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社内コーチとファシリテータによるアジャイル

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原文(投稿日: 2015/11/12)へのリンク

Agile Testing Days 2015でAndreas Schliep氏とPeter Beck氏が,社内コーチとファシリテータ(facilitator)を対象に,レベルアップのためのワークショップを開催した。InfoQは両氏にインタビューして,社内コーチとファシリテータが組織のアジャイル習熟度を向上させる上で持つ重要性やアジャイル導入への貢献方法,外部からコーチを導入することによるメリットとデメリット,社内コーチとファシリテータが効果的に作業するために行うべきこと,社内コーチが目指すべきキャリアパスなどについて聞くことにした。

InfoQ: 組織がアジャイル習熟度を高めていく上で,社内コーチやファシリテータが重要である理由について説明して頂けますか?

Beck: アジャイル組織は生産性が極めて高いのですが,その状態を維持するのは,F1レースカーなみに難しいのです。メンテナンスチームは,レースカーが正しく機能することを保証すると同時に,継続的な改良も行わなくてはなりません。アジャイルコーチやスクラムマスタは,アジャイル組織が成功を収める上で基本となる,いわばメンテナンスチームなのです。組織を機能させるだけでなく,向上させるための知識も持っていなくてはなりません。組織にはレースカーと同じようにそれぞれ独自性がありますから,最良かつ最も熟練したコーチングチームを備えた組織が,競争上の優位性を持つことになります。残念ながらほとんどの組織は,自分たちをBMWの乗用車のように扱っています。年に一度,一般のガレージで短時間の保守点検を行うだけなのです。確かにBMWは名車です,SAFeが優れたスケーリングフレームワークであるのと同じです。でもレースでは勝てないでしょう。
Schliep: 理由はたくさんあります。まず第1に,アジャイルコーチ – あるいはスクラムマスタ – は,ひとつの立派な仕事なのです。空き時間に,あるいは誰にでも,できるようなものではありません。その一方で,アジャイルメソッドが急速に普及したことで,それぞれに求められるコーチングないしファシリテーションを行う立場や役割といったものを,外部のコーチやコンサルタントで充足することができなくなっています。製品開発に3,000人が携わっている組織を想像してみてください。SaFEの提唱する控えめな数 – お勧めはしませんが – に従ったとしても,資格を有したスクラムマスタないしアジャイルコーチが,最低でも75人は必要になります。私はさらに,10人のチームに対して1人のコーチが必要だと思っています。たった1つの組織でこうなのです。ところで外部コーチは,一体どれくらいの人数がいるものなのでしょう?Scrum Allianceの調べでは,ガイドレベル認定保持者の数は200人にも足りていません。そこから推定すれば,納得できるレベルのコーチは世界中で2,000人,熟練したファシリテータは2,000人程度なのではないかと思います。コーチングやファシリテーションは特別なスキルセットです。さらに言うならば,他の開発技術と同じように評価され待遇されるべき,ひとつの専門技能なのです。

InfoQ: アジャイルを採用する場合,外部からコーチを導入する組織が多いのですが,そのメリットとデメリットについては,どのように思われますか?社内コーチが望ましいのは,どのような場合なのでしょう?

Schliep: 外部コーチはよいと思いますよ!さまざまな経験やスキル,アプローチを持った,魅力的な人たちです。私たち自身も外部コーチです!ですが,残念なことに数が足りません。増え続けているコーチングやファシリテータの需要を,外部コーチだけではカバーできないのです。それに私たちは,社内コーチのように組織内で経験を積むことができません。私たち外部コーチの役割は,チームやマネージャの作業を指導するものから,組織の乗数器的な仕事に変わってきています。コーチやファシリテーションを外部に求める傾向は,特に大規模な転換の開始時や重要な状況においては今でもありますが,多くの場合において,組織の変革とは,その組織に密接に関与する人たち,すなわち内部関係者が主導し,参加し,促進すべきものなのです。

Beck: アジャイル移行の多くは,外部の専門家が組織を離れてしまうと,すぐに元の状態に戻ってしまいます。理由は単純で,アジャイルの価値観や考え方といったものは,短期間では組織のDNAの一部にならないからです。システムの一部となる意思を持った人たちだけが,変革を長期に渡って定着させることができるのです。その一方で外部コーチは,組織に新たなアプローチ,知識,洞察といったものを受粉させる役割を担います。ただしそれは,ミツバチが花から花へ飛ぶように,ある組織での行動を別の組織に移しているに過ぎません。この2つを組み合わせた時,組織にとって最大の利益が得られます。つまり社内コーチの責任とは,この考え方に沿って,外部コーチの統合を管理することにあるのです。

InfoQ: 社内コーチはアジャイル採用にどのような貢献ができるのか,例をあげて説明して頂けますか?

Beck: つい最近のことですが, 私は今週,あるアジャイル移行チームのワークショップに,外部専門家の立場で参加しました。そのチームのスクラムマスタは社内コーチで,そのワークショップの準備と進行を受け持っていました。さらに彼は,移行アプローチの盲点を見つけるという,そのチームが求めていたものを,私が提供できるように手配もしてくれました。スクラムアプローチを実践したことで,その移行チームと社内スクラムマスタは,さまざまなことを学んでいたのです。ですから私は,自分がいなくても変革が続くと確信しています。ちなみにそのスクラムマスタは,講演でも紹介した“Work Study Program for Certified Scrum Professional”にも参加していました。

Schliep: Jimdoが好例ですね。プロセスは – かんばんでもスクラムでも,最適なものなら – 何でもよいので,それぞれのチームに1人,ファシリテーションの技能を持っている必要があります。Jimdoはこの技能を社内で組織的に管理しているのです。同社のファシリテータは主にレトロスペクティブを実施するのですが,それ以外のミーティングにも関与しています。これによって,コアとなる学習ループが効果的に実施されると同時に,チームが自ら向上することも可能にします。さらにファシリテータ同士も,自らの実践のためにコミュニティを作っているのです。

InfoQ: 社内コーチやファシリテータが自分たちの作業を効果的にするためには,何ができるのでしょう?

Schliep: プロダクトオーナにはビジネス的な,開発者やテスタには技術的なバックグラウンドが必要です。共同作業をする人であれば,社会科学の教養か,少なくとも最低レベルの知識 – いわゆる“ソフトスキル” – は必要です。社内コーチやファシリテータは自分たちの強みや課題を認識し,常に改善を追求しなければなりません。基本的なファシリテーションや可視化のテクニックから,意見対立への対処方法,さらには組織変革の理解や,それに対して影響を与える方法まで,幅広いスキルセットが求められます。

Beck: コーチとしての資質の有無は個人的な問題です。正直に言って自分自身,知識や経験の面からは,コーチとしての資質があるとは思っていません。アジャイルコーチになるには,組織やチームを支援できる自信を持っている必要があります。アプローチが間違っていたとしても,次のステップへ進んで,そこから学ぶことが,コーチとして今,必要なことなのだと理解しなくてはなりません。このように知識不足によって一歩引くべき時と,知識不足であっても堂々と振る舞うべき時が分かっているならば,アジャイルコーチの資格があると言えるでしょう。このトレードオフを理解しておくことが,自身の行動で他のメンバに影響を与えるために必要なのです。

InfoQ: 社内コーチとして想定されるキャリアパスは,どのようなものなのでしょう?

Schliep: ソーシャル,コーチング,ファシリテーションといったスキルと,組織的な知識,具体的な技術,ドメインあるいはビジネス経験とは別のものだと思います。社内コーチとしての基本的なスキルは,集中的なブートキャンプやジョブ,あるいは毎日の業務の中で継続的に時間を取ることでも,教育あるいは訓練することが可能です。さらに,いくつかのビジネスやコーチングなどの高度な資格指導をする中で明らかになったこととして,業務経験の反映の組み合わせ,集中的なトレーニングや仲間内での頻繁な交流といったものが有効であることも分かってきました。特にファシリテータやコーチの研修を受ける者同士の交流は,非常に重要だと思われます。社内コーチは,ビジネス事項の優先順序付けの難しさにどう対処するか,適切なエンジニアリングプラクティスを導入し改善するにはどうすればよいか,といった,基本的なファシリテーションの技術や,さまざまな状況に対応するアプリケーションの適用方法を学ばなくてはなりません。

Beck: コーチやファシリテータに対するニーズが一般化したことを反映して,一部の組織はすでに社内ファシリテータやコーチ,あるいは組織変革の専門家を有しています。彼らの専門知識をアジャイル移行にも活用すべきでしょう。同じことをもう一度繰り返す必要はありません。その一方で,アジャイルコーチとスクラムマスタは,今や組織における基本的リーダシップの役割を担うまでになりました。これまでは縁の下の力持ち的な役割だった既存の社内コーチの大部分は,この変化に圧倒されてしまっています。

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