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Agile Japan 2009

2009年4月22日、東京千代田区にある放送会館で「アジャイルジャパン2009」が開催されました。本イベントは「ソフトウェア開発の次世代リーダーをつくる」ことを合い言葉に、200人以上の参加者を集めてスタートしました。 9時前から参加者が集まり始め、イベントスタート時にはほとんどの席が埋まりました。開始時刻の9時半を回ったところで、運営委員長であるチェンジビジョ ン代表取締役社長平鍋健児氏、そしてイベントを主催するピークワンの前田安雄氏によるオープニングが始まりました。お二人によると、アジャイルをテーマに 大きなイベントを行うのは1年越しの夢だったとのこと。これまでのアジャイルは管理職の方々との距離があったことから、ペア割引を設定し、上司の方やお客 様、そして部下の方を誘ってきてもらうことを1つの目的にしていたそうです。ペアで申し込まれた方は約100名もいらしたそうですから、この試みは成功 だったと言えるでしょう。なお、このイベントは世界最大のアジャイルコミュニティであるアジャイルアライアンス(http://www.agilealliance.org/)の協賛を得て行われた日本で初めてのイベントです。

 

「ソフトウェア開発現場に求められる新しいリーダーシップアジャイルに見る大野耐一、デミングの影響」

リーダーシップの歴史をたどる

平鍋氏と前田氏の2人のテンポの良いオープニングに続いて、『リーン開発の本質』(日経BP社)の著者で知られるメアリー・ポッペンディーク氏が拍手の中 登壇し、「ソフトウェア開発現場に求められる新しいリーダーシップ?アジャイルに見る大野耐一、デミングの影響?」と題するキーノートセッションを行いま した。今回のイベントのテーマは「人とリーダーシップ」ということで、ポッペンディーク氏はリーダーシップの歴史を紐解くことからプレゼンテーションを始 めました。このプレゼンテーションは平鍋氏の対訳と解説付きで行われました。

/mag4media/repositories/fs/articles/agile-japan-2009/en/resources/1.jpg キーノートセッション:メアリー・ポッペンディーク氏

●テーラーとアレン
まず、リーダーシップの古典としてフレデリック・テーラーの『科学的管理法(The Principles of Scientific Management)』が紹介されました。現在も産能大学出版から刊行が続けられているこの書物には、専門家の決定した方法に従って現場が作業をする古 典的な管理法がまとめられています。最高のやり方は1つだけ(そして、それを専門家だけが知っている)というのがその前提です。
また、アレン式四段階法で知られるチャールズ・アレンも紹介されました。「新人を配置する」「作業をしてみせる」「効果を確認する」「フォローする」とい うプロセスがアレンの考えで、新人教育で用いられるOJTのもとになっているものです。アレンの四段階法は第一次大戦で戦艦を大量に建造する際に生まれた アプローチで、戦争が終わるとともに欧米では忘れ去られてしまったのですが、1950年代に日本に輸入され、「TWI監督者訓練 (http://www.koyoerc.or.jp/)」として戦後復興の礎となりました。
 
●トヨタ生産方式へ
TWI監督者訓練の基本理念は「人間性の尊重(一人一人の存在価値や尊厳を認める)」と「科学的アプローチ(作業上のムリ、ムダ、ムラを取り除く)」の2つであり、その考え方が日本のものづくりを代表するトヨタ生産方式へと進化していきます。
トヨタ生産方式をまとめた書物『トヨタ生産方式』を著した大野耐一氏によると、標準とはあくまで改善のための基準に過ぎないそうです。現場で起こっている ことをもとに現場の人間によって作られ、そして現場に合わせて変えていかなければならないものだといいます。「1ヵ月も標準が変えられないと、1ヵ月遊ん でいたことになる」とさえ述べていたそうです。
 
●権限の委譲とリーダーシップ
なお、トヨタ生産方式を分析したゲリー・ハメル氏は、トヨタのアドバンテージは「普通の従業員が持つ知恵を受け入れる能力」にあると結論づけたそうです。 日本の製造業に統計学的な手法を持ち込んだエドワード・デミング博士は、変動はシステムに内在しており、システムの働きを変えるにはリーダーシップが重要 だと述べたそうです。『品質管理入門』(日科技連出版社)で知られる石川馨氏によると、マネジメントとは部下に自分の能力をフルに発揮できる環境を与える ことで、経営者や管理者層は権限をできるだけ現場に委譲しなければならないとしているそうです。ポッペンディーク氏によると、作業がうまくいかないときに は3つの反応がありうるそうです。「作業について文句を言う」のか、「作業を無視する」のか、「自分で解決しようとする」のか。
ここでポッペンディーク氏は4種類のリーダーシップ像を提示しました。
1.トップダウン×一般的管理技術型:官僚的管理者(決まりに従え!)
2.トップダウン×仕事内容理解型:作業管理者(これをこうやります。さあ、やってください!)
3.ボトムアップ×一般的管理技術型:グループファシリテーター(みなさんの力で!)
4.ボトムアップ×仕事内容理解型:学習する組織の作り手(目的と方向性はこうです。一緒にやろう!)
●トヨタ生産方式のリーダーシップ
トヨタ生産方式におけるリーダーシップは4つめの「学習する組織の作り手」に位置づけられるそうです。そのリーダーシップには
・先生としての役割
・一人一人が主体的に問題解決し、仕事を改善するように指導する役割
・一人一人の仕事が、「顧客の価値」と「会社の繁栄」の両方に価値提供するように整合させる役割
が求められます。3M社ではマーケティングと技術のリーダーを兼ねる人のことを「チャンピオン」と呼んでいるそうですが、こうした顧客のニーズと技術を結びつけていく人材がこれからのソフトウェア業界に求められていくのでしょう。
●システムの全体最適を目指す
トヨタの張富士男氏は「ふつうの人々からすばらしい成果をあげるような、すばらしいシステムをマネジメントする。我々のコンペティタは、すばらしい人々か ら普通の成果を上げるような、壊れたプロセスに四苦八苦している」と述べたそうですが、デミング博士の言うように、システムの全体最適を実現することので きるリーダーシップが今こそソフトウェア産業で求められているのだと感じました。
 

キーノートセッション「ソフトウェア開発に生かす、トヨタ生産方式モノづくりヒトづくり」黒岩惠氏

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●日本のソフトウェア業界の問題点を鋭く指摘
キーノートセッションの2つめは中部ESD拠点推進会議代表、九州工大大学院/名工大客員教授である黒岩惠氏による「ソフトウェア開発に生かす、トヨタ生 産方式モノづくりヒトづくり」です。黒岩氏はトヨタ自動車のIT教育責任者として活躍され、IMSやオープンFA、CALSなど数々の通産省プロジェクト に関わってこられた方です。現在は、ものづくりIT関連団体などで精力的に活動されています。
黒岩氏はまず日本のソフトウェア業界の問題点を鋭く指摘しました。技術とビジネスの両方を考えることが重要なこと、そして技術を囲い込まずどんどんオープ ンにし、ともに業界を良くしていく姿勢が必要だと言い切りました。ソフトウェア業界が標榜するトヨタの方の発表ということで最初はやや遠慮がちだった会場 も、このストレートな発言に一気に沸き返りました。

●リーンへの変化は必然
トヨタは愛知にあり、雑音のない環境で純粋に考えることができ、またそれゆえに情報へのアンテナも鋭く、しっかり勉強する姿勢があったのに比べ、ソフト ウェア業界はは外国の3文字英語をそのまま輸入するなど、安易な行動に流れがちであるとのことです。もう少し自分の哲学を持って仕事をしてはどうかと苦言 を呈しました。日々の改善の結果、トヨタの在庫はたったの2時間だそうです。日単位で在庫を持つような仕事ぶりでは、見積りもさぞ難しかろうというのが黒 岩氏の意見です。
ソフトウェア業界もトヨタ生産方式の流れを汲むリーン開発を学ぶべきだと続けました。自動車の生産がフォードシステムからトヨタ生産方式への変化があった ように、ソフトウェアの開発もウォーターフォールからリーンへの変化は必然なのではと述べました。そして、世界最初のマイクロプロセッサ、インテル 4004の開発に日本人(嶋正利)が関わっていたことに触れ、日本のソフトウェア業界の一層の奮起を促しました。
 
●多能工化を目指せ
1980年代に、トヨタ生産方式はトヨタとGMの合弁会社NUMMIに導入され、アメリカの工場にも取り入れられることになりました。この工場ではハイテ クよりも人間性・人間力を重視し、一度は閉鎖されてしまった工場を再生させることに成功しました。かつてのアメリカの工場では職能が200にも分かれてい たそうなのですが、NUMMIでは組立工と保守・保全工のわずか2つの職能に分け直し、多能工化を進めたそうです。それに比べ、黒岩氏はソフトウェア業界 は何かと職能を分け過ぎなのではと黒岩氏は指摘しました。上流・下流、、、などのように仕事を分けず、互いに少しずつできる範囲を広げていくほうが効率化 に結びつくという考えです。
 
●お客様にとって本当に必要なものをつくれ
黒岩氏は、一番大切なのはお客様であり、必要なものしかつくらないことの大切さを説きました。そのためには常に頭の中をくすぐり、ノウハウ(How- why)よりもノウホワイ(Know-why)を考え抜くことが必要だと述べました。仮にツールを導入するにしても、それがよって立つ根拠や本質を考える ことが先なのです。
 
●あるべき姿を目指し改善し続ける人間集団を
黒岩氏は、コラボレーションとコミュニケーションを行い、メン バーのベクトルを合わせ、常にあるべき姿を目指して改善し続ける人間集団を創り上げようというメッセージを会場に贈りました。自立、達成感、向上心は万国 共通だそうです。テクノロジーに使われるのではなく、自分の頭で考えテクノロジーを使いこなし、より良いものに変えていくのが、これからのエンジニアに求 められる姿勢だと強く感じました。

パネルディスカッション―メアリー・ポッペンディーク氏、黒岩恵氏、平鍋健児氏

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ポッペンディーク氏と黒岩氏の2つのキーノートセッションに続いて、平鍋氏を交えたパネルディスカッションが行われました。このパネルディスカッション は、会場からの質問を受けながら行われました。トヨタ生産方式からリーン開発を生み出したポッペンディーク氏とトヨタ生産方式のまっただ中にいた黒岩氏が どのようなことを語るのか、会場の熱気はさらに高まりました。

●Q1.学習する組織のつくり方
会場からの最初の質問はポッペンディーク氏のキーノートで触れられた「学習する組織」の作り方です。メアリーは現場に考える機会を与えないと改善ができな いと語りました。黒岩氏は、どうやって学習する組織を作るのか、それを自分で考えるのが学習する組織への第一歩だと言い切りました。自分でやること、ノウ ホワイ(Know-why)を考えることで、応用が利く考えが身につくそうです。ポッペンディーク氏も、いちいち許可を取るのではなく(許可を取らずに やってしまったことを)謝罪するという姿勢でいなければものごとが進まないと同調しました。
 
●Q2.アジャイルはプロトタイピング?
次の質問はアジャイルとプロトタイピングの違いです。プロトタイピングと同じように受け止められてしまい、アジャイルの上司受けが良くないようです。黒岩 氏はアジャイルかプロトタイピングかというメソドロジーの違いではなく、より本質的なものを考え抜く姿勢を取ることを勧めました。ここでポッペンディーク 氏の夫であるトム・ポッペンディーク氏がマイクを取って壇上に登り、アジャイルにはフィードバックとラーニングのしくみがあることをプロトタイピングとの 違いとして挙げました。アジャイルでは学んだことをテストとして残していくことが大きな特徴で、最後にテストを行うウォーターフォールに比べてムダが少な いことを解説しました。
 
●Q3.目に見えないものしか評価されない?
続く質問は、ソフトウェアエンジニアは目に見えないものを作っていて、評価されにくいという悩みでした。黒岩氏は、見えないものを見えるようにすることの 大切さを力説しました。どんなにがんばっても、見えないものは改善できません。いろいろな視点でものを考え、わかりにくい言葉を使っていないか、誰にでも 伝わるように話せているか考えてみることを勧めました。
 
●Q4.成果主義は失敗?
成果主義についての質問も出ました。みんなで知恵を合わせてすばらしい製品を作るという黒岩氏の考え方はわかるものの、成果主義の中では足の引っ張り合い になることもあり、理想的なチームを作りにくいという質問です。黒岩氏は、成果主義は同質的な文化を持つ日本にそぐわないことを述べました。また若手の育 成も成果主義の中では難しいと述べました。農耕的な日本文化が狩猟的な文化に荒らされないようにすべきだそうです。ポッペンディーク氏は、個々人が自分の 達成目標を設定する目標による管理(マネージメント・バイ・オブジェクティブ)による評価制度が、アジャイルな組織ではうまく機能しないことを紹介しまし た。

最後に平鍋氏が付け加えたように、来年はぜひ経営者の方にもいらしていただき、評価制度についての議論もできるようなイベントに育っていることを願います。
 

ランチタイム―ライトニングトークス

/mag4media/repositories/fs/articles/agile-japan-2009/en/resources/4.jpg 大阪のおばちゃんは実はアジャイル?

(1)永和システムマネージメント(スポンサー協賛) (2)SonicGarden(スポンサー協賛)
(3)ボーランド(スポンサー協賛) (4)日本IBM(スポンサー協賛)
(5)富士通周辺機株式会社(実行委員推薦) (6)アジャイルプロセス協議会(特別後援) 

ランチタイムを使って、5分間ずつショートプレゼンをする「ライトニングトークス」が行われました。TIS株式会社でソニックガーデンという社内ベン チャープロジェクトに携わる藤原士朗氏を皮切りに、ボーランドの松井陽子氏、日本IBMの玉川憲氏、永和システムマネジメントの角谷信太郎氏、アジャイル プロセス協議会の懸田剛氏、富士通周辺機の田中聖能氏、データプロセスの新実崇宏氏が、次々とテンポの良いプレゼンを披露しました。
ランチは会場後方に用意されたケータリングを自由に食べる形式となっていたので、参加者は思い思いのスタイルで登壇者のトークを楽しみました。日本IBM やボーランドのような大手ベンダーの社員の方がこうしたイベントに参加してプレゼンを行うことに、今のアジャイルの勢いを感じます。

事例セッション「スピードがすべてを駆逐する Part 1」山崎裕詩氏、當中寛哲氏(モデレータ:前川徹氏)

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●山崎裕詩氏のセッション―その名はユニケージ開発手法

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事例セッションのPart 1は社内システムの再構築をユニケージ開発と呼ばれる手法で行った良品計画の山崎氏によるものです。良品計画ではシステムを、早く柔軟に変更に対応する必 要のある管理系と、要件がはっきりしているもののスキルの求められる実行系に分けて考え、管理系の内製化を進めているそうです。ユニケージ開発手法は、複 雑なミドルウェアやDBを使わず、シンプルなコマンド言語の組み合わせで開発を行う手法です。ユニケージ開発では、利用部門と開発部門が顔を合わせて、業 務プロセスを整理しながら開発を進めるそうです。業務の入出力イメージをHTMLやExcelで作り、ユーザーのアイディアを引き出していくそうです。開 発部門には業務知識と理解力が求められ、利用部門には検証力が問われます。最初から100%を求めるのではなく、70%程度のレベルで早く試作し、手直し を行いながら完成度を高めていくというアジャイル的な手法です。
なお、ユニケージ開発によって、システムコストは20億円から12億円に下がり、売上高に占める割合を1.8%から0.9%にまで低下させることに成功し たそうです。良品計画では、「自社の競争力を高める」「すべてに100%を求めない」「リスクヘッジでなくリスクテイク」「本質的な要件定義力を持つ」と いったことをIT戦略としているそうですが、経営こそがアジャイルになっているのだと感じました。
 

●當中寛哲氏のセッション―ユニケージ開発手法の驚くべき姿

當中氏からはユニケージ開発手法の詳細が発表されました。ユニケージ開発手法はダイエーの中内功氏の業革プロジェクトチームに端を発しており、金なし権限 なし素人だけという厳しい環境の中で編み出された工夫であるとのことです。ユニケージという名前はUNIX、Unique、Unifyから来ており、ユー ザーのニーズをどれだけ安く、早く、柔らかく具現化するかがキーになっているそうです。システムはシェルスクリプトで作られているため、基本的な技術は約 40年変わっていないとのこと。プログラムに必要なのはviとcpのみ。良いプログラムを積極的にコピーして、より良いプログラムに変えていく努力をして いるとのことです。情報は変数ではなくファイルの中にあるという発想で、実データを使ったデータプログラミングで開発とテストを同時進行させているそうで す。運用監視もすべてシェルスクリプトで記述されており、走行ログ、運営ログ、処理報告、二重化、バックアップなどの作業がすべてシェルスクリプト化され ています。
當中氏によるとユニケージ開発手法の思想は、
・大規模で複雑なシステムを分担せず効率良く開発したい
・プログラムは作り捨てにしてもいいくらい簡単にしたい
・仕様変更に柔軟に対応したい
・少しでも楽に開発したい
ということだそうです。ユニケージ開発手法を通じて新7Kと呼ばれる状況から脱出し、世情、人情、コンピュータに通じたスペシャルゼネラリストを育成した いという思いを持っているそうです。現在は、技術を磨いてシステム(業務のしくみ)で競争する時代であり、高度なクォリティと細やかなサービスで優劣が決 まるというお考えだそうです。「安い、早い、柔軟」を実現できるユニケージ開発手法にとても興味と共感を持ちました。
 

 

アイスブレイク「チーム力をつくる1st STEP」本間直人氏

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ユニケージ手法の熱いプレゼンの後は、ちょっと一息入れるためのアイスブレイクです。NPO国際ファシリテーション協会理事の本間直人氏がステージに現 れ、次のコミュニケーションタイムに向けての配置換えを、アイスブレイクと絡めて行いました。アジャイルを実践したり興味を持つ参加者が多数なだけに本間 氏との息はぴったりで、無事短い時間で6つのエリアに席を分散させることができました。

 

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コミュニケーションタイム

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コミュニケーションタイムは90分連続のスキルセッションと、40セッション×2回の事例セッションに分かれて行われました。
 
●スキルセッション
スキルセッションでは色や記号を効果的に使った板書を行うことで議論を見える化する手法「ファシリテーショングラフィック」(加藤彰氏)、カードゲームを 使ったプロジェクトマネージメントの体験(羽生田栄一氏、安井力氏)、プロジェクトファシリテーションに関する悩み相談(平鍋健児氏、前川直也氏)の3つ のセッションが行われました。

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●事例セッション
事例セッションでは先に行われた良品計画の「スピードがすべてを駆逐する」のPart 2のほか、リクルートの事例「ユーザ企業責任で25サイトをアジャイルに開発」(前田圭一郎氏)、富士通の事例「モチベーション駆動開発」がそれぞれ2回 づつ行われました。

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クロージングセッション「次世代のリーダーをつくるチームビルディング」岡島幸男

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●透明な壁
9時半から始まった本イベントを締めくくったのは永和システムマネジメントの岡島幸男氏です。岡 島氏はカマス(1.7メートルもある巨大な魚です)の実験の話をしました。カマスの入った水槽に透明の壁を作り、その先に餌を入れるとどうなるかという実 験です。カマスは食欲旺盛な魚ですから、何度も餌に向かって飛びつき、透明な壁にぶち当たります。そのカマスも何度も痛い目に遭っていると、いつしか餌に 飛びつくことをやめ、透明な壁を取り払っても餌に近づこうとしなくなるそうです。開発チームとマネジャにもこうした透明な壁があるのではと岡島氏は指摘し ました。
アジャイルを行う開発チームは、個人個人で好き勝手をやったり、組織の成功を軽視したり、コードを書くことがすべてと思っているような誤解を持たれがちで す。マネジャは、組織のルールにがんじがらめになっていたり、人間を軽視したり、売上と利益がすべてと考えているような誤解を持たれがちです。

 

●個人の目標と組織の目標
ピーター・ドラッカーは仕事の論理と労働の力学の2つのバランスなくして生産性の向上はないと述べましたが、岡島氏はその例を引きながら、ソフトウェア産業でも個人と組織が目標や成功モデルを共有できるようにする必要性があると主張しました。

Q.うちのマネジャは、とてもそんな成功モデルを持っているとは思えない。
A.ちゃんと話をしたことありますか?
Q.開発プロセスは規定だから変更できないとマネジャに言われました。
A.開発プロセスだけがすべてではありません。成功を目指すため、ほかにできることはありませんか?

こんな問答を例に出しながら、開発チームとマネジャの間にある透明な壁を取り除く一歩を踏み出す努力を促しました。

●個人と組織の相互の努力
岡島氏の所属する永和システムマネジメントにはアジャイルの専門チームがあるそうです。このチームはトップダウンでできたものではなく、同社の有志によっ て作られ、3、4年かけてようやく軌道に乗ってきたものだそうです。他のボトムアップ活動として、組込チームでは、ETロボコンというイベントに、人材育 成と会社のプロモーションにつなげるために主体的に参加しているそうです。現場の挑戦を経営の言葉に翻訳して粘り強く訴え実践する、経営はその気持ちに応 えて権限と責任を与える、そうした透明の壁を取り除く努力を相互に続けているそうです。

「Social Change Starts with you.(社会的な変革はあなたから始まる)」(ケント・ベック)
「私たちの行動は周りの状況からではなく、私たち自身の選択によって決まるのだ」(スティーブン・コヴィー)
「明日世界が終わるとしても、私はリンゴの木を植える」(マルティン・ルター)
「仕事をいかに行うべきかを検討することは、働く者とその集団の責任である。仕事の仕方や成果の量や質は、彼らの責任である」(ピーター・ドラッカー)
「アジャイルプロセスを外部から押しつけることは、アジャイルの心臓部とも言うべき『自発的な決定』をチームから奪ってしまう」(ファウラー)
「人を束縛して心配するより、人を放って苦楽をともにせよ」(福沢諭吉)

こうした先人の言葉を引用しながら、主体的に理想を目指して継続していくプロセスこそが真のチームビルディングではないかと岡島氏は問いました。

●主体性のある人がいなかったら
主体性のある人がいなかったら主体性のある人を育てる、教育コストが出ないならチームの仕事を通して育てる。チームビルディングには朝会や、KPTふりか えり、タスクカンバン、キャラクターマップ、パーソナルナラティブ、キックオフミーティングなどさまざまなプラクティスがありますが、大事なのはそうした プラクティスを主体的に考えて使うことです。そしてそれを自分たちからやることが出発点なのです。詳しくは同氏渾身の力作『ソフトウェア開発を成功させる チームビルディング』(ソフトバンククリエイティブ)をご覧ください。

●傷付いたカマスを元気にする方法
さて、カマスの実験には続きがあるそうです。餌に飛びつくのをやめ、弱ってしまったカマスをどうするのか。そこに新しいカマスを入れ、そのカマスが積極的 にえさを食べていることを見ると、傷ついたカマスも再び餌に飛びつくようになるそうです。ではその新しいカマスはどこにいるのか。「きっとそのカマスはあ なたのチームにいるはずですよ」そんなメッセージでクロージングセッションは幕を閉じました。

おわりに―次はあなたの番です!

ペア割引で上司やお客様を巻き込むという、今までにないスタイルで行われたアジャイルジャパン2009。本レポートで伝えることができないことは、1つの 場を一緒に過ごしたという皮膚感覚です。ともに聞き、ともに考え、ともに議論する、そんな参加者が主体的に作り上げていくイベントの1つのあり方をアジャ イルジャパン2009は見せてくれました。
次回参加するのは、あなたかもしれません。次回発表するのは、あなたかもしれません。そして、このレポートを書いているもの、もしかしたらあなたかもしれません。ぜひ、あなたも日本のソフトウェア業界を変えるムーブメントにご参加ください。

著者について

/mag4media/repositories/fs/articles/agile-japan-2009/en/resources/10.jpg野口隆史(Takafumi NOGUCHI)

IT系オープンペーパー「EM ZERO」編集長。ソフトウェアがどのように人々の幸せに貢献できるかを模索中。
URL:http://www.manaslink.com/
 

 

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