日本Ruby会議2008実行委員会は、年次カンファレンスである「日本Ruby会議2008」を、6月20日より22日まで筑波にて開催している。
昨年までは土日だけの開催だったが、今年は平日である金曜日を加えている。これは、「個人での利用だけではなく仕事でもRubyを利用されつつある。初日はビジネス向けセッションとした。(実行委員長 高橋征義氏)」とのことである。
1日目(0th Day)の最初のセッションでは、「『まつもとゆきひろ×最首英裕』~Rubyを仕事に2008~」と題した対談が行われた。
Matzことまつもとゆきひろ氏はネットワーク応用通信研究所に所属しているご存じRubyの父であり、最首英裕氏はRubyをビジネスで役立てるためのノウハウを共有し、生産性を高めあうことを目的に設立されたコミュニティ「Rubyビジネス・コモンズ」の会長であり、かつイーシー・ワンの代表取締役社長を務めている。
最首氏が立ち上げたイーシー・ワンはまずはJavaを使ったビジネスで成功を収め、現在ではRubyを使ったビジネスを立ち上げつつある。これらビジネスで共通しているのは「可能性を感じたから(最首氏)」。Rubyは3年前から取り組んでいるが、なにより技術者が喜び、そして生産性が向上したそうだ。最初は専門チームを立ち上げたが、全社展開に伴いチームは解散、現在では「Rubyを入れない案件は無い(最首氏)」とのことである。
まつもと氏は「10年くらい前からRubyでシステムを作っている」という。当時は言語としては未成熟だったそうだが、「島根の人たちは結果が出れば(どの言語を使っても)良い(まつもと氏)」ということで、「特に指定がなければRubyで作っていた(同氏)」。また、「東京とかのお客さんの方が言語まで指定してくるほど要求が細かいのでRubyを使いづらい(同氏)」とも述べた。
最首氏はRubyとJavaを比べたとき、「RubyはJavaのように使うことができて、JavaはRubyのように使うことは出来ないかもしれない」と述べ、またRubyを仕事で使うメリットとして「アジャイル開発がしやすい、プロトタイピングが容易」「学習曲線が早い」ことを挙げた。
Rubyを採用することに対する不安点として、最首氏は「Javaだと信頼できるがRubyだとちょっと不安という声を聞く(同氏)」というのを挙げ、まつもと氏は「確かにRubyの方が遅いかもしれないが、本質的なところを考えないで、イメージで言われているとなるとちょっとがっかりだ」と述べた。
また、最首氏は「カットオーバーの前日でも仕様変更しても大丈夫という誤解がある」と述べ、まつもと氏は「Ruby on Railsの普及により過大な期待を持たれやすいが、開発の本質は別のところにある」と述べた。
まつもと氏は「10年前のJavaに似ていると言われる」と述べ、最首氏は「Javaの時はもっとひどかった。でも使っていくうちに進化していくものだ。みんなが使うことが大切だ」と述べた。
話題として良く出るパフォーマンスの話は、最首氏は「ほとんどの場合はデータベースやJavaScript」といい、まつもと氏も「Rubyのパフォーマンスが遅いと言われ調べてみたら原因はデータベースだった」という。また、「レスポンスタイムではなくスループットとなると、アプリケーションよりかはインフラの問題が多い(最首氏)」という。
また、Ruby技術者についての話題もあった。
昨年よりRuby技術者の認定試験が開始され、現在はSilverという一番低いランクの試験のみ行われている。今後はその上のランクとして、GoldとPlatinumというランクも設けられる予定だ。
まつもと氏は「Rubyのエンジニアが増えてくると、『Rubyを知ってます』という言葉を信じることが出来ないエンジニアも出てくる。それは普通の言語になったということだ」と述べ、また「とんがった人たちを他の言語に移ってしまわないようにしないと」「現在アメリカではRails技術者は年収10万ドルという求人がある。いまが稼ぎ時かも」と述べた。
対談の最後に、最首氏は「Rubyと出会い、忘れていたものを思い出した」と述べ、まつもと氏は「10年前、皆Javaをワクワクしながら使っていたと思うが、現在ではそのような人は減ってきたと思う。Rubyは10年、20年後、「つまらない」と言われないよう、Javaと同じ轍を踏まないようにして、良いところは受け継いできたい」と述べ、対談を締めくくった。