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作業環境における神経多様性

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原文(投稿日:2015/03/23)へのリンク

Sallyann Freudenberg博士はQCon Londonで,作業環境における神経多様性について講演した。プログラミングは複雑で創造的な作業だ。Freudenberg博士は,プログラミングを行うプログラマが一般的に使用している,数多くの技術について検討した。例えば,

1. チャンキング: 我々が短期記憶に保持できるのは5~9個であるという,7 (+/-2)ルールを克服する。“ひとつひとつの事をそれぞれスロットに入れる代わりに,ポインタを入れるようなもの”だと,Freudenberg博士は説明する。例えば,チェスに関する研究は多数存在するが,その中のひとつ,Chase,Simon両氏による研究によれば,熟練したチェス競技者は,短期記憶の各スロットには“シベリアントラップ”(訳注:チェスの手筋のひとつ)などへの参照を格納しておいて,その内容は別の場所に記憶することができる。

“このようなことが行われていると私たちが確証したのは,例えばチェス盤と普通のチェスで使うすべてのものを取り出して,それを現実に起こり得る何とも似ていないよう,完全にランダムに配置したところ,熟練者も初心者も同じ数の駒しか覚えていなかったという結果からものです。”

プログラマもソートアルゴリズムなどで,これと同じようなトリックを用いている。

2. ビーコン: Brookes氏は1983年,ソフトウェア技術のビーコンに関していくつかの研究を行った結果として,コードを芸術的レベルで磨き上げれば – 変数には素晴らしい名称が付けられ,すべてのものがエレガントに考え抜かれているならば,輝きが画面からあふれ出るようなシステムになる,という結論に達した。

3. スキーマ: Françoise Détienne氏は,自身の著書“Software Design - Cognitive Aspects”でこれを取り上げ,メモリに格納されている汎用的な概念を表現した,さまざまなデータ構造をプログラマが使用していることを指摘している。例えば次のコードは(同書より),

プログラマにはこのように見える。

4.階層分解: 問題に対して階層的に作業を開始して,その後により便宜主義的な方法に移行する,というのが本来の意味である。要するに,2つのアプローチのブレンドだ。

5. 暗黙知: “ソースコードを紛失した,コンパイルされた知識のことだと理解できます。”と氏は述べている。経験を通じて築き上げた知識であり,譲渡することは非常に難しい。

6. メンタル・イマジナリ: Marian Petre氏とAlan Blackwell氏は,プログラム設計とビジュアルプログラミングに注目した研究を行っている。氏らは設計者に対して,ある問題に取り組んで,何をしているのか説明するように指示した。彼らが黙っている場合は,説明を促した。技術者は,“それは言わば,ソリューションを第3次元に置いて,問題のすべての次元を2Dで説明するように求めているようなものだ”,といったような説明をするかも知れない。あるいは,ダイナミックなメンタルシミュレーションや,“心の中のマシン”的な説明をする可能性もある。あるベテランは,“大きくて密集した,マルチカラーのパイプでできた足場と,宙に浮かんだガジェット”と表現した。Temple Grandin博士のような自閉症スペクトラムを持つ人たちは,その多くが視覚的思考に頼っている。

1926年にWallisは,クリエイティブなプロセスに関与する4つのことを突き止めた。準備(Preparation),孵化(Incubation),解明(illumination),そして検証(verification)だ。クリエイティブな思考を妨げるものには,ストレス,脅威,時間的プレッシャといったもの以外に,さらに厄介な,既存のニューラルネットワークのようなものも含まれている。逆に促進するものとしては,目新しさや不調和,笑い,遊び(Portia Tang氏によるQConプレゼンテーションのテーマでもある)などがある。

ここから講演の話題は自閉症へと移る。このテーマは,博士の息子が1年前に自閉症と診断されたことにより,それ以降,より博士の関心の対象となっている分野だ。Grandin博士のGoogleでの講演での一コマを示しながら,博士は,“もしも自閉症的傾向の人をすべて排除してしまったら,新しい社員を採用することはできなくなるでしょう”,と述べた上で,プログラミングとSTEM訓練,自閉症スペクトラム障害の深い相関関係の存在を示唆する,数多くの研究成果を指摘した。

  1. “自閉症は物理学者,エンジニア,数学者の家族に多発する”,Baron-Cohen他,“Autism”,1998,p296-301
  2. “自閉症スペクトラム障害は,技術分野を職業とする両親と関連性がある”,Windham他,“Official Journal for the International Society for Autism Research”, 2009年8月2-4,p.183-91
  3. Roelfsemaらは(2001年),ITの充実した地域の子供たちに自閉症が多く見られる点を指摘した。

自閉症の脳は,非常に特殊であることが多い。自閉症の人は,自身の専門家としての分野に強い関心を示す傾向があり,ほとんど百科事典に近い知識を持っていたり,あるいは“写真”的思考(直感的記憶のような)の持ち主であることも多い。しかしながら彼らは,重大な問題をいくつも抱えている。最も一般的な言語とコミュニケーション,社会的ないし感情的な問題(スケジュールの決まっていない時間帯やコラボレーション,アイコンタクトなどが苦痛であることなど),思考の柔軟性などといったものだ。

環境をより自閉症フレンドリにする,簡単な方法がいくつかある。

  • トークンによる会話: 各人の話す順番であることを明確に示すもの - 小さなジャグリングボールのような,グループ内で投げ渡すことができるものを使用する。トークンが手元にあれば,あなたが話す番だ。
  • 定期的なスタンドアップミーティング: 同じ時間,同じ場所,毎日同じ3つの質問で構成する。
  • ペルソナ: ある架空のユーザを念頭に置く。開発しているソフトウェアが自分たちのためのものではないことを,開発者が理解する上で有用なテクニックだ。

知覚処理障害(Sensory Processing Disorder)は自閉症やADHDを伴うことが多いが,そうでない場合もある。いずれにしても,知覚処理上の問題が独立して存在することがある。Freudenberg博士はそれについて,“現在置かれている環境に対する感受性の不均衡”である,と説明する。いずれかの感覚 – 聴覚,嗅覚,味覚,視覚,触覚,固有受容系(体が空間のどこにあるかという意識),前庭系(内耳経由のバランス)が過敏な場合もあれば,感受性が低い場合もある。

“このように多様な感覚に対して,どの程度敏感かはさまざまです。多様性を許容する場所を作るべきだ,というのが私の見解です。”と氏は言う。

例えば,私の息子が校長室に呼ばれました。いたずらだからではなく,ある評価のためにです。彼は何もしませんでした。時計の秒針が赤色で,始終"彼に対して叫んで"いたからです。騒音を好む人もいます。音楽や何らかのノイズなしには作業することができません。オープンプランのスペースはコラボレーションには最適です。ですが,このような場所が,必ずしもすべての人たちに合うとは限りません。オプションが必要です。場合によってはそこから立ち去ることのできる,静かな場所を用意することが必要です。選択肢が必要です。個人を特別扱いすることのない,安全で寛容な環境を提供することが必要です... これには(Ivan Moore氏からのアイデアの)ティー駆動開発がよいと思います。ティーを一杯用意して,問題の場所から離れ,問題について考えるのです。それからティーを飲んで話し合い,ペアプログラムで問題を解決します。

加えて私は,感覚に関する問題を扱う方法,あるいは何であっても,それをごく正常であるとみなすことのできる方法を提供するべきだと思います。例えば,“空間における自分の体の位置を再確立するために,何らかの回避策が必要だ”と言うよりも,“さあ,お茶をいれよう”の方がずっと簡単だと理解できるならば,それは素晴らしいことだと思うのです。あるいはオフィスの犬をなでながら,“私は触覚が不十分だから,タイピングを続けるには触覚のシステムを再構築する必要がある”と言う方が,はるかに簡単でしょう。

Freudenberg博士のプレゼンテーションは現在,早期申し込みを行った参加者に提供されているが,近日中にInfoQでも公開予定だ。スライドは現在でも利用できる。

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