アジャイルチームでのスクラムマスタはフルタイムで行う役割か,あるいはパートタイムの役割か,という論争がここ数ヶ月間,コミュニティ内で多くの議論を巻き起こしている。
"Scrum Master - role or job?” という題名でセッションを行った Paul Goddard 氏が,ひとつの調査結果を発表している。
スクラムマスタの 75% は,現在のチームでのスクラムマスタとしての時間が,自身の作業時間の半分以下である。
スクラムマスタの 45% は,2つ以上の異なるスクラムチームをサポートしている。
スクラムマスタの 88% は,スクラムマスタとしての責務以外の責任を負担している。
同セッションではその成果を スクラムマスタ宣言 (ScrumMaster Manifest) として作成した。宣言の序文では,この役割問題に関する起案者たちの立場が明確に記されている。
私たちはスクラムマスタを,ひとつのスクラムチームに対して1人が担うべき,フルタイムの立場であると考えています。
これに続くのは,スクラムマスタとしての12原則をコンパクトに列挙したものだ。
1. 献身的な成果改善者であれ
2. 継続的改善を促進せよ
3. 継続的改善を支援せよ
4. コーチング提供を推進せよ
5. チームを育成せよ
6. チームの影の支援者であれ
7. 卓越性を保証せよ
8. 共感的かつ伝道的な指導者であれ
9. 抵抗力,継続性,献身的
10. チームを支援せよ
11. 認識して改善せよ
12. アジャイルの推進者であれ
Goddard 氏はアジリティに関する自身のブログで,宣言起草の背景を次のように説明している。
... 以前行っていたトレーニングクラスで新人スクラムマスタをコーチしていたとき,私はある傾向に気付きました。"スクラムマスタはスクラムチームにおけるフルタイムの立場か?" と問えば,大半の人が "いいえ" と答えるでしょう。しかし私が心配したのは,スクラムマスタ自身がスクラムマスタをチームの専任業務として認めないことによって,自身のチーム (と組織) が真にスクラムを受け入れるチャンスを損ねているのではないか,という点です。この傾向が時間の経過とともに拡大を続けていることが,今回のテーマでセッションを提供する動機にもなっています。 ...
スクラムの創始者のひとりである Jeff Sutherland 氏はスクラムマスタについて,2010 年に執筆した Scrum Handbook で次のように書いている。
スクラムでは,チームとプロダクトオーナの効率性に対する障害と脅威が数多く可視化されます。それらの問題に精力的に対処する,専任のスクラムマスタの存在が重要なのです
... スクラムチームには専任で従事するスクラムマスタを置くべきですが,小規模なチームについては,チームメンバのひとりがその役割を果たすことも可能です (この場合,通常業務の負担軽減が必要になります)。
氏は scrumdevelopment Yahoo! グループ における先日の議論でも,スクラムマスタがフルタイムの役割であることを改めて主張した。ただしバックログのタスクを担当できない訳ではない。
スクラムマスタは (あるいは他のどのチームメンバも) ,特定のバックログ項目に拘束されることはありません。バックログの解消はチーム全体で計画するものなのです。時間的余裕があれば,スクラムマスタもスプリントのバックログから作業を取得します。最初のスクラムマスタであった Johon Scumniotales 氏は,これを全作業時間の 80% として設定していました。私は彼のマネージャ兼チーフエンジニアとして,彼のすべての障害を取り除くことに努めました。最後に従事した企業では,スクラムマスタが障害対応に十分な時間を確保できない状況が毎日のミーティングで確認された場合,チームがスクラムマスタの担当作業を引き取ることをルールにしていました。
John Piekos 氏は,所属する組織がウォーターフォールからスクラムへ移行する際に学んだことを,自身の Agile Making Progress ブログで公表した。
スクラムマスタとプロダクトオーナはフルタイムで行う役割であるということは,"実施したトレーニング” や "参照した書籍" では何度も見ていたのですが,実際には信じていませんでした。仕事上の "体感" として,複数の役割と責任をやり繰りするのが誰にとっても普通でしたし,それがいつものやり方でもあったからです。しかし,アジャイルパイロットプロジェクトの過程で私たちは,スクラムの役割がパートタイムではあり得ないことを即座に確信しました。スクラムはウォーターフォール開発よりも集中力を必要とするのです。
最近のブログ記事 での Marcel Baumann 氏は ,もう少し経験を積んだチームにおけるスクラムマスタの役割について,これとは多少違った見方を持っている。
スクラムチームが新しく,チームメンバもアジャイルやスクラムの作業方法に初めて取り組むような場合には,スクラムマスタの役割がフルタイム作業であるとする起案者の意見に同意します。しかし私は,経験を積んだスクラムチームならば,スクラムマスタが複数のチームをサポートすることは可能であると考えています。
Wayne Grant 氏はソフトウェア開発の観点から さらに別の見方 をしている。
理想としては,スクラムマスタはその時間の大部分をスクラムマスタとして費やすべきでしょう。しかし私自身の経験から,同じことをチームとして行った方が,彼らと経験を共有できるという意味において,より効率的なスクラムマスタであると思います。大規模な開発作業は必要ありません。チームメンバとスクラムマスタのペアリングという形式も可能でしょう。
Lasse Koskela 氏が簡潔に 選択肢をまとめてくれた。
スクラムマスタの作業に熟達するためには,フルタイムのスクラムマスタが必要です。優秀なスクラムマスタは生産性向上を支援してくれるからです。その一方で,スクラムマスタの技術的な支援によって生産性を向上するためには,パートタイムのスクラムマスタも必要です。
アジャイルやスクラムの経験の浅い人たちや既存コミュニティの間に,スクラムマスタの役割に対する誤解があることは明らかだ。スクラムマスタはフルタイムの役割であるべきなのだろうか,あるいはチームの経験度によって使い分けが必要なのだろうか?