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指揮統制型の管理組織にアジャイルを導入する

原文(投稿日:2013/10/17)へのリンク

指揮統制(Command and Control)を管理手法の中心にしている組織がある。そのような組織にアジャイルを適用するのは非常に難しい。期待していた改善が実現できなかったり,失敗して中止される場合さえある。

何人かの識者が,指揮統制型の管理スタイルを持つ組織に対処する方法を提案している。組織のアジャイル適応可能性を査定する,経営陣の支援を取り付ける,アジャイル移行に伴うマネージメントの問題に対処する,アジャイル採用のために特別な移行アプローチを用いる,などの方法だ。

"Is your organization ready for agile?" と題したブログ記事では Software Engineering Institute のSuzanne Miller氏が,アジャイル採用を考える組織を対象とした即応性(Readiness)あるいは適応性(Fit)の分析について書いている。検討すべき対象として氏は6つのカテゴリを挙げる。そのひとつが "組織風土(Organizational Climate)" だ:

組織の文化は,組織のアジャイル適用に対する姿勢を評価する上で,[即応性と適応性に関して] 最も困難なカテゴリのひとつです。文化とは,行動の適切さあるいは不適切さ,価値感などについて,組織のメンバが共有すべき前提を包含するものです。例えば国防総省における組織文化は,コミュニケーションとリーダシップに関する厳格な指揮統制構造を伴った,計画主導的かつ階層的なものであるのが普通です。アジャイル採用に "適した" 組織に必要とされるのは,一般的に実証的,協力的,自己組織的,部門横断的な組織文化です。

氏はアジャイルを採用しようとする組織に対して,組織風土の即応性と適応性を評価する上で考慮すべき項目を一覧として挙げる:

  • ユーザと顧客の重視。ユーザに提供可能なソフトウェアの早期かつ頻繁なデリバリをサポートしていること。
  • ポジティブな変革の歴史。新たな技術と管理アプローチ導入に対する変革の実施が,最近において肯定的な結果に終わっていること。
  • 要求変更を受け入れる環境。必然性を持った要件変更への適応をサポートする仕組みが提供されていること。
  • アジャイルを支持する環境。アジャイルチームの成功に必要な物理的,社会的環境が提供されていること。
  • 信頼できる環境。スポンサと開発者間の相互信頼を組織風土としてサポートしていること。
  • 失敗からの学習。"早い段階で速く失敗して,その失敗から学べ",開発においてこのような信条が受け入れられていること。

即応性と適応性に関する評価は,アジャイル導入の危険性に関して,ある種の洞察を与えてくれる。 "このようにリスクを特定することは,アジャイルへの移行戦略を計画し,実行する上で重要な第一歩です。" と氏は言う。

Robert Boyd氏のブログ記事 " organizational adoption of agile" は,組織の振る舞いに関するLarmanの法則 の引用から始まっている。氏は "文化は構造に追随する" という法則を引用しながら,アジャイルの導入は時として組織の責任と権威の構造変革を必要とする,と説明する:

アジャイルとスクラムこそが進むべき道だと信じる人たちは,指揮統制にどっぷりと浸かった大部分のビジネス組織と対立することになります。彼らは職務の責任は負っても,グループや組織に対する説明責任は認めません。責任が個人から乖離しているのです。スクラムの世界では,責任の大半はプロダクトオーナが負います。すべてのスプリントそれぞれの終了時,提供するビジネス価値に対する説明責任を負うのもこの人です。この単純さが時として,スクラムと "現状維持派" との直接的な軋轢を生み出す原因になるのです。ならば,そのような既存構造を変えるには,一体どうすればよいのでしょう?

アジャイルを全面的に採用するならば,それに必要な変革を "指揮" する幹部の賛同,あるいは組織への十分な影響行使が必要だ,と氏は言う:

アジャイルはトップダウンのリーダシップを要するムーブメントです。"これをやるんだ,理由はこうだ,そこに向かって皆で漕ぎ出すのだ。" と言う人物が必要なのです。そして幹部の賛同者と,理想的には幹部レベルで,アジャイル導入の知識と経験を備えた1人以上のアジャイルコーチが,そのオールを握るのです。

InfoQは今年初めに "Bridging the Management Gap" という記事を公開した。筆者の Tiago Garcez氏はその中でマネージメントによる変革への抵抗を取り上げ,その根本的な原因のひとつに指揮統制型の管理スタイルがあることを指摘した:

組織のリーダは,生産経済から知的経済へのシフトを認識しながら,成功には内部構造の再考もまた必要である,という事実を認めることができていません。結果として彼らは,単に指揮統制型の管理モデルを疑いなく受け入れているだけなのです。これこそが,アジャイル導入のイニシアティブと組織リーダとの間で現在起きている摩擦の根本的な原因です – 私たちは産業革命以来の指揮統制型の管理原則に従いつつ,知的経済の中で活動しているのです。

そこから氏は,アジャイルを採用する時のマネージメントギャップを埋めるために実行可能な2つのアクションを提案する:

  • 改革のイニシアティブに関するコンテキストの理解
  • 結果,経験,教訓の共有

Machiel Groeneveld氏は,アジャイルへの移行準備について書いたブログ記事 preparing for an agile transition の中で,指揮統制型の管理スタイルが組織のアジャイル採用を妨げる原因になり得る理由について,次のように説明している:

アジャイルがマネージメントによって導入される場合,マネージメントの側には問題がないと考えがちです。それが往々にして移行の妨げとなります。事実はマネージメントこそ変わらなければならないのです。そうでなければアジャイルの意味はありません。皆はそれをマネージメントの都合だけによるものと受け止めて,不信感を募らせることにもなるでしょう。最も大きな問題は,マネージメントがアジャイル実践にも指揮統制を使用する傾向があることです。そうなればアジャイルは組織の変革ではなく,トリックの集まりになってしまいます。

そしてアジャイル採用時のマネージメント問題に対処するヒントを2つ紹介する:

  • アジャイルに移行しても,マネージャが現在の業務を失わないと明確にすること。
  • アジャイル移行の事前作業あるいは作業の一部として,自分の行動の何を変えたいと望んでいるのか,マネージメントと議論すること。"何もない" という答ならば,もう一度議論するか,さもなくば任務を返上する方がよいだろう。

Brian Søgaard氏は,組織を変える方法としてのアジャイルアプローチについて "Is your change process Agile or fragile?" に書いている。 組織変革とは,動く目標に向かって変化し続けるような,いわば終わりのない旅である。当然ながら,その変革のアプローチも違うものでなければならない:

組織変革のプロセスは,その目標がアジャイルであれ何であれ,文化の変化と効果的な変化管理に大きく依存しています。指揮統制のアプローチを使って文化的変化を強制すれば,従業員の満足度やモチベーションという代償を払わなければなりません。成功の鍵は – 適切なトレーニングの結果として – 理解が容易で明確に伝達された目的と目標の達成に前向きに取り組んでくれる,権限を持った利害関係者の参加にあります。このようなアジャイルのマインドセットの性質により,変革プロセスそれ自体へのアジャイルアプローチは,ある意味で非常に有効なものです。

氏が提案するのは,大勢を集めて行う変革宣言とは違う,いつものような熱意と危機感を持って変革に対処する方法だ。

実行すべきなのは,変革の目的に対する理解を得ること,何を変えるのか,なぜ変えるのか,明確なビジョンを作り上げることです。そしてマネージャの責務は目的を達成する手段,つまりどうやって変革を実現するのかを,組織全体の関与のもとで決定することであり,難しい部分です。

組織全体のボランティアによって構成した流動的ネットワーク的な仕組みによって,継続的に戦略を策定し,それを実践します。親愛なる皆様,これこそがアジャイル - これまで唯一の正しいものと考えられてきた,変革管理のアプローチを大きく変えるものなのです。

さらに氏は,変革のイニシアティブが成功するチャンスを高める4つの原則を提唱する:

  1. ゴールを定義せよ: 理解の容易な目標に対して議論し,共通の視点を作り上げること。
  2. オーナシップを創造せよ: すべてのレベルにおいて,利害関係者全員の継続的かつ積極的な参画を求め,オーナシップを共有すること。
  3. トレーニングを重視せよ: 賛同する参加者すべてに対して,新たな期待に沿うための訓練と教育を行うこと
  4. 権威を委譲せよ: 支援と関与を引き出すため,実効性のある決定権を組織に与えること

アジャイルを導入した経験を持つ読者は,指揮統制型の管理スタイルに対してどのような取り組みを行っただろう?その取り組みは,組織がアジャイルに移行する上で有効だったろうか?

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