キーポイント
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企業は、LCNCプラットフォームを選択する際に、6つの適性(目的適性、コスト適性、運用適性、ユーザー適性、ユースケース適性、組織適性)を確認する必要がある
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LCNCプラットフォームを1つだけに限定する必要はなく、特定のニーズを満たすために異なるLCNCプラットフォームを活用する
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アプリケーションの数が多く、分離されていて、エクスポートオプションが提供されていない場合は、プロバイダのクラウドを選択する
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"テンプレート駆動型"LCNCプラットフォームは、社内アプリケーション開発に適しているが、"コードイネーブラー型"LCNCプラットフォームは、社外アプリケーションにより適している
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ITチームは、LCNCプラットフォームを企業に導入する際に、極めて重要な役割を果たす。なぜなら、ITチームは、企業の標準を維持しながら、市民開発者を革新に導く最良の立場にあるからだ
はじめに
LCNC(ローコード/ノーコード)プラットフォームは、プログラマーだけでなくプログラマーでなくても、最小限のコーディングとワンクリックのデプロイメントで、アプリケーションソフトウェアを開発できるよう設計されている。ドラッグ&ドロップ方式のインターフェースなどを利用することで、開発・デプロイメントプロセスを簡素化し、効率的なアプリケーション開発とデプロイメントを実現する。
これらのプラットフォームは、迅速なアプリケーション開発とデプロイメントプラットフォームを提供するサービスとして設計されており、開発プロセスを迅速化する。
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LCNCの現状
Nasscomのレポートによると、LCNCを採用することで、開発・展開時間が3~7倍、コストが3~5倍削減されたという。
また、 ガートナーの調査によると、2025年にはアプリケーション開発の70%がローコード化され、ローコード開発技術への支出は300億ドル近くにまで拡大すると予想されている。
最近の マッキンゼーの調査では、 市民開発者に権限を与えている組織は、そうでない組織よりもイノベーションの指標で33%高いスコアを出していることが明らかになっている。
LCNCは、アプリケーション開発のパラダイムを変え、より速く、より民主的なアプローチでイノベーションを実現するものであり、競争力を維持したい企業は、LCNCを採用するための明確な戦略を策定する必要がある。
あなたの会社にLCNCを選択する
無数のLCNCプラットフォーム - WordClouds.comを使用して作成された
市場には300以上のLCNCプラットフォームがあり、目的、価格、ロックインオプションも様々である。多くの選択肢があるため、意思決定プロセスが非常に困難になる。組織の長期的な要求に応えるLCNCプラットフォームを選択することは、さらに難しい。
ここでは、LCNCを選ぶ際の意思決定プロセスを簡素化できるよう、確認すべき6つの適性を説明する。
1.目的適性 :必要条件を満たす
組織がアプリケーションを開発する主な目的は、概ね次のいずれかに分類される。
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プロトタイプ: 本格的なアプリケーションを開発する前にアイデアを検証する
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単発の要件:たとえば、マーケティング/キャンペーンサイトなど
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継続的に進化するアプリケーション: これらは一般的に業務アプリケーションである
プロトタイプや単発の要件については、ノーコード・プラットフォームを選択するのがよいだろう。例えば、市民開発者は、ノーコード・プラットフォームを使ってプロトタイプを作成し、自分たちの要件を検証し、見せることができる。そして、IT部門はそれを後に本格的なアプリケーションとして開発できる。また、市民開発者は、アンケートやキャンペーンページのような単発の要件を、ノーコード・プラットフォームを使って自分で実現できる。
進化するアプリケーションの場合、ローコードプラットフォームを選ぶと、コードによってアプリケーションを拡張できるので、より便利である。もし、要件の性質がテンプレートでは実現できず、頻繁に変更される場合は、標準的な開発手法がより適している。
LCNCプラットフォームは、Webサイト、Webアプリ、音声アプリ、モバイルアプリ、API、データベースなど、特定のタイプのアプリケーションの開発にも対応する。あらゆる目的のためにLCNCプラットフォームがある。だから、特定の目的のために適切なカテゴリのLCNCを選ぶことは、良いスタートになる傾向がある。全社的なLCNCプラットフォームを1つだけに固執する必要はない。
ここでは、特定のタイプのアプリケーションに適したLCNCプラットフォームをいくつか紹介する。
App Type | Example LCNC platforms |
---|---|
WebSites | Carrd, Sharetribe |
Forms | JotForm |
Web Apps | Glide,Bubble,Budibase |
Mobile Apps | AppSheet, thunkable, Play |
Enterprise Apps | OutSystems, Mendix, Zudy, Unqork |
Database Apps | Notion, Airtable, Retool |
Voice Apps | VoiceFlow |
AR/VR Apps | WondaVR, ,PlugXR |
Automation | Zapier, ProcessStreet, Parabola |
ML/Analytics | Google AutoML, Azure ML Studio, Amazon SageMaker Canvas |
特定のニーズを満たすために、さまざまなLCNCプラットフォームを活用する。
例えば、社内のLOBアプリケーションにはOutSystemsを活用し、顧客向けのキャンペーンサイトにはWebflowを使用できる。
2.コスト適性 :適切な価格設定モデルを選択する
LCNCプラットフォームの価格設定モデルは、様々なサイズと形状がある。典型的なライセンスモデルは、エンドユーザー、エディター、アプリ、リクエスト、データベース行、またはシートなどだ。
例えば、エンドユーザー単位の価格設定モデルは、LCNCプラットフォームで開発されたアプリケーションを使用するエンドユーザーの数に基づいている。
目的に応じて、適切な価格設定モデルを持つツールを選ぶ必要がある。例えば、社内向け(B2E)アプリケーションにはエンドユーザー単位の価格設定モデルを持つツールを検討してもいいが、顧客向けアプリケーションではコストが跳ね上がる可能性があるため、検討しない。
エンドユーザー単位の価格設定モデルは、利用者が限定されるアプリケーションにのみ適用する。
ロックインのコストは、コスト適性の一部として考慮する必要がある。ロックインのリスクを減らすために、LCNCプラットフォームがコードエクスポートやセルフホスティング機能を提供しているかを確認する必要がある。
3.運用適性:適切なホスティングを選択する
LCNCプラットフォームは、通常、複数のホスティングオプションを提供している。典型的なホスティングオプションは、LCNCプロバイダーのクラウドと、自社のインフラ内でのセルフホスティングである。
プロバイダのクラウドを選ぶと、エンドツーエンドのDevOpsツールチェーンが使えるので、運用管理がしやすく、コスト効率が良いという利点がある。このメリットは、プロバイダーの環境内で相当数のアプリケーションがホストされており、それらのアプリケーションが本質的に分離されている(つまり、ホスティングインフラに存在する既存のアプリケーションとの統合が限定的である)。場合に最適であることに留意してほしい。また、プロバイダーのクラウドが、導入したリソースの透明性を確保し、アプリケーションの重要度に応じたサポートを提供しているかも確認する必要がある。
例えば、Mendixプラットフォームで開発したアプリケーションの数が多く、さらに多くのアプリケーションを開発する予定であれば、Mendixクラウドを選択することが費用対効果に優れ、運用面でもシンプルになる可能性がある。
アプリケーションの数が多く、孤立しており、エクスポートオプションが提供されていない場合には、プロバイダーのクラウドを選択する。
LCNCプラットフォームは、運用適性の一環として、セキュリティ、オブザーバビリティ、パフォーマンス、サポートの観点からも見直す必要がある。例えば、データ要件がより厳しい場合は、セルフホスティングやセルフホスティングデータベースとの統合を提供するプラットフォームを選択する。
4.ユーザー適性:観点のバランスをとる
LCNCのプラットフォームを採用する場合、3つのユーザーペルソナが関係している。それはバイヤー、プラットフォームユーザ、エンタープライズアーキテクトの3つのペルソナである。プラットフォームユーザは、さらに市民開発者とプロ開発者に細分化される。この3つのペルソナの要求をバランスよく満たすことが重要だ。
ペルソナのバランス
バイヤーのペルソナはコストに重点を置くが、エンタープライズアーキテクトのペルソナはロックインを心配するかもしれない。最後に、プラットフォーム・ユーザーのペルソナは、目的への適合性をより重視する。
目的適合性、カスタマイズのサポート、学習性、統合性のサポートなど、プラットフォームユーザーのニーズは最優先されるべきであるが、妥協も必要であろう。エンタープライズアーキテクトの場合は、標準準拠、セキュリティ、ロックインリスク、サービスサポートなどの要求を2番目に優先すべきであるが、組織に悪影響を及ぼす可能性があるため、大きな妥協はすべきではない。コストなどのバイヤーのニーズは最後に優先されるべきだが、返ってくる価値と照らし合わせて評価する必要がある。
例えば、LCNC プラットフォームのホワイトラベル機能は第一優先とし、企業のセキュリティ要件を第二優先とする。また、プラットフォームの価格モデルとその返される価値との比較は、最後の優先順位であるべきである。
3つのペルソナのバランスをとる:バイヤー、プラットフォームユーザー、そしてエンタープライズアーキテクト。
5.ユースケース適性:社外向けか社内向けか
企業におけるアプリケーションのユースケースは、外向きアプリと内向きアプリに大別される。LCNCプラットフォームに関しては、さらに市民開発者アプリとプロ開発者アプリに分けることができる。
アプリケーションのユースケースとLCNCプラットフォーム利用者
あるLCNCプラットフォームは、社内向けアプリを作る市民開発者に適している。その一方では、あるLCNCプラットフォームは、顧客向けのアプリを作るプロ開発者に適しているかもしれない。
LCNCプラットフォームの多くは、フォーム型CRUDアプリやスプレッドシート型アプリなど、特定のタイプのアプリケーションの開発を効率よく進められるよう設計されている。この制限は、プラットフォームが提供するテンプレートとその設定オプション、そしてカスタムコーディングによる拡張性に起因しているものと思われる。
一般的に、ワークフローや自動化、スプレッドシート的なアプリケーションに焦点を当てたテンプレート駆動型ツールは、顧客向け(B2C)アプリケーションよりも、社内ビジネスアプリケーションに適している。一方でB2Cアプリケーションは、カスタマイズによりユーザーエクスペリエンスの差別化を図る。テンプレート駆動型のプラットフォームは、B2Cアプリケーションで必要とされるカスタマイズに限界があり、カスタム機能を開発するのに多くの労力を要することになる。そのため、定型的な要素の生成を自動化することで開発者の生産性(コーディングやデプロイメント)を向上させるプラットフォームは、B2Cアプリケーションに適している。
例えば、TeleportHQにはコードエクスポートオプション(エディタ単位の価格設定)があるため、エンドユーザー単位の価格設定モデルのプラットフォームよりもB2Cウェブサイトの開発に適しているかもしれない(両方のプラットフォームが同様の機能を提供していると仮定した場合)。同様に、 GitHub Copilot(AIによる高速コーディングを可能にする)は、顧客向けの差別化された機能を構築するための高速コーディングを可能にするため、B2Cアプリの開発に適している。
"テンプレート駆動型"のLCNCプラットフォームは社内アプリに適しており、"コードイネーブラー型"のLCNCプラットフォームは社外アプリに適している。
6.組織適性:既存のシステムやツール
LCNCプラットフォームの選択は、既存のプラットフォーム(ServiceNow、Salesforce、SAP)、既存のテクノロジー(Java、.NET)、既存のスキル(市民開発者)、既存のコンプライアンス基準(WCAG)、さらに既存のシステムやツールとの統合に依存する。
LCNCの採用には、市民開発者に自由に開発させた場合のアプリケーションの乱立やセキュリティの問題を避けるためのガバナンスモデルが必要である。また、LCNCのためのセンターオブエクセレンス(CoE)が必要で、プラットフォームを規定し、その採用を推進し、 関連する人々(ビジネス技術者)をスキルアップさせる必要がある。
プラットフォーム、技術、スキル、標準、ガバナンスモデルなど既存のものを把握すること。
スキルアップのためのサポートとして、ノーコードやローコードプラットフォームのためのコミュニティが多数存在する。これらのコミュニティでは、テンプレートやディスカッションフォーラムなどにアクセスできる。以下は、その一例である。
また、 LowCodeConのようなLCNCプラットフォームに関するカンファレンスもあり、これらのプラットフォームを使っている他の人たちとつながるのに便利である。
次のステップへ
行動を選択したとき、その行動の結果を選択する。結果を望むなら、それを生み出すような行動をとったほうがいいに決まっている。 Lois McMaster Bujold氏
6つの適性を取り扱えるように、組織は、ビジネス技術者とITチームが従来の開発、ローコードプラットフォーム、ノーコードプラットフォームのいずれかを選択できるように、意思決定ツリーを考え出す必要がある。デシジョンツリーは、プラットフォームのユーザータイプ(市民開発者、プロデベロッパー)やユースケース(外部、内部)など、6つのフィットネスをすべて考慮するのだ。デシジョンツリーとは別に、組織はデシジョンツリーのすべてのシナリオに対応するLCNCプラットフォームのセットを規定する必要がある。
LCNC採用のアプローチ
組織は、次のような方法で LCNC プラットフォームの採用を計画できる。
LCNCの採用アプローチ
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6つの適性を考慮したLCNCプラットフォームの選択
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IT チームまたは IT デリバリパートナーによる PoC の実施
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セキュリティ、モニタリング、サポートに焦点を当て、プラットフォームの 運用適性の細部をレビューするチームを任命する。適合しない場合は、ステップ1に戻る
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ノーコード・プラットフォームの場合、選択したプラットフォームに関する市民開発者のスキルアップを図る
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採用とコンプライアンスを監督するCoEを設置する。CoE はデシジョンツリーを作成し、特定の LCNC プラットフォームを利用すべきユースケースを明確にする
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LCNC 開発のワークフローを確立する
1.市民開発者またはプロ開発者にアプリケーションを作らせる 2. 監査とレビューの後、ITチームにアプリケーションを展開させる
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市民開発者とITチームの間で、継続的なコラボレーションのための作業パターンを確立する
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開発者の労力削減とプラットフォームのコスト削減の指標を管理する
ITの役割
最後に、組織のITチームは、LCNCの採用において極めて重要な役割を果たす。なぜならITチームは、特に市民開発者のためのノーコードの採用に関して市民開発者を革新に導くより良い立場にあるからです。また、LCNCプラットフォームがホストするアプリケーションを含むIT資産全体に責任を持ち、企業標準を維持することも重要だ。
チーム・トポロジー・アプローチによるLCNC導入におけるITチームの役割
ITチームのインフラ/運用部門は、LCNCプラットフォームの運用機能を推進する"プラットフォームチーム"として活動できる(書籍"Team Topologies"」で定義されている通り)。そして、ビジネスポートフォリオに特化したアプリケーションチームは、(それぞれのビジネスポートフォリオに属する)市民開発者がアプリケーションを開発し、アプリケーションの無秩序のひろがりを防止するよう指導する"イネーブルチーム"の役割を果たす。
まとめ
LCNC導入の第一歩として、NoCodeTechのLCNCのキュレーションディレクトリや、有名なGartner Magic Quadrantや Forrester Waveから、LCNCプラットフォームについて学ぶことができる。そうすることで、利用可能な選択肢を知ることができる。
次に、あなたの組織におけるシンプルなB2Eアプリケーションや要件を探すことができる。例えば、コンプライアンス関連のアプリケーションで、CRUD画面が1つか2つ、ユーザーが限定されているようなものが良いだろう。
最初のアプリケーションが決まったら、ここで説明した6つの適性を参考に、ニーズに合った適切なLCNCプラットフォームを選ぶと良いだろう。