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IPA/SEC 統合モデリング技術WG 内田氏インタビュー

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インタビュアー:InfoQJapan編集部
2012.7.18 豆蔵オフィスにて

Q1. 簡単に内田さんのプロフィールをご紹介いただけますか

システムハウスでVTR編集機、ロボットアームの開発に従事し、その後富士ゼロックス情報システムで大型レーザープリンタ、ポスター印刷機などの開発に携わり、オブジェクト指向の基礎を身につけました。その後、数社でオブジェクト指向を駆使したシステムの開発を担当し、独立しました。大規模金融システムのJava化プロジェクトのコンサルタントとして成功に導き、その後も多くのJava関連プロジェクトのコンサルを手掛けてきました。
現在は、(独)情報処理推進機構(IPA)技術本部ソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)統合系プロジェクトの非常勤研究員として、統合システムモデリング技術WGを担当し、MBSE(Model Based Systems Engineering)の日本での普及を推進しています。また消費者機械安全標準化WGも担当して、消費者が使う機械の機能安全をOMGに提案しています。

Q2. 統合システムモデリング技術WGについて教えてください

統合システムモデリング技術WGは、大規模複雑化するシステムのリスクを低減して高信頼なシステムを提供できるようにするための研究です。
IPAとは情報処理推進機構ですのでソフトウェアを中心に考えるべきですが、ソフトウェアだけでは難しく、システム全体で考える必要があり、そのためにはシステムズエンジニアリングを導入する必要があります。
一方で、日本の開発現場に導入されるための工夫が必要で、WGでもその点を中心に議論しています。工夫の一つとして、導入マップを作成することを検討しています。導入マップには2種類あって、システムズエンジニアリング実施における「モデリングと基本タスクの対応モデル」と、システムズエンジニアリングを「日本の産業界に導入するための戦略マップ」とが必要であると考えられ、今後さらに詳細について議論を重ねていく予定です。

Q3. システムズエンジニアリングとは一言でいうと何ですか?

System of Systemsという広い範囲で、さまざまな角度から対象システムをとらえてシステムの実現を成功させるための方法論で、機械工学、電子工学、制御工学、ソフトウェア工学、さらに物理、化学、環境など、さまざまな分野が協力して実践していく手法です。現在、企画・設計も開発も組織や国境をまたいでグローバル化してきています。今までとは違って、多くのステークホルダと意思疎通を図り、総合的でありながら整合性のあるシステム開発ができないとまずい状況になってきているのです。
これをやらないと、誰かが楽をして誰かが苦労する現場が生まれてしまいます。みんなが共通の意識をもって開発に取り組めるような環境にでき、ムダ・ムラのない開発ができるようになります。

Q4. 日本の現場は擦り合わせでやっていたり、シミュレーションツールを導入してうまく活用していたりするので、敢えてシステムズエンジニアリングのような大上段の方法論は必要ないという意見もありますが?

日本の開発手法は優れた点が多々あります。しかし問題点も多く含んでいます。最大の問題はトレーサビリティです。特に組込みシステムの開発では、トレーサビリティを保持する工夫があまり見られません。何がどのように関連し、どう影響するのかトレーサビリティが不明瞭なら、変更に対する影響や対応は経験と勘に頼らざるを得ません。知識共有に時間が掛かり、大規模複雑なシステムには向かないと思います。

Q5. このWGでは、システムズエンジニアリングにとってモデルが重要だと認識しているのですね

はい、まさにモデルベースのアプローチが必要になります。これがMBSE(Model Based Systems Engineering)です。MBSEには既にいくつかのアプローチがあり、代表的なアプローチはINCOSE(The International Council on Systems Engineering)が提唱しているOOSEM やIBMが提唱しているHarmony SEなどがあります。
IPAとしてはこれらを参考にして、日本の開発現場に適用しやすいように導入のための見取り図を提供していきたいと考えています。


図:MBSEのスコープ

またシステムズエンジニアリングを支援するためにINCOSEが中心となって定義したモデリング言語SysMLの採用を考えています。やはり、オブジェクト指向設計を中心とするソフトウェアエンジニアリングの観点で定義されたUMLや現場でツールとして使われているMATLAB/Simulinkだけでは、統合的なシステムの問題は記述できないと考えています。

Q6. SysMLとはどのような言語ですか

SysMLはシステムズエンジニアリングのためのダイアグラム記法です。ソフトだけでなく、ハードやメカをやっている人にもわかってもらえるモデル=図面の書き方を定義したものです。
SysMLはUMLをベースに考えられた、システムを記述するためのモデル言語です。特にパラメトリック図は方程式を扱うことができ、メカや制御のモデル化に適しています。このパラメトリック図やステートマシン図をつかってモデルベースのシミュレーションを行うことも可能で、開発の早い段階で振舞いや構造の問題点を炙り出すことができます。


図:SysMLの4本柱

Q7. SysMLで描くと何が嬉しいんですか

システムズエンジニアリングに目的を特化している分、よけいなダイアグラムがないので、システムの記述には適しています。
また、SysML全体ではさまざまなダイアグラムが用意されていますが、実際には、各組織やプロジェクトの目的に応じて、必要な図だけを必要な分だけ導入すればよいのです。ただし、そのための判断のガイドラインのようなものが今はない。それをIPAでは提供していく予定です。

Q8. SysMLはUMLほどには日本で普及していませんが、その理由は

1つは、ユーザ企業側に大きな誤解があります。システムズエンジニアリングやSysMLが、Matlab/Simulinkのような既存の技術や手法と競合するのではないかと思われ、警戒されている感があります。この両者は相補うものであって取って代わるものではない、ということを理解してもらえるようにもっと普及活動が必要だと思っています。
それから、UMLも製造業を含めた産業界に普及するまでには10年近く掛っています。そういう意味では、SysMLの普及はまさにこれから始まると考えています。

Q9. これから統合システムモデリング技術WGでは何をしていくんですか

まずは先程来の導入のためのマップを作成したいと思います。導入マップを作ることで、どのタイミングで何をすべきか、インプットとアウトプットは何かなどが明確になります。その中で、既存の開発との流用なども含めて検討したいと思います。
さらに、できたら簡単なわかりやすいサンプルを作成して自由に使えるようにしていきたいと考えています。導入に際してはガイドラインよりサンプルが一番参考になり、サンプルがあることで、導入しやすくなると思います。

Q10. さいごに日本の産業界へメッセージをお願いします

意欲のある会社には積極的にサポートしますので、尻込みしないでチャレンジしてほしいと思います。導入が遅れることによって、日本の産業に今後大きな負の影響が出る可能性があります。国際的に見ても、新しいモノづくりに関して負けてしまう可能性があります。
松下幸之助氏も「重役の7割の賛成するプランは時すでに遅く、7割が反対するプランくらいでやっと先手がとれる」という言葉を残されています。日本国内では、MBSEはまさに先手が取れる状態にあります。さらに国際的にも不利益をもたらさないにように、日本の優位性を取り入れられればと思っています。

参考文献

IPA/SEC統合系プロジェクトのページ ⇒ http://sec.ipa.go.jp/std/com.html
サンフォード・フリーデンタール, アラン・ムーア, リック・スタイナー, 西村 秀和 (監訳)『システムズモデリング言語SysML』(東京電機大学出版局) ⇒ www.amazon.co.jp/dp/4501550805

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