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Naresh Jain氏がインドのアジャイルについて語る

原文(投稿日:2012/02/10)へのリンク

インドアジャイルソフトウエアコミュニティの創設者であるNaresh Jain氏は近日開催されるアジャイルインドカンファレンスの開催者でもある。InfoQは氏にインド企業のアジャイルの需要と今後の動向について話を聞いた。

InfoQ: インドでのアジャイルの普及状態についてどう考えますか。

Naresh Jain: 熱狂的ですよ! インドの交通システムみたいです。管理された混沌です。この状態の美しさを味わうには崇拝者の目が必要です。

この7年間、私は多くの企業がアジャイルを試しながら次第に実践へと進んでいくのを見てきました。インドの組織の大部分は、大きなIT企業であれ、小さな投資顧問会社であれ、巨大なオフショアR&Dセンターであれ、アジャイルの手法に影響を受けているはずです。

世界の他の場所と同じようにソフトウエアベンダはアジャイルの実装に真剣で厳格に(必ずしも成功しているわけではありませんが)対応しています。

企業の様々なレイヤで働いている人に話を聞けば、彼らは今まで自分たちが乗っかってきたアジャイルの狂ったような騒ぎについて話してくれるでしょう。仕事の一番大事な部分をアウトソースすることや方法論に対する理解が欠けていること、組織の階層化などを非難する人もいるでしょう。<皮肉>3日間スクラムマスタ認定コースを受講するだけで、より生活しやすい世界になる</皮肉>などという商売もあります。実際は、旅は始まったばかりで、この流れの本当に面白い部分はまだやってきていません。


InfoQ: アジャイルはスタートアップや小さなソフトウエア会社が導入し始めているだけでしょうか。それとも大きな会社にも普及していますか。

Naresh Jain: 山火事というものはすべての方向へ広がります。現在では、95%のインドのソフトウエア会社がアジャイルしていると思います。最近ではアジャイルを正しくできているか問うのが流行です。やけくそでアジャイルを導入する企業もあれば、顧客や現場の圧力でアジャイルを導入する企業もあります。単なるマーケティングのこけおどしとしてアジャイルを使う企業もあります。デジャブを感じることもあります。10年前のCMMの騒ぎの時に同じような思いをしたような気がするのです。

でも、私は幸運にもアジャイルの精神を本当に信じている企業と一緒に働くことができました。禅問答みたいになってしまいますが、彼らはアジャイル"する"ことではなく、アジャイルに"なる"ことを理解していました。


InfoQ: IT産業はインドの基幹産業のひとつです。巨大なアウトソースプロジェクトを受託した場合、スコープを決めるための事前作業が大変になります。スコープはプロジェクトを通じて慎重に制御する必要があります。アジャイルをアウトソースプロジェクトに適用する方法はあるのでしょうか。

Naresh Jain: 私たち人間は"モノ"の認知モデルを作って、周囲の世界をそのモデルにあわせようとします。

数年前、ソフトウエア開発の認知モデルはソフトウエアの"アセンブリライン"でした。このモデルは下記を含意しています。

ステップ1: 計画と戦略化(少しは空想もする)
Step 2: 細部まで文書化
Step 3: 作業に従事する人を歯車のひとつとして扱うような厳格なプロセスを定義
Step 4: 安価な労働力を確保
Step 5: やることとやらないことを厳密に取り決めて作業開始
Step 6: 最良の開発管理方法を定義
Step 7: 繰り返し...
Step 8: そして、信じられないような成果 

残念ながらステップ7を越えられるプロジェクトはほとんどありません。ほとんどは厳しいスプリントの間に燃え尽きます。

他のたくさんの欠陥はさておき、このモデルは信頼や理解の共有、協調的なオーナーシップ、誇りや適応性などの大切さを低く見積もっています。

このようなプロジェクトは失敗する運命にあります。アウトソースかどうかに関わらず失敗します。<皮肉>もちろんアウトソーシングとオフショアリングの組み合わせは最高に興奮します。</皮肉>

少なくとも私にとっては、分散開発が難しいことは明らかな事実です。オフショア開発はさらに難しく、アウトソーシング&オフショアリングは最も難しいです。しかし、アウトソースされたオフショアリング開発のビジネスとマネジメントを正統化するのに有効なモデルは存在します(すべてのプロジェクトで使えるわけではありませんが)。

私はそのようなモデルを利用する上でアジャイルやリーンの考え方が有効だということを経験しました。例えば、

  • 不確定なことが多い中で事前に計画を立てるのはとても難しいです。アジャイルの方法論は不確定なことを管理するための基本的なモデルを提供してくれます。
  • 私は軽量なRFPプロセスの実装を支援したことがあります。RFPに対してMVPを実装することで競合よりも3倍高価な提案だったにも関わらず受注できました。
  • 多くの顧客が短いリリースサイクルとより積極的な開発への関わりを求めています。
  • アウトソーシングを受ける側の企業にとって、受注する側と発注する側が両方とも透明であること、そして両者のパートナーシップが重要です。

私の考えでは、アジャイルとリーンの考え方はアウトソースされた開発のモデルでは無視されていた重要なことに対して注意を促してくれます。そして、開発での苦痛を和らげてくれます。まだ前途遼遠ですが。

InfoQ: アウトソースプロジェクトの契約の詳細はどうなっていますか。ある予算と納期の組み合わせで何が実現できるのか知りたい企業の幹部とどのように契約を結びますか。

Naresh Jain: まだ信頼関係が醸成されていない場合(初めて一緒に働くときなど)は大抵、顧客はどのくらいの金額で何がいつ手に入るのか知りたがります。そして場合によっては、それを尋ねるのは正しいことです。

しかし、本当の問題は曖昧なものを見積もるのが難しいということです。プロジェクトの初期には私たちはほとんど何も知りません。

この問題に対処するため、私は、まずプロダクトディスカバリワークショップ(PDW)を開催するように組織に働きかけます。通常は1、2週間開催します。始めに顧客とマスターサービス契約(MSA)を締結し、その後、PDWのための作業記述書(SoW)の初版を作成します。PDWは開始日時と終了日時、作業内容が明確になっています。

ワークショップの最後に高いレベルのリリースロードマップを作成します。このロードマップから最初の作業を切り出し、おおよその工数を見積もります。そして、この部分に対して2番目のSoWを作成します。決められた費用、決められた日数内で作成します。

このように大きな製品ロードマップをブレイクダウンして小さなSoWの契約にし、プロジェクトを実施します。そして何度かPDWを行った後、リリースロードマップ全体のSoWにサインします。すべては両者がどの程度信頼し合っているかが鍵になります。

これが決まった金額でアウトソースプロジェクトの契約をするときのアジャイルな方法です。

InfoQ: リーンやスクラム、カンバンなどアジャイルには様々な方法論やフレームワークがあります。インド企業に導入されているのはどのような方法論ですか。

Naresh Jain: 一番導入が簡単だと思われているのはスクラムのようです。方法論やフレームワークの中で、(中間)管理職が最も怖がらないのがスクラムのようですね。結局のところほとんどの場合、彼らのような管理職が予算と決定権を握っています。スクラム認定の商売と組み合わせたら一儲けできますよ。

アジアでも世界でもアジャイルの方法論として最も普及しているのは間違いなくスクラムだと思います。

では、スクラムが最も普及しているとはどういうことでしょうか。プロジェクトマネージャはスクラムマスタと呼ばれ、チームは要求のことをユースケースやその他の呼び方ではなくユーザストーリーと呼び、毎晩、30分から45分くらいかけて演習をこなして(現場の開発メンバの確実に参加するようにしながら)、新しい洒落た(高価な)ツールを使って、チームのメンバの成果をバーンダウンチャートという指標で評価して、夜遅くまで働き、週末も働き、(従来の)テスト担当者を苦しませ、おおよそ30日毎に、60日の間に何を作っているのか示さなければなりません。そして何より、スクラムなら顧客はいつでも考えを変えることができます。

最も効果的なアジャイルの手法は何か、という問いなら考える価値があるのですが。

InfoQ: インドで最も成果を上げているアジャイルの手法は何だと思いますか。

Naresh Jain: ヌルプロセスです。つまり、プロセスや方法論にを追いかけるのを止めることです。ヌルプロセスは組織に対してプロセスを忘れ、ビジネスとそのビジネスの背後にいる人々に注目するように促します。

アジャイルムンバイ2010カンファレンスで、私とSandeepは"Monkey See Monkey Do(猿真似)"というワークショップを開催し、企業にプロセスを考えることを止めるように促しました。

InfoQ: アジャイルソフトウエア開発に関連するコースがインドの大学のカリキュラムに導入され始めています。この動きについて詳しく教えてください。

Naresh Jain: 7年間に渡り、インドアジャイルソフトウエアコミュニティ (ASCI)はインドの多くの大学と協業してアジャイルの概念を教育課程に組み込んできました。私たちはインドのトップ大学でいくつかの会議を主催し、学術界を巻き込みました。インド全土の教員のための再教育課程も開講しました。

大学について言えば、取り組みが際立っているのはゴア大学です。同大学では教育システムそのものをよりアジャイルにしようとしてきました。また、エクストリームプログラミングやスクラムを授業に取り入れました。来るアジャイルインド2012カンファレンスでは、同大学は高等教育におけるアジャイルの実践:事例研究ソフトウエア工学の授業でスクラムを実践するというふたつのプレゼンを行ってくれる予定です。

また、同じようにPES工科大学や、アクロポリス技術研究所、アナ大学、PSG工科大学などがエクストリームプログラミングを取り入れた教育を行っています。

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