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ティールパラダイムを取り入れる

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原文(投稿日:2017/02/02)へのリンク

ティールパラダイム(Teal Paradigm)の適用は、チームメンバによる関与の向上に寄与し、チームの成長を可能にする。ティール指向の組織は、自らを“生物”と考える – 人を中心として、従業員に解放感を与え、人をリソースと見なすのではなく、彼らの持つリソースを求めるのだ – ベルギー警察の本部長で犯罪学者であり、コミュニティでティールの国際的な推進役を務めるErwin Van Waeleghem氏はこのように主張する。

Van Waeleghem氏は、人間中心のワークコラボレーションとティールパラダイムの採用をテーマに、2月23日(木)にブリュッセルで開催されるAgile Consortium Belgium 2017カンファレンスで講演を行なう。InfoQはこのカンファレンスの様子をQ&Aや要約,特集記事などで伝える予定だ。

カンファレンスのテーマは“アジャイルITからエンタープライズアジリティへ”というもので、プログラムでは、より広範な組織やビジネス環境におけるアジャイルに関する講演が予定されている。

今日のマーケットで私たちが目の当たりにしているのは、ITアジャイルプラクティスのボトムアップによるアプローチが、アジャイルの価値観と原則を重視する文化的移行に変化しつつある状況です。企業およびビジネスにおけるアジリティの重視は、新たな組織的構造を私たちに求めます。機械的な組織から、継続的に変化し、改善する組織へとスイッチを切り換えましょう。

InfoQはティール組織の特徴について氏にインタビューし、ベルギー警察がどのようにティールパラダイムを適用したのかを聞くことにした。

InfoQ: ティールでは、どのような価値観が重要視されているのでしょう?それはなぜですか?

Erwin Van Waeleghem: 基本的に、私たちが取り上げているのは人間の本質的な価値、すなわち人と人の結び付きです。それは(現代社会に蔓延しているような)分散的で自己中心的な、偏見と競争心に満ちた態度ではなく、建設的で共同創造的な考え方から生まれます。この基本的価値は道徳的意識の向上に基づくもので、より高い相互目的への到達を目標としています。ティールの背景にあるこれら価値をいくつか挙げるならば – 信頼、尊敬、等価値、ウィン-ウィンの思想、誠意、良心、開放性、誠実さ、慈悲、服従、求めるよりも与え共有すること、付加価値を与え合う意思 ...。さらにこれは、人は常に心のバランスを追い求めている、ということも意味しています。

InfoQ: ティール組織の特徴は何ですか?

Van Waeleghem: そうですね、ほとんどの組織が、物事に対する“機械的”な視点の克服に成功していることでしょうか。このような視点は産業革命とFrederick Taylor氏の“科学的管理法(scientific management)”(Henry Ford氏の功績もあります)以来、私たちの組織のほとんどで基本的な考え方になっているのです。ティール指向の組織は、自分たちをもっと、自然界のどこにでも見られるような“生物的な存在”だと考えています。彼らははるかに人間中心的で、従業員に解放感を提供します。人をリソースとみなすのではなく、人の中にあるリソースを求めるのです。そこでは地位や肩書き、エゴといった品位を欠く考え方を必要としない、別の形の、より自然なリーダシップスタイルが使用されています。

すなわち、それらの組織は権力階層ではなく、自然界にあるような自己組織型のシステムとして構成されているのです。上司と部下という関係はもはやありません。それはすなわち、人の地位や役職、学位、生得権、権力に基づく人為的な階層が、保持する専門性やプロフェッショナルとしての知識に基づいて日常的に変化するような、はるかに自然な階層に道を譲った、ということでもあります。これらの組織は人のネットワークと、人々が相互に結び付く力を基盤としていて、“計画、命令、コントロール”に代わる“感覚と応答”を使用します。

Laloux氏の“Reinventing Organizations”を読めば、氏が説いた3つのパラダイムブレークスルー、すなわち“全体性(wholeness)”、“進化的目標(evolutionary purpose)”、“自己管理(self management)”が最もよく理解できるでしょう。ティール組織か、あるいはティールを目指しているのであれば、私たちが“オールドスクール(old school)”パラダイムとして知っている組織の基本 – 意思決定、構造、構成員の役割、プロジェクトチーム、競合解決、危機管理、情報の流れ、パフォーマンス管理、報酬、解雇、募集、評価、労働時間、オフィス空間、戦略、マーケティング、競合(事実上は死語になっていますが)、計画と予算などすべての中に、これら3つのブレークスルーが存在することが分かるでしょう。こういった項目のすべてが、主にすべてのステークホルダの思惑や発想に基づいて、これまでとは全くちがう方法で組み合わせられるのです。

InfoQ: ティールパラダイムの適用に関して、いくつかの実例を挙げて頂けますか?

Van Waeleghem: 私は、2015年9月1日にLeuvenでの新しい仕事についた時、意識的にチーフのサポートを引き受けて、チームの全メンバとの個人レベルの対話を始めました。最初の会話で各人のバックグラウンドやニーズを知った後、私の考えを伝えると同時に、私が彼らを信頼していること、彼らが嫌っているような“ボス”として振る舞うつもりのないことを話しました。私にとって彼らはもはや部下ではなく、自らの仕事を遂行する知識と経験を豊富に備えた同僚なのです。

私自身も信頼に値するように行動しましたが、大部分の人たちがすぐに、しかも簡単に、自分の持つ力のすべてを発揮し始めたのには私も驚き、不信感がまったくないことを確信しました。今後どのように進むつもりなのか説明するつもりだったのですが、そういった導入セッションはほとんど必要なくなりました。チームメンバ自身が安全な環境を構築するためのフレームワークをセットして、価値の選択と記録を行ないました(最初の質問を思い出してください)。それが彼らを結び付けたのです。そうして出来上がったものが、オープンで敬意と礼儀を備えたコミュニケーションによるメンバ相互のフォローアップ姿勢の確立に向けて、ポジティブな行動とポジティブでない行動とを決定する基本的なフレームワークとなるのです。問題が解決されない場合のアドバイス的なプロセスと、必要に応じて公平な決定ないしバックアップを行なうことによって、彼らはごく簡単に、自らの意思決定を行なうようになりました。

週毎および随時開催されるミーティングで彼ら自身が決定したことには、休暇期間中の運用、新たな同僚の募集、多機能性、(専門性に基づく)チーム代表としてのミーティングへの参加、日毎の問題解決、対立の解決、(司法部門からのガイドラインに基づく)対内的および対外的な新手法などがあります。チーム内に3つのグループがある、とも言えます。信者(60%で大半を占める)、 中立派(30%)、そして(建設的な意味での)懐疑派(10%)です。何をする場合においても、全員がこの中のいずれかの役割を持っているのです。現実的には難しい部分もあって、2歩進んでは1歩ないし2歩戻るような状況でなのですが、それでも作業を進めるに当たって、保守的な階層スタイルに戻りたいと思っている関係者がひとりもいないことは間違いありません。

InfoQ: ベルギー警察組織として、ティールパラダイムを導入したメリットはどのようなものだったのでしょう?

Van Waeleghem: どのような組織であっても、常習的な欠勤や病欠、バーンアウトなどに直接的な効果があります。お互いや自身の業務、組織に対する関与意識が向上し、チームの成長にも寄与します。外部やタスク側からの圧力、スタッフの全般的な力量不足による衝突などは多少ありますが、帰属意識の高まりによって簡単に解決できます。お互いに助け合う思いやりの意識の方がはるかに上回っているのです。これはもちろん、他部門に対する全般的な生産性や開放性という面にも影響します。

これを今後数年間で全組織に広めることに対して、管理部門からのコミットメントも受けています。これを私たちの基本的な組織文化とすることによって、リーダシップと組織全体の文化変革に新たなエネルギを提供したいと思っています。一般論として警察機関は、全体をひとつのネットワークとして自己組織化を図ることによって、効率的と迅速性を大幅に向上し、直接的な情報共有を行なうことが可能になります。世界中の警察組織に見られるような選民意識を克服し、官僚主義を低減し、自らの真の社会的役割をより重視することができるのです。

私たちの本質は、すべてのための安全な環境の確立と維持を任務とする社会の一員です。昨今の混乱したVUCAPの時代 – Pを追加したのは二極化(Polarized)の意味です – において、これは私たちだけでできることではありません。市民と手を結び、信頼を深めることで初めて可能になるのです。ティールパラダイムへの移行は、この目標の達成に必要な信頼関係の再構築において、間違いなく役に立ちます。その例として、これだけは言えます – ISISテロリストの世界的なネットワークに対抗するのは、旧態依然とした階層的手法や組織ではまったく不可能です。ですから私たちは、私たち自身の(世界の)における専門性とプロフェッショナル意識に基づいたネットワーク組織に向けて、早急に発展する必要があるのです。

InfoQ: ティールパラダイムを採用しようとする組織に対して、どのようなアドバイスをしますか?

Van Waeleghem: 手軽に成果を得るためや、すでに大きな圧力を受けている人たちからさらに成果を得るためのトリックとして使わないことです。本当の気持ちから、そして人中心の考え方から実行してください。持続可能な、新しい組織文化の基本として捉え、人の価値という本質を常に視野に置きながら、ゆっくりと変革を始めるのです。

リーダあるいはマネージャは、弱さや謙虚さを見せながら、自身が信頼に足る存在であることを示してください。“恐れ”に基づく管理や説得を放棄して、与え合う存在であってください。トップに立つ人たちが自己開発と自己意識へと向かうとき、望ましい方向への道が始まるのです。

人々に自らのリーダシップ能力を発掘ないし再発見させるような、自然な本物のリーダになってください。行動を促し、助言し、コーチし、余裕を与え、彼らがミスをした場合でも成長できるように完全なサポートをするのです。なぜ、どのように、何を、という問題からあなたを救えるような同僚や人々を見つけるか、あるいは自身を触発するようなさまざまな事例を持ってください。

単純なコピーペーストが可能だとは思わないでください。モデルやシステム、ツールは必要ならば使いますが、それを目標にして、組織やチームをそのためのものにしてはいけません。皆がこれに完全参加して絶えずコミュニケーションを持ち、真の透過性を持ってコミュニケーションして、あなたを導くことのできる基本的な書籍を読みましょう。ですが、忘れてはいけません – 始めたならば ... 例えそれがどれほど難しく思えても、厳しく困難な道が続いたとしても、諦めたり、以前の古い手法(はるかに簡単な)には決して戻らないでください ... すべての問題が、長い目で見れば価値のあるものなのです。周りを鼓舞し、これらはすべて可能なことなのだ、と信じ続けてください。

InfoQ: 読者がティールパラダイムやティール組織について詳しく知りたい場合には、どこへ行けばよいのでしょう?

Van Waeleghem: クラウドには本当にたくさんの情報がありますし、関係する書籍を読むこともできます。いくつか挙げると – “Reinventing Organizations” (Frederic Laloux), “Freedom Inc.” (Isaac Gets/Brian Carney), “Unboss” (Lars Kolind - Oticon), “Maverick” と “The Seven Day Weekend” (Ricardo Semler - Semco), “It’s Your ship” と一連の著作(Mike Abrashoff - US Navy), “Turn the Ship around” (David Marquet - US Navy), “Start with Why” (Simon Sinek), “More Than a Motorcycle” (Rich Teerlinck - Harley Davidson), “The End of Management and the Rise of Organizational Democracy” (Kenneth Cloke/Joan Goldsmith)、他にもたくさんあります。いくつかのWebサイト(www.tealspirator.com - www.reinventingorganizations.com - www.freedomincbook.com)や、多数のソーシャルメディアのグループやページもあります。

私たちTeal for Teal International コミュニティのメンバになれば、14カ国で地域グループ毎に毎月開催されるミーティングで、志を同じくする人たちに会うことも可能です。Teal for Teal Internationalはベルギーに本部を置く財団で、ティール関係者の交流をミッションとしています。

 
 

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