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あれから10年、いまアジャイルが熱い。アジャイルサムライ他流試合レポート

2011年9月18日、アジャイルに熱いサムライ達が東京に集結した。「アジャイルサムライ 他流試合」というイベントに参加するためである。「アジャイルサムライ」はJonathan Rasmusson氏によって執筆されたアジャイルの解説書である。発売以降、日本の技術者の心を掴み続け、各地で読書会が開かれている。そして、その読書会の参加者達が一同に集まるイベントがこの「他流試合」だった。


図1.書籍「アジャイルサムライ」

■開演

会場であるオラクル青山センターには70名を超える参加者が集結した。まずは道場(勉強会場)の紹介から始まった。

道場名 進め方・特徴
渋谷道場 1章ずつ忠実に読書。Wikiに記録
大井町道場 持ち寄り議題方式。少人数で熱く実施
湯島道場 リピート率が高く40名近くが参加した熱い道場
秋田道場 1人道場。喫茶店にて実施
札幌道場 輪読とディスカッションの比率は3:7
DevLove道場 Ustreamによる紹介(テンション高く笑いが起こる)
TIS道場 確実に参加できるように7:30~8:30に実施。ネタ振り20分+ディスカッション40分
ECナビ道場 プロジェクト運営勉強会と命名。ランチタイム。若手の育成。自環境での適用方法を検討
ドワンゴ道場 週1回90分。各節の要約を発表→ディスカッション。アジャイルを学び、社内の風通しを良くする
BIGLOBE道場 読書会とディスカッション、ワールドカフェを中心。ドリーム感重視

コミュニティもあれば、企業内の道場もある。大所帯もあれば、独学の道場もある。とにかくどの道場も楽しそうである。なお、勉強会一覧は書籍Wikiにまとまっている。

■西村氏の講演「日本の読者の皆さんへ」

マスターセンセイの西村氏による講演が行われた。マスターセンセイとは、書籍に登場するアジャイル開発を成功に導く師匠である。他流試合では監訳に携わった西村氏と角谷氏がマスターセンセイとなっていた。


図2.西村氏による講演の様子

西村氏は「アジャイルサムライで一番のおすすめの章はどこか」という質問に対して、1.1の「価値ある成果を毎週届ける 」と答えていると語る。これは、最後まで成果物が分からない従来型の開発ではなく、テスト済みの製品を毎週届けるアジャイル開発のほうが顧客にとって価値があり、信頼とフィードバックを得られるからだと語る。
経験談をおりまぜながらアジャイル開発の難しさとコミュニティの重要さを訴えかけた。最後は「本を読むだけではなく、問題について仲間と議論することで理解が深まる」という会場からのフィードバックを受けて、アジャイルサムライの道場が「ソフトウェアを大切にしている人のつながる最初の一歩になれば良い」と締めくくった。

■ライトニングトーク(1分×12名)

続けて、各道場の代表者と有志によるライトニングトークスが行われた。1分という短い時間でありながら、アジャイル開発のノウハウが凝縮されていた。パロディあり、ダジャレありで笑いが巻き起こった。ライトニングトークの詳細については、しんや氏のブログが詳しい。

■休憩+スイーツタイム

前半が終わったところでスイーツの団子が振舞われた。リラックスした状態で参加者同士の交流が図られていた。筆者は隣席の人からコードレビューのノウハウを教えてもらい充実した時間を過ごした。


図3.振る舞われた団子

■ワールドカフェ
(参加者同士によるディスカッション)

そして、他流試合のメインともいえるディスカッションが行われた。多くの人と積極的に会話ができるようにワールドカフェ方式にて実施された。1つのテーブルに4名ずつ座り、共通のテーマをディスカッションする。12分ずつディスカッションを行い、席替えを3回繰り返した。


図4.ワールドカフェの様子


図5.ディスカッションによって書きこまれた模造紙

各テーブルのまとめはTwitterにて共有された。幾つか紹介する。

・価値に沿って適切な粒度で記されたユーザーストーリーは、優先度を決める指針となり、チームを導く羅針盤となる
・ 現場でテストコードを書く傾向は出てきたが、テストコードの品質という新たな次元の問題がでてきた。
・開発者視点の優先順位付はさほど重要ではない。お客さんのビジネス価値に直結するユーザーストーリーの優先順位付が重要である。 優先順位づけのやりかたは自分たちで考えろ!
・契約はウォータフォールでも顧客に価値を認めてもらえればAgileはできる。チームとは目的とゴールを共有すれば、Agileの言葉じゃなくてもAgileは可能である。
・リファクタリングはソースコードレベルのミクロな変更とアーキテクチャレベルの二種類がある。ソフトウェアの寿命においてリファクタリングは必要である。リファクタリングはTDDと一連託生。コードを捨てる覚悟が大切。覚悟のためにテストが重要。

これらのツイートから、熱い議論が行われた雰囲気が伝わってくるだろう。

■Q&A(マスターセンセイと熱心な弟子)

続けて、マスターセンセイによるQ&Aが行われた。時間制限がある中、注目度の高い質問を優先的に回答していた。Q&Aを幾つかを紹介する。

Q:アジャイルを始めるにはどうすればよいでしょうか
→A:社内で友達を作る。アジャイルサムライをプレゼントする。

Q: アジャイル開発に批判的なメンバーがいる場合どうすればよいか
→A:話しあう。興味を持ってもらう。圧倒的なクオリティを魅せつける。

Q:日頃から意識していることを教えてほしい
→A:ワクワクする開発につながっているか。チームメンバーに関心を持てているか。正直に話せているか。

難しい質問に対しては「自分で答えを見つけよ」というマスターセンセイらしい回答もあり、会場の笑いを生み出していた。

■ワールドカフェ(2回目)

2回目のワールドカフェの最後に、著者Jonathan Rasmusson氏から他流試合に向けてのサプライズビデオが公開された。


図6.著者からのビデオメッセージに聞き入る参加者達

著者からのメッセージを抜粋して紹介しよう。

「アジャイルサムライ」はすでに出版されている7冊を1冊にまとめて、すぐにプロジェクトで使えるようにしたものです。アジャイルは難しくありません。アジャイルはソフトウェアを提供するためのシンプルで実践的な方法です。
ソフトウェア業界は、皆さんのような頭が良くて情熱的な人を必要としています。開発者を増やし、コミュニティのメンバーを増やし、クラフトマンシップ(職人芸)を改善しなければいけません。日本のみなさん。ありがとう。私もその場にいたかった。カルガリーからサポートします。学ぶことを楽しみましょう。さようなら。

著者からの暖かいメッセージを聞いて、参加者は感銘を受けているように見えた。

■角谷氏の講演「監訳者あとがき」

最後にマスターセンセイの角谷氏の講演が行われた。


図7.角谷氏の講演の様子

まず角谷氏はアジャイルが名詞ではなく形容詞であること、そして開発プロセスがどれだけ活き活きしているかが重要であることに触れた。そして「アジャイルとは何か」ということを語った。

“アジャイル”とは開発プロセスの“アジャイルさ”を形容するものであり、どれだけ “アジャイルであるか”を 示す“度合い”なのだ。

さらに「どうなればアジャイル開発になるか」について語った。

開発がアジャイルであるということは、協調性を重んじる環境で、フィードバックに基づいた調整を行い続けることである。

角谷氏はテンポ良く話し続け、「なぜアジャイル開発なのか?」に対しては次のように訴えかける。

仕事が楽しくなるのは、仕事の全体像が把握でき、仕事全体の質に責任を持つ場合である。
歯車の1つになった人間は、仕事を楽しくできない。
楽しもう!(be Fun)

そしてテーマは品質に移る。ソフトウェアの実装品質に着目し「内側の品質が良くなってこそ、内なる平和が訪れる」と熱く語った。そして、書籍「ビューティフルコード」の前書きから「プログラムを書いたことのないシステムエンジニアが威張っているような会社は早晩亡びる 」というフレーズを引用した時、会場のボルテージは最高潮を迎えた。
イベントの予定終了時刻を過ぎたため一度休憩を挟んだが、ほとんどの参加者が部屋に残った。角谷氏は、2001年のアジャイル宣言から10年を経た今、これからの10年に向けてのメッセージを送る。高橋氏の「IT業界なんて、ないんだよ。」というブログエントリを引き合いに出しながら、IT業界の多様さ・変化の激しさ・人材の流動性について触れ、「脇役ではなく主役となり、皆で踏み出していこう」と語りかけた。
そして、最後に書籍「達人プログラマー」 の前書きをしっとりと朗読した。

プログラミングとは芸術です。(中略) つまり、あなたは毎日小さな奇跡を起こしながら作業を進めるのです。これは大変な仕事です。

そして、アジャイルサムライの後書きを朗読して、締めくくった。

師を仰ぎ、師を追いかけ、師に歩調を合わせ、師の意図を汲み、 そして自らが師になるのだ。 -- Ron Jeffries

■懇親会(ビアバッシュ)

懇親会(ビアバッシュ)は夜遅くまで続き、多くの参加者が最後まで楽しんでいた。

 


図8.ビアバッシュの様子

筆者は、アジャイル宣言が発表された10年前と同じような熱狂に包まれたアジャイルイベントに参加できたことを嬉しく感じた。今も、Twitterのハッシュタグ #agilesamurai ではアジャイル開発に関する多くの情報が交換されている。アジャイル開発に興味を持たれた方は、情報を収集し身近な道場に参加してみてはいかがだろうか。

■参考リンク

西村氏の講演スライド
角谷氏の講演スライド
イベントのまとめ
Twitterのまとめ

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