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Gartnerの提案した”Emergent Architecture”に対する反応

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原文(投稿日:2009/08/26)へのリンク

今月ロンドンで開催されたGartner EA Summitにおいて、エンタープライズアーキテクチャ(EA)に対する新しいアプローチとして創発的アーキテクチャ(Emergent Architecture)がGartner社から提唱された。Burton Group社のMike Rollings氏によるとこのアプローチは新しいものではなく、単にGartnerによって日の目を見ただけという。Dion Hinchcliffe氏はITとビジネスの間を取り持つ方法を指すと考えている。

Gartnerでリサーチ担当バイスプレシデントを勤めるBruce Robertson氏は創発的アーキテクチャをこう説明している。

「枠でなく線を設計する」、これは単にビジネスの部分部分を管理するのでなく、特にビジネスの相異なる部分部分のつながりを管理するということです。

もう一つの大きな特徴は、全ての関係をインターフェースを介した相互作用としてモデル化する点です。全てというのは、手書きの招待状を郵便で送る、というような非形式的だったり手作業だったりする事柄から、VISAネットワークを介したクレジットカード決済のような高度に形式的で自動化されたものまで含むからです。

Gartnerは創発的アーキテクチャの7つの特質をまとめている。

1. 非決定的 - これまでエンタープライズアーキテクトは成果を計画するために中央集権的な意志決定法を用いてきました。創発的アーキテクチャを使うと、イノベーションを実現するために分散型の意志決定をおこなうように変わります。
2. 自律したアクター - かつてのようにエンタープライズアーキテクトがアーキテクチャの全ての面をコントロールすることはできなくなりました。これからはより大きくビジネスの生態系を認識して、コントロールを各組織に委譲しないといけません。
3. ルールのあるアクター - これまでエンタープライズアーキテクトがEAの全ての面について詳細な設計をしてきましたが、これからは最低限のルールを決め、その中で選択ができるようにしないといけません。
4. 目標指向のアクター - かつては企業目標だけが唯一の目標でしたが、今では各組織にとっての最善の結果を出すことが目標になってきました。
5. 局所的影響 - アクターは局所的なやり取りと限られた情報に影響されるものです。アクターのコミュニケーション世界でのフィードバックによって個人の振る舞いは変わります。どの個人アクターも創発的システムの全てについて情報を得ることはできません。それを段々と調整するEAでないといけません。
6. 動的システムあるいは順応システム - システム(個人アクターや環境を含む)は時間とともに変わります。創発的システム全体の方向性を設計し、環境で起きた変化に対応できるようなEAでないといけません。
7. リソースの制限された環境 - リソースが豊富な環境では創発は起きません。むしろ不足することで促進されるのです。

アーキテクトは「制御の反転(Inversion of Control、IoC)」を受け入れるように求められている。

これまではアーキテクトがEAの決定を全てコントロールしてきましたが、現場では今より自律を求めていることを受け入れなければいけません。社員は個人のデバイスを使いたがっている、パートナーとサプライヤの境目がなくなってきている、顧客は自分たちの買った技術について情報を求めている、監査機関がより情報を求めている、そういったことを理解しないといけないのです。

Burton GroupのEA研究主任を勤めるMike Rollings氏は、Gartnerがついに「眠れるEA」を目覚めさせたと考え、先の7つの特質についてこうコメントしている。

1. 非決定的 - 有能なエンタープライズアーキテクトたちはいつだってイノベーションを生むために意志決定の分散化を進めてきました。

2. 自律したアクター - エンタープライズアーキテクトはいまだかつてアーキテクチャの全ての面をコントロールできたことはありません。

3. ルールのあるアクター - もしエンタープライズアーキテクトたちがEAの全ての面について詳細な設計をしたとしたら、海を蒸発させること(多くの大きな問題を解決しようとする無駄な試み)で身動きがとれなくなり、まったく無力になってることでしょう。

4. 目標指向のアクター - Gartnerはこのことを忘れています。ビジネスの結果に焦点を当て、ビジネスの運用モデルの明確なビジョンを持つことは重要なことです。

5. 局所的影響 - EAはいつだって振る舞いが容易に変化できるようにすることを必要としてきました。プロジェクトにEAを適用する時は特にそうです。強制は必ず失敗へとつながり、コラボレーションこそが成功へと導きます。話は変わりますが、Burton Groupが社会学やその他の学問に関心を持っているのも、人間の順応と学習について理解しようとするためです。

6. 動的システムあるいは順応システム - 変化に対応する。これはJohn Zachman氏が60年代から言っていることではなかったでしょうか。

7. リソースの制限された環境 - 不景気だということにようやく気付いただけではないでしょうか?どこも今以上のことをするように変化を迫られています。

Rollings氏は(Enmergent Architectureという)新しい用語はいらないのではとしばし考えた後で、アーキテクトたちに対していくつかの提案をしている。

掟破り:ポリシー、標準、その他ルールを再検証しましょう。それらがビジネス成果につながっていることを明確にし、みなさんが管理したいもの・する必要があるものを確認しましょう。もしルールが破綻しようとしている場合、古い考え方のルールであったり何か別のものが必要とされている表れである可能性があります。うまくいってない既存のルールはあなたにとって重要なものかもしれませんが、本当のコラボレーションというのは共通理解をもたらすものです。転換の時、前提を疑う時が告げられているのです。仮定、無気力、その他幻影は現状維持しようと働き、変化を起こす議論の障害となります。イノベーションと敏活の欠如である停滞は、みなさんが自身の幻と一緒になってしまう時に起きるのです。

起業家精神:新しい機会を模索することは価値の創造に欠かせないことです・・・ITの価値はビジネスへの寄与に対して直接的である時に生じます。

自己教育:そう、知識を広げることは人にとって重要なことです。しかし全ての知識を蓄えないといけないと考えることはありません。さまざまなアイディアを取り入れ、元気かつ尊敬の念をもって協働し、存在するさまざまな観点を活用できるようになりましょう。アーキテクチャはアクティブなスポーツのひとつであり、成功するためには広くコミュニケーションとコラボレーションをする必要があるのです。

結びつき:もし何か一つだけ肝に銘じてほしいとすれば、EAが停滞する主な理由は十中八九影響力がないことにある、ということです。問題に関心がある場合に会話を進めるには、なされるべき議論が誰によってなされるべきか考えるようにしましょう。そうすれば話を聞いている人たちに分かってもらいながら問題を語ることができることにつながります。また、人間がどのように理解し学び記憶するかを知るほど、組織の行動を変えるのにつながる新しい道筋が開けることに気付きました。社会であれ組織であれ個人であれ、変化の中心になるのは行動なのです。

革新的である:変革と新しい考えを奨励しましょう。状況が根本的に変わった時、変化に対応しましょうと改善を積み上げるくらいでは変革に至りません。・・・同じことをし続けることを提案してくる固執者が現れたら用心しましょう。そうすれば新しい結果が生まれます。

明確なビジョンをもつ:みなさんの組織が未来を創造するのを助けましょう。Alan Kay氏は「未来を予測する一番の方法はそれを創ってしまうことだ」と言っています。ゲームオーバーになるのを待ってはいけません!ビジネスの成果に関わり、その依存、影響、制約を理解するのです。リーダーとなり、チームプレーヤーとなり、参加して協力するのです。

エンタープライズアーキテクトでビジネスストラテジストのDion Hinchcliffe氏が書いたEAにおける新しいモデルについての記事によると_、Gartnerは「このトレンドを読み解き始めただけにすぎない」、しかしRollings氏とは違う創発的アーキテクチャに対するアプローチをしようとしているという。

世界中のIT部門およびビジネスユニットで、創造・変化・順応が継続的・結合的におこなわれるビジネスプロセスに根本的に織り込まれるテクノロジにおいてより密接で新たな関係が徐々に形成されつつあります。多数存在する技術文化の草の根運動のように、この形成はまだ名前付けされたものではありません。しかし一部ではそれを創発的アーキテクチャと呼び出しています。

この変化の最初の兆しが感じられたのは数年前にアジャイル開発プロセスが降臨した時でした。それに続いて表れたマッシュアップ、ユーザが配布可能なウィジット、バッジ、ガジェットの流行も含まれます。これらの技術アプローチは新しいビジネストレンドと結びつきました。これはソーシャルコンピューティングとエンタープライズ2.0が共存するようになって顕著になりました。組織内で暗黙のやり取りやプル型のシステムがボトムアップ的に追いやられたのはその一例です。

その結果生まれたのが技術駆動のビジネスソリューションとより順応的な技術要素を生み出す新しい環境です。ここでのビジネスソリューションは、リッチな情報と基本指標を持つよりオープンなコミュニケーション法をいくつも利用するものです。また技術要素はWeb 2.0世界にたびたび強い影響を受けたものです。

Hinchcliffe氏は創発的アーキテクチャの6つの側面について説明をしている。

1. コミュニティ駆動のアーキテクチャ - 組織内におけるオンラインコミュニティの拡大は、労働者が一緒になってずっと臨機応変なやり方で問題を解決し、以前よりはるかに速く変化と機会に対処することを可能にしつつあります。技術的なアーキテクチャ自体も社会環境の中でビジネス的なアーキテクチャと以前に比べはるかに高いレベルで融合しつつあります。これはソリューションに関与する人たちの構成がコスモポリタンなものになり、より広範で非技術的なインプットが増えたことを反映しています。

2. 自律したステークホルダ - 労働者およびプロジェクトはビジネスを創りデザインし利用する技術を決定することに関してかなりの自由を持っています。組織の中枢は欠かすことのできない要件が満たされているかを確認するために現場を監視・干渉すること、時には立ち入ることを、今の技術によって簡単におこなうことが可能です。もしできないのであれば発展の途をはずれることになります。

3. 順応的プロセス - リアルタイムの情報の流れを伴って絶え間なく激しく動く今日の環境では、ビジネスも突然現れる状況の変化に素早く対応することが求められます。この変化は大きな影響力があると同時に従来のソリューション開発速度では対応できないものです。順応的プロセスは変化を重要なインプットとして扱います。さらに突然の混乱、その他の例外的インプットがあること、あからさまな妨害ですらも通常のこととして考えます。重要になるのは、外部の変化に適切に対応するための軌道修正を頻繁におこなうことを柔軟に導入することです。これにより複合的な新しい結果が表れることがよく起きます。その結果は裸にしてバラバラにしてから取り組むことになります。

4. リソース制約 - ウェブスタートアップ企業によって、過多のリソースは莫大な浪費を生むどころか加速すらすることが分かってきました。少ないリソースは問題解決において再利用、コラボレーション、共有、イノベーションを後押しします。余分なリソースは、自律、自ら創り出すという思考、創発的成果を引き出すモチベーションを促すためのケアをします。「less is more(少ないことは豊か)」という決まり文句は、情報が豊富になり、かつリソースのバランスが取れた環境ではかなり的を射たものでしょう。

5. 分散型ソリューション - 創発的アーキテクチャを適用した結果、システム間で調和が取れ、多くのデータソースとその他価値ある組織属性(特に人)を取り込んだソフトウェアソリューションができる傾向があります。そのため既存リソースをベースにして新しいビジネス課題を解決するために、マッシュアップや軽量であり高度に複合されたSOAソリューションが出てくるのは自然なことです。サイロ(外部とやり取りを行わない状態・場所)はそれでも生じ、政治的な勢力争いで全体的進歩を妨げることもあります。しかし創発的アーキテクチャにとって好ましい環境になるほど、それらの障害が生まれにくくなります。

6. 創発的成果 - 従来の監督されたITソリューションによる高度に決定的な成果は、より多数のより小さなソリューションによって変わりつつあります。それらのソリューションはより分散して、また組織的な方法ではあるものの有機的な方法で巨大な問題に立ち向かいます。

Gartnerがプレスリリースで述べた創発的アーキテクチャという用語やそのいくつかの特質は目新しくはないものの、ITとビジネスの間を取り持つプロセスは世界中で生まれようとしている。

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