1656 年の「プロヴァンシアルの手紙」に Pascal はこう記している。
この手紙がかなり長くなってしまったのは，単にそれを短かくまとめる時間がなかったからです。
同じことがアーキテクチャにも当てはまる。シンプルなアーキテクチャを作り上げるには，たいていの場合，複雑なものを作るより多くの時間が必要だ。Steve Jones 氏は言う。
... 私が思うには ... ビジネスアーキテクチャをシンプルに説明した図というのは，最初から描かれないか，あるいはそのシンプルさゆえ破棄されてしまうのか，そのいずれかなのです。たいていの人，特にアーキテクトは，シンプルなソリューションを作り上げるのに必要な，厳格な管理の実施を好みません。ろくでもないものを提供しておいて，ユーザにそれを我慢して使わせる方がずっと楽なのです。シンプルさには商品価値がありません。なぜならユーザに対して，いかに商品が複雑なものであるかをアピールするのに役に立たないからです。
そもそも「シンプルな IT」とはどんなものなのか？ 同氏は 最新の記事 で，次のように定義する。
... いくつかの質問がキーになります。
- IT 資産を個別要素の集合体として説明できるか？
- 個々の要素をビジネス環境において容易に維持できるか？
- 個々の要素を簡潔に説明できるか？
これら原則の意味を説明した上で，氏はさらに，
結局は古くからの原則である “ひとつの機能 (one thing wel)” なのです。IT においてこれが ... 意味するのは ... シンプルな IT 戦略の構成ブロックは必ずしもすべてが同サイズではない，ビジネスアーキテクチャのコンテキストにおいて理にかなった大きさなのだ，ということです ... シンプルな IT のアプローチの中心は常に，ビジネス戦略に沿った IT 資産の継続的発展にあります。特定のプロジェクトの成果に基づくものではありません。
Jones 氏によると，
... シンプルなITで重視されるのは次のものです。
- 短期的な便宜よりも長期的な発展
- コードの効率よりもアーキテクチャ的な明快さ
- IT 戦略よりもビジネス戦略
これは SOA の定義に非常に近い。
SOA ... [とは，] エンタープライズビジネスソリューションを設計，構築，および構成する基本単位として，ビジネスと連携したエンタープライズサービスという概念を推進するアーキテクチャ形式である。
IT のシンプル化に関する自身の見解を，Jones 氏は次のように要約している。
ここでポイントとなるのは，シンプルな IT とは，ひとつのプロジェクトを速く作り上げることではなく，２番目のプロジェクトとそのサポートをより速く，より効率的に作ることなのです。つまり，適切なアプローチが使用できるような管理と方向性を持つことであり ...ビジネスアーキテクチャのあり方，ヒートマップのあり方，そしてそれら領域への IT の協調に関するものなのです。
Jones 氏の記事で改めて強調されているのは，SOA の正しい実施とは，Web サービスや ESB プラットフォームなどテクノロジの問題ではなく，サービス設計においてビジネス指向の分析が実行されることである，という点だ。それこそが企業のビジネス理念を反映する IT システム構築の唯一の方法であり，IT コストに相応するビジネス価値の創造，ビジネスと IT 間のトレーサビリティ実現，さらには異なるビジネス価値領域に基づく IT と IT 管理を実現するものなのだ。