BT

最新技術を追い求めるデベロッパのための情報コミュニティ

寄稿

Topics

地域を選ぶ

InfoQ ホームページ ニュース データサイエンスチームにアジャイルを導入する

データサイエンスチームにアジャイルを導入する

原文(投稿日:2020/11/26)へのリンク

アジャイルはデータサイエンスチームの、ステークホルダとのコラボレーション改善と生産性向上に寄与する。優先順位が明確になることで、作業への集中と成果の提供が可能になるのだ。実践する上で重要なのは、アジャイルの旅に同行することによって、データサイエンスチームの賛同を得ることである。

New UKのプロダクトオーナでシニアビジネスアナリストのSnigdha Satti氏はAgile Tour London 2020で、データサイエンスチームでアジャイルを使用した自身の経験について講演した。

データサイエンスチームでの仕事を始めた時、Satti氏が最初に行ったのは、チームのすべてのメンバとステークホルダと対話して、彼らが個々に抱える問題点を聞き出すことだった。

チームには明確な方向性やモチベーションがなく、それが生産性を低下させ、結果として納期遅延に結び付いていることは明らかでした。ステークホルダも同じように、約束されたものが提供されないことに不満を持っていました。

アジャイルはチームとステークホルダ双方にメリットがある、とSatti氏は考えた。

アジャイルは反復的なプロセスです — つまり、データサイエンスなのです。データサイエンスにはイテレーション毎に、調査(investigation)、探索(exploration)、テスト(tesing)、チューニング(tuning)という4つのステップがあります。

アジャイルをデータサイエンスに適用する上で氏らは、各スプリントでこれら4つのすべてを完了し、最後にデモを実施する、という方法を考案した。この方法を適用することで、アジャイルモデルが実施可能かどうかを、全員が理解することができる。

Satti氏はアジャイル手法による作業セッションをチームとともに実践して、コラボレーション、インタラクション、リスペクト、オーナシップ、改善、学習サイクル、価値提供といったものの重要性をチームに教授した。データサイエンスにおいてアジャイルが機能するためには、データサイエンティストらがアジャイルのメリットを理解し信頼することが不可欠であり、チームが文化やマインドシフトの面で変化する必要があった、とSatti氏は言う。

チームに対するアジャイルの大きなメリットは、導入後すぐに生産性が向上したことだ。これは作業の優先度が明確化になり、チームメンバが特定のタスクに集中できるようになったためだ、と氏は指摘する。これによりチームは、成果物とタイムラインにコミットできるようになった。約束した納期を概ね遵守できるようになったことで、ステークホルダは満足し、チームに対する信頼も向上した。

データサイエンスチームによる同意は非常に重要だ、アジャイル移行を強制されるのではなく、共に進むものでなくてはならない、とSatti氏は述べている。氏はこれを、チームメンバと1対1で対話して彼らの課題を理解し、その問題に対してアジャイルがどのように役立つかを説明することで行った。

その効果はほぼ1スプリントで明らかになった。バックログが形成され、すべてのセレモニがスケジュールされて、チーム内のコミュニケーションが改善されたのだ。

データサイエンティストはアジャイルをどのように用いることができるのか、Snigdha Satti氏に聞いた。

InfoQ: どのような課題があったのでしょう?

Snigdha Satti: 私は2年前、News UKでデータテクノロジプログラムに従事していました。そのプログラムの1チームがデータサイエンスチームでした。チームはデータサイエンティスト(ロンドンとバンガロールを本拠地とする)とスクラムマスタで構成されていました。その他にもうひとり、ステークホルダの管理を担当する、卓越したデータスキルと持った上級メンバがいて、チームと緊密に作業していました。

最大の課題のひとつは、チームがビジネス上のステークホルダと対話することがなく、組織のビジョンや目標、優先順位に関する知識を持っていなかったことでした。どのようなモデルを構築する必要があるか、どのデータセットを使用するかといったことを、チームの上級メンバから直接要求されていたのです。自分たちの作業が組織全体に対してどのような貢献をしているのか分からなかったため、これがチームの士気を失わせる原因になっていました。

もうひとつの課題は、数多くの要求を一度に受けていたことでした。チームはそれらを拒否せずに引き受けて、すべてを同時に処理しようとしていたのです。作業の優先順位を理解していなかったこと、この理解をチーム内の誰も支援しなかったことも、この原因となっていました。

これがチームに対して、焦点の欠如を引き起こす結果となっていたのです。

複数の作業を一度に行おうとすれば、必然的にコミットした期日を守れなかったり、あるいは適切な見積を提供できなかったりします。

これがステークホルダとチームの間に軋轢を生み出していました。

InfoQ: アジャイルを導入しよう考えた理由は何でしたか?

Satti: 私はデータテクノロジの別のチームに従事していたのですが、チームにきてデータサイエンスチームの抱えている問題解決を支援するように請われました。個々のメンバにインタビューした後、チームに欠けているのは明確な目標、個人レベルのインタラクションとコラボレーション、変化への対応にあると理解したのです。

InfoQ: どのような方法で、データサイエンスにアジャイルを適用したのでしょうか?

Satti: アジャイル手法で実施したワーキングセッションで、次のようなアジャイル方法論の基礎を紹介しました。

  • アジャイルの反復的な性質とその利点
  • アジャイルチームにおける役割
  • SCRUMとKANBANフレームワークの基本
  • アジャイルで行われるセレモニと、それらがチームに果たす役割

事態が期待どおりに機能していないことを知っていたので、チームは変革に対して極めて楽観的でした。

そこで次のステップでは、チームの上級メンバと話をして、チームが直面している問題を説明し、新たな要求をチームに直接回さないように依頼しました。すべての要求を一旦バックログに収めて、計画セッションで優先順位を話し合うことで、データサイエンティストたちに過度な負担をかけないようにしたのです。この目標と要求の優先順位についてステークホルダに説明し、理解を得る役は、その上級メンバと私自身が引き受けることにしました。

次に、すべてのセレモニ — スタンドアップ、計画、デモ、レトロスペクティブ — をチームにセットアップしました。

これらすべてのセッションが、チームに価値を与えたのです。

InfoQ: うまくいった部分と、うまくいかなかった部分について教えてください。そこから何を学びましたか?

Satti: セレモニの中では、計画セッションとレトロスペクティブが一番役に立ちました。計画セッションでは、チームが今後のタスクの概要と、今回のスプリントで取り上げるべきタスクの概要とを同時に把握することができました。スプリントが始まる時には、優先順位、複雑さ、必要な作業が明確になっていたのです。

レトロスペクティブは成功を祝う場として非常に好都合であると同時に、お互いにフィードバックを提供したり、突き当たった課題について話す機会にもなりました。ひとつ例を紹介すると、バンガロールのチームが就業時間外に作業していたことがあったのですが、レトロスペクティブでその話題が出るまで誰も気付かなかった、ということがありました。そのことから他のチームは、バンガロールチームのオフィス時間外にメッセージを送ることに注意を払うようになったのです。このような小さなことがチームのモラル向上に役立ちました。

チームでうまくいっていなかったことのひとつは、タスクの見積ができなかったことです。これはおもに、どのデータを使うのか、そのデータは利用可能なのか、明確なのか、といったことが、課題が与えられた時点で明確でなかったためです。これらの調査をすべて、データサイエンスアルゴリズムに関する作業の一部として行わなくてはなりませんでした。

私が得た最も大きな教訓は、柔軟性が必要であって、厳格なルールや迅速なルールはない、ということでした。チームに役立つことをすればいいのです。

InfoQ: どのようなメリットがありましたか?

Satti: 最も大きなメリットは、生産性がすぐに向上したことです。作業の優先順位が明確になったことで、提供する成果物や期限に集中し、コミットすることが可能になりました。約束した期日を守ることでステークホルダも喜んでくれますし、チームへの信頼感も高まりました。

チームが行っている作業に関して、最新の進捗をステークホルダに把握してもらう上では、デモの実施も極めて有効でした。これもチームの信頼向上に一役買っています。

毎日スタンドアップを行うことでチーム内のコミュニケーションが改善され、問題点を素早くキャッチする機会にもなりました。

結果的に最高のデータサイエンスモデルをいくつも構築したことによって、国際的な賞や称賛を得るという恩恵を受けることができたのです。マーケティングチームが使用したモデルは、その年のマーケティングカンファレンスで賞を頂いています。

この記事に星をつける

おすすめ度
スタイル

BT