『技術者たちと同じく、私たちは「完全性」を得ようと努力しています。この完全性とは、完璧なハードウェアの上で動作する完璧なコードを完璧な運用下に置くことです。』 これは、Netflix社のクラウドアーキテクトである Adrian Cockroft氏 による、Collaboration Summit 2013 における、最新の キーノート の冒頭部分である。 完全なユートピアに到達するには時間がかかりすぎる。市場にサービスを投入するタイミングの速さが品質に優先するし、そのように我々は妥協している、と彼は続けた。 しかし、Cockroft氏は「固定的で、より良く、より安価な」完全性が失われることを嘆くのではなく、より「速くて」「ダイナミックな」サービスを提供するために、Netflixの「クラウドネィティブな」アーキテクチャが、「壊れていてしかも不十分な」ディストピア的要素に、どのようにして対応しているのかについて述べている。 Cockroft氏は、『新しい技術的挑戦とは完璧なものを構築することではなく、不安定だったり壊れていたりするコンポーネントを使って、素早く高い可用性のあるサービスを構築することなのです。』と話す。
Netflix のシステムは、その ほとんど全て を Amazon Webサービス（AWS)インフラの上に構築しているが、そのアーキテクチャには、Nassim Taleb氏の2012年の著書「 対脆弱性：無秩序から得られるもの 」および Michael Nygard氏 の著書「 リリースせ よ！ 」からヒントを得た「対脆弱性パターン」を適用している。
この設計パターンは、ステートレスな自動スケール可能なマイクロサービス、 リアクティブAPI 、 サーキットブレーカ 、 バルクヘッド、そして行儀のよいデグレーション、といったものを含んでいる。 また、対脆弱性パターンは、 Chaos Monkeys という奇妙なコンセプトを含んでいる。これは、システム全体の可用性と信頼性をテストするため、運用中にランダムに仮想マシンを停止するというものである。 Cockroft氏によれば、Netflixは"Chaos Gorilla"も最近実施したそうだ。それは合計３つあるAWSゾーンのうちの一つをゾーン全体として停止するというもので、Netflixの顧客には全く気づかれることなく実施したという。
Cockroft氏は、このアーキテクチャは「クラウド・ネイティブ」なものであるとして説明している。『データのマスターコピーはクラウド内に存在し、全ては動的に供給され、全てのサービスは短命です。』と彼は言う。最大のサービス群は、平均インスタンス生存時間３６時間で自動スケールされている。物理的レベルでは、Netflix のインフラは、自動スケール化されたマイクロサービスを支える数千個のAWSインスタンスで成り立っている。このマイクロサービスの中には、ステートレスなミドルウェア機能を提供するものもあれば、 Cassandra NoSQL インスタンス群によるデータベースストレージを提供するものもある。
講演の最後の部分では、Cockroft氏は、この Collaboration Summitのスポンサーである、Linuxファウンデーションに対するアイデアとチャンスを取り上げている。 Cockroft氏が「夜も眠れずに」悩んだ事は、単一性に関する問題である。 「（従来の）最良の設計」を、上記のようなパターンによって置き換えること、そして複雑な相互作用を減らすことが、単一障害点という流行病を引き起こす。 Cockroft氏は、昨年オンラインサービスの 大きな問題 の原因となった、leap-second バグ（うるう秒バグ）の例を引き合いに出している。 こうした「パターンの失敗」を解決する唯一の道は、自動化された多様性管理と、有効性と脆弱性との間のトレードオフについて理解することである、と Cockroft氏は示唆している。
ネットワーク機器会社のSandvie社の 最新の報告 によれば、 Netflixは、米国から発信されるインターネット上のダウンストリームトラフィックの1/3に関係しているとのこと。 Nexflix は、自身のアーキテクチャについて非常にオープンであり、 NetflixOSS という形で、自身のソフトウェアコードを多数公開するという先進的な取り組みを行なっている。 この講演用の Adrian Cockroft氏のスライドは、 スライドシェアにアップ されている。