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パラダイムを克服して真のアジャイルになる

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原文(投稿日:2016/07/07)へのリンク

真のアジャイルとは自分のあり方だ,アジャイルになるにはパラダイムを克服しなければならない – アジャイルマニフェスト(agile manifesto)起草者のひとりであり,Wemanity Groupの思想的リーダであるArie van Bennekum氏は,このような主張をする。その氏がSpark the Change London 2016で,新陳代謝(metabolism)としてのアジャイルについて講演を行なった。

講演で氏が述べたのは,“アジャイルを行なう”のではなく,“アジャイルになる”ことが成功を達成する上で必要である,という点だ。重要なのはパラダイムを克服すること,すなわち,アジャイルになるための正しい考え方こそが必要なのだ。アジャイルは,アジャイルマニフェストの価値と原則に基づいた,相互作用の概念である。テクノロジはアジャイル活動を促進するが,ツールがアジャイルを実現するのではない,とvan Bennekum氏は主張する。アジャイルとは,何かを実践することではなく,組織の適応性を向上するための変化なのだ。

アジャイルになることとアジャイルであることについては, 何人かの人が自身の見解を公開している。Vijaya Devi氏は,自身の記事“an organization development approach to agile adoption”の中で,次のように述べている。

アジャイルに関する誤った考え方の一例として,デイリースクラムやスプリントサイクル,レトロスペクティブなどのアクティビティを実行すれば,それでアジャイルになれると信じている人たちや組織があります。そうではありません。本当にアジャイルになることを望む組織は,自らの考え方を変えなくてはならないのです。

Ten Ways to Successfully Fail Your Agility”と題された記事では,Oren KdoshimとIlan Kirschenbaumの両氏が,アジャイルになるために必要なものについて説明している。

アジャイルになるのは大変な仕事です。少しあげただけでも,継続的なプラクティス,古い習慣の打破,新たな考え方の導入といった課題があります。アジャイルとは文化を変えることであり,それには組織のエネルギーの多くを投入する必要があるのです。

Mario E. Moreira氏とのインタビューの中でInfoQは,アジャイルであることのビジネスメリットについて氏に質問した。

最も大きなメリットは,顧客の価値がどのようなものであるかを真に理解できるようになることです。顧客価値の理解に極限まで集中し,小さな増分によるビルドを採用して,それを検証し,製品を改善していくことにより,提供する製品を顧客が価値を見出すものにダイレクトに一致させることができます。これ(開発する製品を顧客が価値を見出すものに直接一致させること)が達成できれば,企業として最終的な利益の拡大につながるはずです。もっともこれは,アジャイルにとっては決まりの悪い真実かも知れませんが。

Belinda Waldock氏は,自身の著書“Being Agile in Business”に関するInfoQのインタビューで,変化を予測し,不確実性の中を進む上で,アジャイルになることがいかに有効かを説明している。

私たちの作業や環境におけるトレンドとパターンを見る上で,アジャイルは役に立ちます。リズムやフローを理解し,将来起こり得る事態を予測することが可能になるのです。変化と不確実性に直面することで生じる苦痛に対してアジャイルは,対話を通じた情報や洞察の共有と促進という手段で対処することが可能です。予測できないものもありますが,アジャイルを使えば,そのような不確実性に対する計画をスタックに組み入れておくことが可能なのです。

InfoQはArie van Bennekum氏と対談して,アジャイルに関連してソフトウェア産業で起きた主な変化,パラダイムシフトの受け入れが難しい理由,アジャイルの価値と原則の実践やリーダシップの採用に関する成功事例,組織規模のコラボレーションの拡がり,アジャイル思想を組織に根付かせるためにできること,などの話題について聞いた。

InfoQ: あなたはアジャイルマニフェストの署名者のひとりですが,アジャイルに関してソフトウェア業界で起きた変化には,主にどのようなものがあると思いますか?

Arie van Bennekum: まず第1に,積極性な参加意識があります。今はどこへ行っても,どんな組織でもアジャイルに取り組んでいますが,そういった全体の話題については知っていても,きっかけが何だったかは忘れられがちです。そしてこのきっかけは,プロジェクトの運用レベルにあることも少なくありません。チームのメンバがひとり,またひとりと,積極的に参加するのを見るのは素晴らしい経験です。

第2には,開発期間の短縮に対する意識の一般化があげられます。デリバリサイクルを短縮化する組織がますます増えているのです。 実を言うと,アジャイルマニフェストの起草者たちは,マニフェストを書く前からこの問題に取り組んでいました。時間や予算を使って実践している組織はまだ少ないのですが,問題を意識したということは,正しい方向への第一歩です。

InfoQ: チームや管理チームが作業を進める方法としてのパラダイムシフトを,受け入れることが難しいのはなぜでしょう?

Van Bennekum: 正直に言うと,私はセラピストではないのですが,いくつかのパターンはあります。私たちは,個々のサイロ作業という状況に慣れ過ぎているのです。面白いことに,サッカーの試合をする時には誰でも連帯することができます。チームの目標を共有して,そこに向かって互いの領域に踏み込むことは可能なのです。

仕事をする時,私たちはサイロの中に隠れています。このサイロは,私が見る限り,マネージャがすべてを知っていて,すべてを決めるという考えに基づいて1世紀以上前に始まった,従来型管理による結果です。サイロは安全(何をしなければならないかが明確)で,自身の立場を与えてくれると同時に,サイロに入る,あるいはサイロから出るプロセスも(紙面と署名で)明確化されています。

チームワーク – 私たちが共通の目的を達成するための一連の活動をチームとして実行する時,チームの誰が何を担当するのかは,その場で決まるものですが - は,私たちの仕事の進め方ではありません。意を決してそのようなやり方を試してみても,途端に何かうまく行かないことが起きて,大抵はまたサイロ,つまり古いパターンやドキュメント,作業の委譲といったものに逃れてしまいます。“新陳代謝(metabolism)”ということばを使うのは,このような理由からです ...

InfoQ: アジャイルの価値と原則の実現に成功した組織について,例をあげることはできますか?彼らはそれを実現するために,どのようなことをしたのでしょう?

Van Bennekum: 例をあげることはできますが,彼らがすべて公開に同意してくれるかは分かりませんので,固有の名称についてはお教えできません。今回は大規模小売店や中規模エネルギプロバイダ,大手技術系企業などのアジャイル転換に成功したさまざまな組織から,3つのケーススタディを使って説明したいと思います。

パラダイムの克服は最も重要な部分です。管理のパラダイム,開発のパラダイム,責任に関するパラダイムなどです。これらを克服するために,行なわなくてはならない3つのことがあります。

まず第1に,アジャイルが効果を発するには,上位管理者層によるコミットメントが重要です。透明性や日常的規律,可視化,優先順位などの面において,マネジメントはそれらをサポートするだけでなく,それらのロールモデルでなくてはなりません。特に階層的な古い文化を持つ組織では,マネジメントの行動は模倣の対象とされる傾向があります。私たちがチームないし個人をコーチしようという場合,すべてのレベルにおいて,マネジメントに特別な配慮をする(もちろん,他の活動と合わせてですが)理由はここにあります。

第2は環境の安全性です。失敗に対して十分な安心感を持てなくてはなりません。学習とは努力し,実践し,そして失敗することです。それには時間が必要です。標準を適用するというのは古いパターンです。失敗を許す時間的余裕がなく,マネジメントのサポートもなければ,たちまちこのような標準に準拠する作業が台頭して,変革は実現不可能になります。

第3にあげたいのは,組織が重大な危機に瀕していない限り,その企業の現状を開始点とするという事実です。現在の安全な状況を維持しつつ,開発の波の中から新たな変革を起こすのです。企業の変革を支援する中から学んだのは,チームや組織に押し付けるだけでは持続可能な変革にはならない,ということなのです。

InfoQ: サーバント・リーダシップを成功させる要因は何でしょうか?

Van Bennekum: 証明でしょうか ... マネージャには(ほとんどの場合)証明が必要です。特に同じようなプロセス領域におけるケーススタディや基準,視察などは,“ここで発明されたものではない(not invented here)”,“よいアイデアだが,我々には合わない”といった意見を克服するために有効です。もっともこれは,マネージャに限ったものではありません。ほとんどの人にとって,自身のプロフェッショナル領域の証明は必要なものです。特に“はい,ですが(yes, but)”という返答を聞くことが多い場合には ...

InfoQ: 組織内の部署間の壁を崩すのには,大きな困難を伴う場合があります。組織規模のコラボレーションを高める上で,これをどう行っていくか,何かヒントはありますか?

Van Bennekum: 大切なのはハートビート(Heartbeat)です。開発プロセス(開発対象が何であっても)の従来のシーケンスにおいて発言権を持つ,すべてのステークホルダを関与させる必要があります。先の質問に対する回答と合わせれば,次のようなことになると思います。

先程述べたように私たちは,組織を変更することはしません。私たちが変えるのは,プロジェクト間のインタラクションや,その他の開発形式です。私たちはそのシーケンスを取り上げて,すべてのステークホルダの参加の下,総合型のチームで作業を行ないます。参加するステークホルダたちの所属は変わらず,自分が所属するドメインに関する決定,受諾,変更に関する任務を持ってチームに参加します。開発者だけでなくアーキテクトや法務部門,コーポレートマーケティングコミュニケーションなども,開発プロセスのどこかに利害関係を持っているのであれば,すべて考慮の対象としてください。

権利を有するすべてのステークホルダが一同に会した(全員が情報を直接取得した)時,それがハートビートなのです。プロダクトバックログや設計思想を固めた最初の段階から,最終的にハートビートを提供するところまで(可能であれば1週間単位)が,成功するための要因となります。

InfoQ: アジャイルの価値観を広めようとしている企業に対して,最後のアドバイスをお願いします。

Van Bennekum: “我々には向いていない”という人たちの声を,本当にたくさん聞きます。重要なのは,アジャイル活動があなたをレスポンシブにする,という点です。今日,そして明日の世界におけるダイナミクスには,レスポンシブであることが必要になります – これは避けられないことなのです。アジャイルに対する“向いていない”を受け入れてはいけません。アジャイルが役に立つ方法を見つけるように,常に彼らと共に行動してください。

 
 

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