Docker Incは,‘すべてのクラウド上でのアプリケーション開発,デプロイ,管理’を実現する,‘開発(Dev)と運用(Ops)のためのDockerプラットフォーム’のTutumを買収すると発表した。‘構築’と‘送付’を処理するDocker Hubに‘実行’のプラットフォームであるTutumを補完する,というのが買収の根拠だ。
TutumはAmazon Web Service(AWS), Digital Ocean, Microsoft Azure, Packet, SoftLayerをサポートする。それら以外の‘持ち込みノード’モデルのクラウドやユーザ所有のクラウドも,Tutumエージェントをインストールすることで対応が可能だ。Tutumエージェントは各種のLinuxディストリビューション(最新のDockerサポートのあるもの)で動作する。Tutumのデプロイメントとマネジメントのモデルは,AmazonのEC2 Container Service(EC2)やGoogle Container Service(GKE)など,コンテナサービスをベースとするクラウドサービスプロバイダのものと大きく違う訳ではないが,Dockerとしては,さまざまな環境における一貫性を差別化要因として評価している。Tutum創業者のBorja Burgos氏はこれを“ユーザに選択肢を提供する”ためと説明し,Dockerのマーケティング担当副社長であるDavid Messina氏は“ライフサイクル全体を通じて”と付け加える。開発者が自分たちの開発環境として選択したものとは別の場所に,運用チームが実運用システムをデプロイすることも可能なのだ。
Tutumは現在ベータ版である。Webサイトには,“Turumが製品版になれば,現在のユーザは自動的に永久無償のDeveloper Planに移行します”,という説明がある。ベータ版以降の価格とサービスレベルは未発表だ。 それでもDockerは,オンプレミスでの稼働もクラウドベースのDocker Hubからも利用可能なDocker Trusted Registryに加わることで,同社の将来的な収益化モデルの一端を担うものとしてTutumを考えている。ECSやGKEのようなサービスでは,その基盤としてコンテナをホストする仮想マシンインスタンスに対しては課金されるが,管理レイヤそれ自体は無償というのが一般的だ。従ってDocker/Tutumでは,ユーザに対価を求めるに値する,クロスクラウドな一貫性を備えたデプロイメントやマネジメントを提供する必要がある。
Tutumは2013年6月からDockerに取り組み,10月にサービスをローンチした。そのため同社では,デプロイメントとマネジメントの両面において独自のアプローチを開発しなければならなかったが,その結果が後にDockerのコアの一部,あるいはDockerの支援を受けるプロジェクトとなっている。このため,TutumとDockerのプロジェクトや提供サービスには,機能面で重複する部分が生じている。両社とも提供しているプライベートリポジトリがその例で,いずれは収束することになると思われる。さらにTutumは,さまざまなクラウド環境へのDockerのインストールプロセスを自動化するDocker Machineプロジェクトとも重複している。この問題を解決する方法はまだ発表されていないが,11人からなるTutumチームは,開発作業をより緊密に統合するため,マドリードとニューヨークにある現在のオフィスからサンフランシスコのDocker本社に移動する予定である。
Dockerの誕生する元になったDotCloud PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)は昨年8月,cloudControlに売却されている。これを考えると,同社が再びランタイムプラットフォームビジネスに戻ることには疑問が残るかも知れない。しかし,Tutumが大きく違うのは,ユーザがインフラストラクチャ(アズ・ア・サービス)を選択し購入してくれることだ。Docker Incが自身のインフラストラクチャに投資したり,スケーリングやマルチテナンシに対応したりする必要はない。さらにDockerには,コンテナで使用する言語やフレームワークにおけるフレキシビリティを提供することで,独自仕様に固執するPaaSと差別化する考えもある。