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自己組織化チームとは何か?

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原文(投稿日:2014/07/18)へのリンク

最良のアーキテクチャ・要求・設計は,自己組織的なチームから生み出される” – アジャイルソフトウェア開発宣言(Agile Manufesto)の一節です。ここから,いくつかの疑問が生じます – 自己組織的なチームとは何なのか? なぜ必要なのか? どのような違いがあるのか? 自己組織化をサポートするにはどうすればよいのか? この特殊なチームワークの実現を促すには,どのような方法があるのだろうか?

“自己組織化チームとは何なのか”,“自己組織化を効果的に支援するにはどうすればよいのか” ということを扱った資料は,意外なことに,それほど多くありません。組織開発コンサルタントのSigi Kaltenecker氏とアジャイルコーチのPeter Hundermark氏は,2014年後半にInfoQより出版予定の “Leading Self-Organising Teams” という小冊子を執筆中です。

この記事はそのトピックと読者とを結ぶ,一連の記事の初回にあたるものです。“自己組織化チームとは何か?”から始まって, “自己組織化チームはなぜ必要か?”,そして“自己組織化チームへと導くものは何なのか?” へと,今後数週間にわたる連載を予定しています。

自己組織化チームとは何か?

“知識労働者は,自らを管理しなければなりません。自主性を持つことが必要なのです。” リーダシップの権威である Peter Drucker氏は,著書 “Management Challenges for the 21st Century” (邦題: 明日を支配するもの) の中で,このように述べています。

これは,アジャイルの発想である “自己組織化チームは作業を成し遂げるための最善の策を,チーム外部からの指示ではなく,自らが選択する”(スクラムガイドより) ことに通じるものがあります。 ところで,自己組織化チームとは何なのでしょう? そもそも自己組織化とは何でしょう? 個人の集まりとしてのグループをチームと認める,その基準は何なのでしょうか?

最後の疑問から始めることにしましょう。チームとは何か? チームの専門家であるJ. Richard Hackman氏と同じく,私たちにとっても,多くの場合,まったく明確ではありません。これは自分の望むものをそこに見出すという,一種のロールシャッハテストのようなものです。チームに対する考えや意見が違えば,心に思い浮かぶものも違ってきます。現実のチームは多くの場合,いわゆる共同作業グループと混同されています。共同作業グループが互いに近距離で作業していても,それぞれの仕事を実施する上での依存関係がないことに対して,真のチームには4つの特徴があります

  • 第1に,切実な使命を果たすための共同作業。
  • 第2に,情報の流れ,他の組織的単位との整合性,リソース,意思決定方針といった面での明確な境界
  • 第3に,この境界内において自己管理の権限,そして
  • 第4に,合理的な期間にわたる安定性

さらに,すべての組織単位は,次に示す4つの職務を果たさなければなりません。チームの権限範囲を決定するにあたっては,それぞれの職務を扱う上で誰が最適の位置にいるのか,十分に考慮する必要があります。

  • チームの方向性の設定,すなわち,組織の目標やコアとなる目的,使命といったものを見据えながら,多数のタスクへの細分化を行います。
  • 実行単位の設計と作業に必要な組織的サポートの手配。タスクの構造化,実施に当たって誰が関与するかの決定,作業行為のための行動規範の確立,チームメンバが自身の作業を実行する上で必要なリソースや支援の確保などを行います。
  • 作業プロセスの監視および管理,すなわち,作業の進捗状況に関するデータを収集して解析し,必要に応じて適切な対応策を開始します。
  • 作業の実施,すなわち,タスクの遂行に物理的ないし精神的エネルギーを適用します。

このような中心的職務をマネジメントあるいはチームの責任領域に割り当てることによって,Hackman氏は,チームの自己組織化レベルを区別するための権限マトリックスを描いています。(図1)

図1: 権限マトリックス

世界が黒と白だけではないように,自己組織化の形態もただひとつではありません。私たちにとって自己組織化とは,どちらかといえば連続体を包括的に表す言葉なのです。

  • マネージャ主導型チームでは,チームメンバには単にタスク実行の権限のみが与えられ,作業プロセスの管理やコンテキスト設計,方向付けはマネージャが行います。私たちが見る限り,機能的サイロを形成する専門家グループや,従来的なプロジェクト管理“チーム”の多くが,この形式の実例になります。
  • 自己管理型チームではメンバに対して,タスクの実行だけではなく,進捗の管理についても責任を与えます。ITでは,チームのタスク,あるいはチームを越えたバリューストリームを重視するかんばんチームに,このアプローチの適用が多く見られます。
  • 自己設計型チームはメンバに対して,チームのデザイン,および/またはチームが運営される組織コンテキスト面での変更を行う権限が与えられます。ほとんどのマネージメントチームに加えて,特にリーン/アジャイルで高いレベルに達したスクラムチームの一部がこのポジションにあります。
  • 自己統治型チームでは,企業の取締役会や労働組合,新興企業で見られるように,4つのコア職務すべてについて全メンバが責任を持ちます。

このように構造的な違いはありますが,それでもすべての自己組織化チームに共通する基準がいくつかあります。 “The Science of Self-Organization and Adaptivity”の著者Francis Heylighen氏によると,すべての自己組織化チームは次のような特徴を備えています。

  • コントロールの分散化,すなわち集権的管理が存在しない。
  • 変化する環境への継続的な対応
  • 局所的なインタラクションから発する創発的構造
  • 肯定的ないし否定的なフィードバック
  • システムの修復および調整能力を源泉とする復元力

Heylighen氏は,1947年にサイバネティクス専門家Ross Ashby氏が考案した “自己組織化の動的システムの原理(principle of the self-organising dynamic system)”をオリジナルに引いて,自己組織化とは,当初は無秩序であったシステムにおいて,コンポーネント間の局所的なインタラクションから全体的な秩序が生み出される自然なプロセスの一種である,ということを,私たちに理解させてくれます。それゆえに自己組織化とはルールであって,体系的行動の例外ではありません。 アジャイルの世界においても,それは“新鮮な空気の呼吸”(Ken Schwaber氏)でもなければ,“秘密の源泉”(Jeff sutherland氏)でもないのです。

私たちが用いているファッショナブルなメタファに相反して,自己組織化とは,多くのさまざまなシステムに適用可能な法律なのです。神経科学から物理学,化学,生物学に至るまで,事例は幅広く,さまざまなものがあります。例えば脳は,接続されたすべてのニューロンによって,ひとつのコントロールに依存することなく精神モデルを構築しています。アスペンのような植物の林は,既知のものとしては地球上で最大の生物組織ですが,それぞれの木が同一の地下茎でつながれています。鳥の群れ,ヘラジカの集団,羊の群れなどは,同期を取りながら行動を共にします。危険を避けたりコースを変更したりする様子は,あたかも1匹の動物であるかのようです。さらにアリは,一見ランダムな動きの中にも,食べ物を見つけるシステムを構築しています。

これらの知見から,私たちは,どのような結論を導き出すことができるでしょう? 体系的行動の法則は,ビジネス環境における自己組織化チームにとって何を意味するのでしょうか? まず第1に,自己組織化チームは一夜にして成らないことを忘れてはなりません。さらに自己組織化は,一旦起きればその領域内に永遠に残るというものでもありません。事実として,チームの自己組織化プロセスに終わりはないのです。感知呼応型の手法を持って,継続的に自らを再組織化することで,要件やコンテキストを変え続けなければなりません。要するに自己組織化とは,継続的なプロセスなのです。状況が変化すれば,すべてのプロセスをもう一度実施する必要があります。

自己組織化とは,単に,独自の組織的コンテキストに全体が収まったチームのことをいうのではありません。何をすべきか,どのようにすべきかを理解するために,チームメンバ個々が自己組織化していなければならないのです。そして毎日,チームの全員が,自分自身の自己組織化を他のメンバと調整する必要があります。“デイリースタンドアップ”, “オペレーションレビュー”, “レトロスペクティブ”など,定期的なミーティングを実施するのはそのためです。

すべての自己組織化チームに共通するもう一つの柱は,類似性と相違性の巧妙なバランスの上に構築される,ということです。逆説的な言い方をするならば,チームメンバ個々の違いを効果的に活用するためには,各メンバが十分な類似性を持つことが必要なのです。ドイツのシステム思想家であるDiether Gebert氏は,革新的なチームを対象としたデータ駆動型サーベイの結果を公表しています。それによれば,チームの最初の段階において,メンバ相互がある程度の信頼感を持つことが必要です。事前にあるレベルの信頼がなければ,メンバが個人のバックグラウンドを探ることも,現在の作業プロセスを調査して対応することもできません。その他には,感謝と謝礼の適当なバランス,そしてフェアプレイも,自身の能力を向上する上での重要なファクタです。礼を欠くことは社会的な手抜きと同じように,自己組織化をも台無しにするのです。

自己組織化チームがその可能性を最大限に発揮する上で,効果的なインタラクションが必要なことは疑いありません。Russell Ackoff氏がシステム一般について言っていることが,チームにも当てはまります – パフォーマンスは “構成要素それぞれのパフォーマンスの総和ではなく,それらの相互作用が生み出すもの“ なのです。しかしながら,すでに見てきたように,自己組織化とは,チームがすべてを自ら決定するようになるという意味ではありませんし,自己組織化チームに境界線がない訳でもありません。むしろ自己組織化には,期待と責任の明確化が必要なのです。Glenda H. Eoyang氏はその画期的な記事 “Conditions for Self-Organizing in Human Systems“ の中で,自己組織化プロセスが首尾一貫したパターンを作り出すために必要となる,3つの条件を指摘しています。

  1. システムを囲んでそのアイデンティティを定義する包含境界(C)。簡単にいうと,“それ以外”と明確に分離されていなければ,明確な“自己”は存在し得ないということです。このようなコンテナ(境界で囲まれた領域)は,明確なミッション,説得力のある方針,挑戦的な目標,運用上のガイドライン,明確な意思決定ポリシといった組織的な柱で成り立っています。
  2. 知識や経験,教育,年齢,性別,文化的背景などの重要な違い(D)。高いパフォーマンスを持つチームは,チームの多様性を認知し受容する方法,それらを踏まえた上で変化を生み出す方法を知っています。
  3. チーム内および外部環境とのインタラクションの指針となる変化の交換(E)。Eoyang氏によると,独立した人々ないしユニット間で行われる,このような情報,エネルギ,物質の移動は,自己組織化をシステム全体のパターンとする上で重要な能力です。

ここでいう境界とは,単なる制約とはまったく違います。境界は常に,そこにコミュニケーションの機会があることを示しているのです。境界そのものは,両方向で効果を有しています。Margaret Wheatley氏の言葉を借りるならば,“自由な意思決定が可能で,参照に値する明確な組織的アイデンティティの支援があれば,システム全体はさらに強固で一貫性のあるものになります。コントロールの少ない組織ほど,秩序があるのです。”

このCDEモデルの各ユニットは,より大きなシステムの一部であると同時に,それを取り囲むコンテキストからは独立しています。Hackman氏の比喩的な表現によれば,“巧みに設計された作業チームが苗木とすれば,組織的コンテキストはそれを植え付ける土壌です。成長して実を結ぶために必要なのは,それに栄養を与える環境なのです。” もう少し比喩的でない言い方をすれば,自己組織化チームのコンテキスト面でのサポートは,基本的に4つのサブシステムから構成されています。

  • 情報 – メンバが作業の適確なプランを立案して実行する上で,必要なデータをチームに提供するため。
  • インフラストラクチャ – 適当な物理的空間(共同設置チームの多くが苦労している)や技術的インフラストラクチャ,資金という意味において。
  • 教育 – チームが必要とする可能性のあるすべてのトレーニングやコーチング,技術支援という観点から。
  • 報償 – 肯定的,経済的な意味に加えて,優れたチームパフォーマンスを象徴する結果として。

ここでEoyang氏の自己組織化モデルを振り返れば,コンテナや違い,交換,コンテキストがどのように協働するのかを,シンプルな図で描くことができます。

図2:拡張CDEモデル

図2のさまざまな大きさと形状,中心色を持った要素は,それぞれ異なったバックグラウンドと長所,スキルセットを備えたチームメンバを表現しています。要素を結ぶ矢印で示すように,メンバは相互に結び付いていて,頻繁な意見交換やコミュニケーションによって機能横断型のチームを形成します。チームのインタラクション全体は境界線で囲まれます。部分的に破線なのは,このコンテナがクローズシステムではなく,開かれたものであることを示しています。外部環境から見たチームは決して旧態依然としたブラックボックスではなく,それを取り巻く環境に依存しています。彼らはインフラストラクチャ,情報,教育,そして報償のサブシステムとして存在するという意味で,周囲のサポートを必要としているのです。そのためにはサポートを担当する,この図では米印のシンボルで示されている外部エージェントが必要です。これがラインマネージャの役割です。

チームの相互依存については,簡略化のために図では省略されています。ですが,バリューストリームや顧客重視の必要性,組織としての意識といった面で,チーム間のつながりは自己組織化プロセスの鍵となります。

結論

私たちはここで,真のチームは価値のあるミッション,明確な境界,自己管理と安定のための権限を備えていることを見てきました。チームの自己組織化はチームメンバの類似性と相違性の微妙なバランスの上に作られるということ,自己組織化には明確な境界とサポートするコンテキストが必要であること,自己組織化は分散管理,継続的な対応,創発的構造,フィードバック,復元力といったもので特徴付けられている,ということも分かりました。そして最後に,自己組織化には長い時間が必要なことも理解しました。

このシリーズの次の記事では,“自己組織化チームはなぜ必要か” を検討する予定です。

参考資料

  1. Beck, Kent, et al: Agile Manifesto (2001). http://agilemanifesto.org/
  2. Drucker, Peter: Management Challenges for the 21st Century. HarperBusiness (2001).
  3. Eoyang, Glenda H.: Conditions for Self-Organizing in Human Systems (PhD dissertation, 2001). http://www.hsdinstitute.org/about-hsd/dr-glenda/dissertation.html
  4. Hackman, J. Richard: Leading Teams. Harvard Business School Press (2002).
  5. Hackman, J. Richard: Collaborative Intelligence. Berrett-Koehler (2011).
  6. Heylighen, Francis: The Science of Self-Organization and Adaptivity (2001).
  7. http://pespmc1.vub.ac.be/Papers/EOLSS-Self-Organiz.pdf
  8. Wheatley, Margaret J.: Leadership and the New Science. Berrett-Koehler (2006).

著者について

Sigi Kalteneckerは,ウィーンでLoop Consultancyの共同マネージングディレクタを務め,個人やグループ,企業を対象に,プロフェッショナルとしての課題克服を支援しています。氏は認定スクラムマスタでカンバンコーチングプロフェッショナルであり,PAMの共同編集者です。共同執筆した書籍 “Kanban in IT: Creating a culture of continuous improvement” は,2015年に英語版の発刊が予定されています。氏への連絡は@sigikalteneckerまで。

Peter Hundermarkは認定スクラムコーチでトレーナであり,Scrum Senseではカンバンコーチを務めています。氏は組織開発や変更管理,リーダシップ開発を中心として,実務の世界にアジリティを導入するための支援を行っています。“Do Better Scrum” の著者でもあります。連絡は@peterhundermarkまで。

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