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Agile Executive Forum 2016の概要

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原文(投稿日:2016/09/26)へのリンク

Agile Allianceは9月19日,カリフォルニア州サンノゼで1日のExecutive Forumを開催した。イベントには世界中からの参加者と,有名企業の経験豊富な講演者が幅広く集まり,アジャイル開発の採用が企業に与えた影響や,大規模なアジャイル採用に必要な文化的転換を成功させる上で幹部として支援できることは何か,などの話題に注目が集まった。

講演者はいずれも,アジャイル転換の目標はプラクティスの採用や,転換に伴う文化的変革の必要性にあるのではない,という点を強く主張した — そうではなく,組織におけるすべての利害関係者に対する成果を改善し,価値に基づいた重要なメトリクスを改善し,職場をよりヒューマニスティックにすることが目標なのだ。

イベントはSanjiv Augustine氏による,今日存在する混乱したエコシステムの中で組織が存続し繁栄する上で,アジャイル文化が果たす役割についての講演から始まった。イノベーションとレジリエンスというカンファレンスのテーマは,互いに緊密な関係にある,と氏は説明した。

最初の講演者であるPivotal CEOのRob Mee氏は,“Transforming how the world builds software”と題した講演を行なった。氏はPivotalのCEOとなった自身の体験から,同社が大手企業に対して,新たな働き方の導入をサポートし続けてきた状況について説明した。氏のメッセージのポイントは,過度の文化的硬直性のため,大部分の組織において“モノリスの転換”が不可能になっていることだ。ここで必要となるのが,古い組織をアジャイル文化を備えた新しい組織に,基礎部分からゆっくりと置き換えていくことだ。これを実施するため,組織外に小さなグループが設けられ,Pivotalのチームメンバたちが約3ヶ月にわたって活動に参加した。その間,彼らはクロスファンクショナルなチームを編成し,より効率的に製品をデリバリするために新たなツールやテクニックを学んだ。これらチームにとって重要なのは,組織に対して価値のある製品を構築することだ — 理論的な学習に留まらず,現実世界の問題を解決する新たなアイデアの実践的な応用が求められる。この初期チームが部署に戻って新たな組織の起源となる。彼らが新たなチームとの提携サイクルを繰り返し,新しい組織内のチーム数を指数関数的に増加させる(氏は細胞分裂を例に挙げて説明した)ことで,古いモノリスを新たに“作り直されたアジャイル”組織に吸収するのだ。

Karyn Hayes-Ryan氏は,米国政府内におけるアジャイル採用の主要な成功例として,アメリカ国家地球空間情報局での事例について講演を行なった。“Driving Innovation, Speed and Creativity in the Federal Government”と題した氏の講演では,ソフトウェアの契約調達モデルを変更する方法に焦点が当てられた。しばしば指摘される連邦政府の調達ルールの煩雑さについて論じた上で,氏は,トレーニングやディスカッションフォーラム,表彰制度などを通じたアジャイル思想の適用が,同局に目覚ましいメリットをもたらしたことを紹介した。これによって彼らは,詳細な要件に基づいた契約モデルから能力と知識を重視するモデルへ — 激動し急速に変化する現代世界において,すべてを予見しようとするのではなく,時間をブロックとして調達するモデルへと移行したのだ。

Cocoon ProjectsとLiquidO™の創設者であるStelio Verzera氏は,アジャイルガバナンスのモデルとしての液体化組織(Liquid Organization)について論じた。

硬直化した組織では,現代のイノベーションの速度とその複雑性には対応できません。ましてやそれを活用することなど不可能です。一方では階層的な構造が,意思決定と能力開発の両面において,明らかなボトルネックになっています。成果をあげる上で処理すべき情報があまりにも多すぎるのです。どのようなタイプのマネージャであれ,ひとりの人間として,その管理ドメインで1日に生み出されるすべての情報を収集し,処理することが可能であると考えるのは,正気の沙汰ではありません!

氏は現在の世界状況,被雇用者の高度な自由性,社会不安について説明した上で,予測可能性,永続性,安定性を前提とした,複雑性の低い世界における20世紀の管理モデルはもはや適用不可能であると指摘した。今日の企業は極めて複雑な環境にあって,これまでとは違うガバナンスとマネジメントのアプローチを求めている — 単なるレジリエンスを超越し,ストレスによってシステムが改善されるような,適用性と耐脆弱性を備えた企業モデルだ。

これを達成するには,いくつかの面でガバナンスの考え方を根本的に変える必要がある。

  • 役割と組織構造ではなく,価値と原則の重視。
  • 指揮命令ではなく,自発的関与。
  • 支配ではなく,権限の委譲。

氏は,液体化組織の4つの柱について言及した。

  • コラボレーティブな作業ボード
  • コントリビューションの清算
  • 共同作業としての意思決定
  • 評価の追跡

氏は強調したのは,人の重視と安全な環境の構築だ。

  • 偶然ではない,意図された信頼の確立
  • リーダシップの進化と,より効果的なメンバ支援。
  • 不安の解消と,影響範囲の限定化よるフェールセーフの実現。

Verzera氏は2014年に,LiquidOモデルについてInfoQのインタビューに答えている。

次のセッションでは4人のリーダが,それぞれの所属する組織におけるリーダシップの進展について説明した。

Riot GamesのAhmed Sidky氏は,連帯と自律性のバランスを達成するために,チームレベルのリーダシップの責務を明確化した方法について説明した。氏らは35の責務を特定した。そのうち10は具体的なリーダシップの役割に結び付いているが,他はチームメンバとの交渉を必要とするものだ。氏らはリーダシップの4つの役割を,“チームキャプテン”,“プロダクトリーダ”,“デリバリリーダ”,“クラフトリーダ”と名付けた。これらの役割は管理上与えられた業務名というよりも,自らの意思で着用する帽子のようなものだ。リーダシップの責務はすべて網羅されているが,誰がどの責務を負うかはそれぞれのチームに任されている。

 

Hugh Molotsi氏はIntuitにおけるイノベーションについて説明した。Intuitには“イノベーションは全員の仕事である”という中心的思想がある。同社には全員に教えられる2つの柱がある — “顧客主体のイノベーション”と“喜びのためのデザイン”だ。同社では社員の業務をそれぞれの熱意の対象に結び付ける取り組みをしており,自身が関心を持つ作業を行なうために10%の自由時間を容認している。

Rob Mee氏はPivotalにおいて,各チームに対する意図的な権限委譲が行われていることを紹介した。氏はチームメンバの主導で実施された,評価とレビューの方法を変える実験について説明した。それまでの6ヶ月のサイクルから,ペアが相互のフィードバックをその場で提供する日毎のサイクルに変更したのだ。

Karyn Hayes-Ryan氏は,チーム内で有志連合の結成を可能にするという,氏らのアプローチについて説明した。その中で氏は,チームの活動におけるシニアリーダの存在が目に見える支援を提供する一方で,同時にグループ内の対話レベルを抑制していることを説明した。情報の自由な流れを妨げることなく役員が関与するためには,その微妙なバランスを見つけることが必要だ,として氏は,“80%の中間層の関心”を集めることで,彼らが自ら変わることの重要性について語った。

Stelio Verzero氏はオープンなイノベーションの価値と,熱意と責任の交点において生じるリーダシップのあり方について語った。システムの管理を特定の個人から切り離し,組織全体のものとするのだ。

次に話したのはBlue CrossのJennifer Richardson氏だ。氏はコラボレーションの価値について,それがIT改革だけでなく,一般生活においても有意義であることを論じた上で,聴衆に対して“正しい文化を構築し,人々に投資することによって,彼らに作業させる”ように奨励した。

American ExpressのFaye Hall氏は,80,000人の企業が新たな作業方法に移行することによって生じる課題について語った。同社には現在900のスクラムチームがあり,5年間で業務を引き継いでいる。氏が強調するのは,“教育と知識がなければ考え方の移行はできない”ということだ。

Hall氏は誤ったメトリクスの危険性に警鐘を鳴らすと同時に,氏らが時間を掛けて計測を成功させてきた点を強調している。氏は,重要なスキルセットとしてコーチングとファシリテーションを認識することと,デリバリ変革の役割に適切な人材を得ることの重要性を論じた。さらに氏は,移行をサポートしていた役員の態度が変わったことも指摘した — “私に何かできることはないかね?”。

さまざまな課題を克服するために氏は,次のような提言をしている。

  • 結果に対する透明性が組織的弾圧からメンバを守り,勇気を — 学ぶことの安全さを与えてくれる。
  • 測定結果がすべてではない。

 

Amexにとってこれはアジャイル転換ではなく,ビジネスの新しいやり方なのだ,と氏は指摘している。

カンファレンスのセッションと並行してイノベーションラボが開設され,参加者は広い分野で経験豊富なリーダたちとともに,具体的な課題を検証することができた。ラボは連日大盛況だった。

共同議長のPat Reed氏とSanjiv Augusine氏が開催期間中の成果を要約すると同時に,参加者に対して,実行可能な成果を洞察に転化した上でそれぞれの組織に持ち帰ることを奨励することで,今回のカンファレンスは終了した。

 
 

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