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ロールプレイングゲームのダンジョンマスタとして学んだことをアジャイルコーチングに活用する

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原文(投稿日:2013/10/02)へのリンク

Guillaume Duquesnay氏は1,2ヶ月に1度,友人たちとダンジョンズ&ドラゴンズをプレーしている。ゲームやロールプレイングで得た経験を,アジャイルコーチとしての日々の仕事に活用しているのだ。氏はAgile Tour Brussels 2013カンファレンスで,権威に頼らないリーダシップやファシリテーション(facilitation),マネージメントスタイルについて,自身が習得した知識を公開してくれた。

InfoQでは,ゲームへの習熟やロールプレイングといったものがコーチングやファシリテーション,リーダシップのスキルにどのように役立つのか,氏にインタビューをした。ゲームをすることが人々の楽しみや幸せであったとしても,それによって生産性が向上することが本当にあるのだろうか?

InfoQ: Agile Tour Brusselsでのセッションでは,アジャイルでのロールプレイングについて話をされていましたね。それはどうしてですか?

Guillaume:きっかけは,アジャイルを実践している人たちが,ブログ (私の個人的なブログで,無関係な話題もたくさんあります) にあったロールプレイング経験に関する記事を読んで,私に話しかけてきたことです。彼らの話を聞くうちに,ファシリテーションやアジャイルマネージメントといったものに強い関係性があることに気付きました。"いつかこの話題で講演をしてみよう" と考えていたのですが,数年前までの私は違う内容の講演を行っていたため,そのような機会をなかなか持てずにいたのです。

Agile Tour Brusselsでのセッションには,マネージャたちに何か違う気付きを提供したい,という目的がありました。ITや企業経営とは関係ないストーリを通じて,ありふれた権威的なスタイルとは違うものを知ってほしかったのです。

それとは別に,実は隠れた目的もあります。ロールプレイングゲームの話をすることで,ゲームのプレイ技術を (他の人と話をして,自分の考えを明確にすることで) 向上したり,ロールプレイヤたちにもっとゲームを楽しんでほしい,とも思っているのです。

いずれにしても,メッセージとして伝えたいのは "ゲームを活用しよう!" という,とても基本的で実践的なことです。

ロールプレイングをしていて,人々はプレイしたことをすべて覚えている,ということに気が付きました。考えてみてください,XPというゲームをプレイすること,アジャイルに関する講義に参加すること,この2つにどれ程の違いがあるのでしょうか。ですから,何かを教えたり,学んだり,あるいはチームの関心を引き付ける必要があるならば,あれこれ言うよりもゲームをやってみてはどうかと思うのです。

最近ではWebでも,多くのアジャイルゲームが取り上げられています。目的がゲームではなかったとしても,参加者を引き付けるような,生き生きとしたエクスペリエンスを持ったワークショップを開いてほしいですね。

InfoQ: マネージメントやファシリテーション,リーダシップなどについての教訓を "ダンジョンズ&ドラゴンズ" から学んだということですが,それについて詳しく説明して頂けますか?

Guillaume: 手短に,ということでしょうか。一時間話してくれ,という意味ではないですよね :)?

OK,やってみましょう。技術面で言うと,与えてくれた教訓としては,ロールプレイングよりもゲームをマスタする過程の方が多かったですね。ですが,仕事との関係性に気付いた今となっては,よりよいマネージャになる方法を私に教えてくれるのはロールプレイングの方です。

アクティビティに関して言えば,最初のうちはとてもたくさんあります – プレイヤとしてゲームを楽しむためには,ゲームをマスタしなければなりませんから。私自身は,学生の頃に練習しました。マスタする過程は多少退屈ですし,ストレスも感じます。悪意を持ったプレイヤ (数は多くありませんが,プレイヤのコミュニティでは珍しくありません) に対応しなければならないこともあります。でも,まあ,ゲームですからね。

8~9年前,3年ほどブランクがあって,またロールプレイングを始めました。その頃の私はプロのコンサルタントに"成長"していて,以前よりもチームダイナミクスを意識するようになっていました (数年後にはそれが,私をアジャイルコーチングの方向に進ませることになりました)。 以前と同じようにゲームをしていた私は,自分がパーティをホストする嫌な存在になったような気がしていました。何もかもコントロールしようとして,みんなから恨みを買っているように思えたのです。そんなことを何度も何度も繰り返すうちに,笑顔やリラックス,楽しみといったものを忘れていました。

ゲームマスタとしての私は,ルール適合性のコントロール,不正行為の追跡,時間の確認,バックグラウンドミュージックの用意などをして,さらに悪意のあるプレーヤに悪用されないような注意も払わなければなりませんでした。もちろん本来のタスクであるストーリの提供や,プレイヤ以外のキャラクタのプレイもしなければなりません。

要するに私は,ゲームプロセス全体で改善すべき点を探しながら,プレーヤたちとの間にあった関係を破壊していたのです。そこで "高所" からコントロールする – 効果のない – 方法ではなく,もっと委譲的,共同責任的なスタイルに変えることにしました。みんなが楽しめるように,お互いがゲームの成功に責任を持つことにしたのです。私はストーリテラーになりました。

重圧から解放された私は,以前よりもプレイヤを支援できるようになりました。管理者という"玉座"にしがみついて,そこに留まろうともがいている間は,すべてのスキルを動員しても彼らを助けることはできません。

その後,このような役割破壊のほとんどが,マネージャの "権威主義的" なイメージにも適用可能だということに気付いたのです。

コーチとしての視点がロールプレイングゲームに役に立ったのとは真逆で,ゲームの学習がコーチングのワークショップ運営を助けてくれたのです。最近は参加者の上に立つというより,彼らと同じレベルである部分の方がずっと多くなっていると思います。彼らにとっても,私にとっても,これらすべてがスムーズで安心を感じられるものなのです。

InfoQ: "権威を伴わない管理" と "自己運営型チーム" との間にどのような関係があるのか,説明して頂けますか?

Guillaume: 私は権威とは,人が行いたくない,理解できない,好まない,あるいは価値を見出せないことを実行させるためのものだ,と思っています。少なくともチームメイトの決定を先取りしていることになりますし,最悪の場合は,関連性のないことを実行させる結果になります。差し迫った問題にはそれも有効でしょう。ですが,それが基本的なマネージメントスタイルだとしたら,離脱など負の感情以外のものを期待することはできません。

自ら運営能力を備えたチームが,権威に基づいた管理の下で成長できるとは到底思えません。あるマネージャから,彼が管理する自己運営型のアジャイルチームが退屈したり,疲労を訴えたり,さらには怒ったりする理由が分からない,と相談されたことがあります。私の分析によれば,権威的なマネージメントによって改善の余地が上位組織のレベルに制限されていて,より高く大きなレベルの改善を阻害していたことが理由でした。部署毎の共同責任による管理はありましたが,改善を実践するには程遠いものでした。その上,社内ルールや命令は絶対でした – 議論することさえ許されていなかったのです。

InfoQ: ゲームは普通,楽しむためにするものです。その "楽しさ" や "幸せ" がチームのさらなる価値提供に役立つ,という話もありましたが,本当でしょうか? 例を挙げることはできますか?

Guillaume: 幸福さや楽しさといったものを (より多くの価値を提供する,という意味の) 生産性と結びつけるのは,少し慎重になる必要があると思います。

私の始めた方法はそうではなく,それらを目標に結びつけます。目標の実現が人々を幸せにする,という考え方なのです。

楽しさという点は,パフォーマンス上のトリガだとは思いません。改善の前には,時には厳しいことも言わなければなりません。アジャイルチームのメンバの Soïzic が,厳しいレトロスペクティブの後でこんなことを言っていました:"よかった! みんなで難しい課題に取り組むのっていいね。" 責任を取ることは楽しいことではありません。共同責任ならばなおさらです。信用できる人からのフィードバックは楽しくなくても,ストレートで思いやりに満ちています。ですから "楽しい" という言葉を使うのは注意が必要です。

自分自身であることがパフォーマンスのトリガであって,いつでもそれが楽しいわけではありません。

厳しい考えかも知れませんが,私は "幸せ" や "楽しみ" といったものを,マネージャやディレクタに対するアジャイルの売り言葉として使いたくないのです。よりスマートな意思決定,高度な情報共有,透明性,リスク管理,市場投入時間といったことを訴えたいのです。幸福感がチームの順調さを示すものであったとしても,それは副産物に過ぎません。私が自分の仕事(アジャイルコーチ)を愛している理由はそこにありますが,でもそれは目標ではないのです。

楽しさはチームを運営することの報奨ですが,それは私にとってのものかも知れません – 人々が仕事に楽しみを持てないような場所へ行きたいとは思いませんからね。

InfoQ: アジャイルのコーチングにロールプレイングを導入してみたいと考える人たちに,何かアドバイスはありますか?

Guillaume: ロールプレイングゲームを仕事という意味で使ったことはありません – 本当にまったくないのです。ですが,ゲームを始めるときのアドバイスが,ワークショップにも当てはまるのではないかと思います (プレーヤを参加者に,ゲームをワークショップに置き換えてください)。

あなたがプレイヤならば,ホスト役と仲良くしてください。ゲーム内で起きることに対して,あなたには彼と同じくらい責任があるのです。

あなたがホストなら,これまで話さなかった基本的なアドバイスが3つあります:

1) ゲームのマテリアルを総合的,大局的にすること。マインドマップでも箇条書きでもよいのですが,1枚のシートにできれば最高です。自分で書いて,自分の言葉を書き添えましょう。それが終わったら,その詳細を手元に置いて,必要になったときにのみ使用してください。

2) プレイヤと明示的で信頼性のある契約を確立すること。彼らはあなたと同じくらい,ゲームに対して責任があるのです。ルールをチェックしたり,ずるを探したりせず,彼らが正しく行動してくれることを期待しましょう。

3) 扱いの難しい,細かな部分は任せること。時間,ルールチェック,ターン管理,ピザやコーラなど。

最善の方法は,経験のある人と共同でゲームをホストすることです。古(いにしえ)のジェダイの修行者のように ... ロールプレイングゲームで,これまでそうしてこなかった理由が分かりません。

私たちはパリで,Agile Playgroundというコミュニティを運営しています。あなたの近くにも一緒に練習のできる,同じようなイニシアティブがあるかも知れません。

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