びです。

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