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かんばんを用いたイノベーション

| 作者: Ben Linders フォローする 20 人のフォロワー , 翻訳者 吉田 英人 フォローする 0 人のフォロワー 投稿日 2016年1月19日. 推定読書時間: 8 分 |

原文(投稿日:2015/12/09)へのリンク

Patrick Steyaert氏がLean Kanban Benelux 2015Lean Kanban Central Europe 2015という2つのカンファレンスで,かんばんを使用したリーンイノベーションについての講演を行った。InfoQは氏とのインタビューで,イノベーションに対する主要な障害,気付きかんばん(discovery Kanban)を用いたイノベーション管理,イノベーションのための才能開発などについて聞くとともに,ビジネスモデルキャンバスやリーンキャンバス,あるいはその他の思考ツールとかんばんとの併用事例についても尋ねてみた。

InfoQ: イノベーションの障害には,どのようなものだと思われますか?

Steyaert: 企業はみな,崩壊の脅威とグローバルな競争の狭間に捉えられています。優れた活動を継続しつつ,経験豊かなイノベータになるように圧力をかけられているのです。多くの場合において,(内部)変革が十分な早さで実行されることはありません。その結果としてあるのが,複雑に入り乱れた問題の数々です。変革の疲労を経験している企業は少なくありませんが,これは多くの場合,変革を一時的なものとして扱っているからなのです。企業はすでに変革サイクルを幾度となく経験しているのですが,それが常に成功しているとは限りません。特別な組織ユニット,あるいはインキュベータにイノベーションを任せようとする企業も中にはありますが,そういった企業の多くは,隔離された場所で実現したイノベーションの日常業務への反映に苦労を重ねた揚げ句,新旧ビジネスのシナジ効果の獲得に失敗する結果になっています。急速に変化する環境においては,その革新と競争への圧力から,品質面で期待を満足しない製品やサービスが市場に投入される事態になっています。硬直化した組織では,外部の変化(それが組織にとって脅威であるかどうかは別として)に対して適切に反応できません。人々は過度のストレスのため,その持ち場を離れていきます。アイデアはイデオロギに転化して否定的で退避的な考えが蔓延し,それらの対して建設的に向き合う能力も失われていくのです。

InfoQ: 気付きかんばん(Discovery Kanban)とは何か,説明して頂けますか?

Steyaert: ナレッジワークにおいてかんばんを熟知する人の大部分は,かんばんを“実行(execution)”管理に結び付けて理解しています。(ソフトウェアや製品開発のような)作業を実施する上で,そのフローとポジティブな変革,方向性を与える手段として見ているのです。これに対して,かんばんシステムを集約し,実行(execution)と革新(innovation)の両方をカバーできるようにしたものが“気付きかんばん”のシステムです。ですから,フローの実践やポジティブな変革,方向性といったものは,気付きかんばんでも同じように重要です。典型的な気付きかんばんのシステムには,インバウンドフロー(実行する前に何をするのかを知ること),アウトバウンドフロー(実行),意思決定(観察と解釈),(経験を通じた)学習,(将来のオプションを生成するための)成長のためのかんばんシステムが含まれています。

気付きかんばんとは,安全で確実な統合的変革を目的とした,指導者を伴った(伴わない場合もあります)発見と実践のアプローチのためのシステムです。変革は組織にとってだけでなく,そこにいる人々やそのキャリアにとって安心できるものでなくてはなりません。そのためのリーダシップは,思考と行動(あるいは言動)の間に一貫性があるという意味で,信頼に値するものであることが必要です。対立する考え方の間に,建設的な緊張感が存在する余地のあることも必要です(改革と実行の間で意見が対立しても一向に構いません)。

InfoQ: イノベーションの管理という面での意見を聞かせてください。これは可能なのでしょうか?

Steyaert: はい,イノベーションをどのように管理するかという考えを,それも強い考えを持つことは可能です(リーンスタートアップ,エフェクチュエーション(Effectuation),3段階のイノベーション(three horizons of innovation)などがあります)。ただし — この点が重要なのですが,イノベーションの管理がイデオロギになってはなりません。驚きはイノベーションの鍵なのです。常に斬新さ,それも何を行うか(例えば構築中のビジネス)という斬新さだけではなく,どのように行うか(イノベーションの方法)という斬新さにも留意することが必要です。

イノベーションで特に重要なのは,信頼を損なわないことです。OODAループの提唱者であり,明確化された事象(unfolding event)の世界での振る舞いに関する偉大な思想家であるJohn Boyd氏は,自分の教えをドグマと捉えるのであれば,その資料を即刻焼き捨ててほしい,と言っています。

このことは従来型の企業のみならず,スタートアップにも混乱を招くかも知れません。イノベーションの方法については強い意見を持つ必要があるが,それを強く求めてはならない,というのですから。イノベーションを追求していく上で,組織や管理に関するドグマが新たなドグマに置き換えられることは珍しくありません。しかしイノベーションの観点から見れば,それによって得られるメリットは一時的なものなのです。

InfoQ: イノベーションのための才能を開発する上で,何かアドバイスはありますか?

Steyaert: 一般的にイノベーションは組織のDNAの一部として語られることが多いのですが,この見方はイノベーションに対して,あたかも天賦の才能のような印象を与えます。“持っている”か,そうでないか,というようにです。あるいはまた,特定のタイプの組織(例えばスタートアップ)や,あるいは企業の一部(例えばイノベーションコロニー(innovation colony))に結び付けられる場合もあります。しかし私たちは,イノベーションに必要な才能は,努力によって高めることができる(そうであるべき)能力の組み合わせであると考えています。速習能力,意思決定サイクルの迅速さ,エンドツーエンドのフロー,意図的な逸脱,事前認識といった能力に注目することで,イノベーションに必要な才能を組織内で体得可能な,もっと小さな“才能”に分割することができるのです。

体得可能な能力の組み合わせとしてイノベーションを捉えることで,新たな,そして私たちの意見としてはエキサイティングな可能性が開かれます。イノベーションを,例えば組織の特定部分に限定させるような行為が多くのケースで行われています。これは,イノベーションが通常の業務とは相容れないものだと思われているためなのですが,能力という観点から見れば完全な誤りです。実際に私たちは(速習能力のような)イノベーション能力を伸ばすことで,業務遂行能力が改善されることを経験しています。自分たちの中核能力として継続的改善(速習能力)を体得した組織の成功例が,その何よりの証拠となります。

InfoQ: かんばんがビジネスモデルキャンバスやリーンキャンバスで,あるいは他の思考ツールでどのように利用されているのか,例をあげて頂けますか?

Steyaert: ビジネスモデルのキャンバス(リーンキャンバスもそのひとつです — 例えば,Alexander Osterwalder,Yves Pigneur両氏の“Business Model Generation: A Handbook for Visionaries, Game Changers, and Challengers”をご覧ください)の背景となっているのは,スタートアップや自らのビジネスモデルの革新を望む企業が使用しているもので,ビジネスモデルの重要な要素を簡潔に視覚化する戦略的ツールです。我々はどのような顧客セグメントをターゲットにするのか?価値命題は何か?重要なパートナは誰か?そのような問いに対して仮説を設定し,検証するためのツールです。

ビジネスモデルキャンバスは,意図しているビジネスモデルに対して立てた(複数の)仮説を記録するものです。過去に行った観察をベースとして,今後行うであろう試みに対する基盤を形成します。ビジネスモデルキャンバスとは,ある特定の瞬間の思考を捕えたスナップショットだ,と言えばいいでしょう。

気付きかんばんは,思考の流れが実現される様子を示すことによって,観察した事実に対する解釈を基盤とした,将来のビジネスモデルに対する仮説形成をコラボレーティブに支援するとともに,それらの仮説を評価する試みを記録します。かんばんは,学ぶだけではなく,その実践(それが学びの結果とどの程度適合しているか),成長(次の学びと実践の場を提供する)をも含んだ,より広範なイメージを描きます。そういった意味で,かんばんとビジネスモデルキャンバス,あるいはリーンキャンバスは,極めて相互補完的なのです。

ビジネスモデルあるいはリーンキャンバスに続いて,気付きかんばんの補完として利用可能な“ツール”が他にもあります。私たちがよく利用しているのは,A3思考ツール(A3 thinking tool)です。これはビジネスモデルキャンバスと同じように,問題とその解決方法をビジュアルに反映するためのツールで,継続的改善のコンテキストでよく利用されます(John Shook氏 “Managing to Learn: Using the A3 Management Process”などをご覧ください)。私たちはこれを,継続的イノベーションのコンテキストで,ビジネス上の問題とその解決法を表すために使用しています。A3もビジネスモデルキャンバスと同じように,対象とするビジネス上の問題に対する思考のスナップショットです。気付きかんばんがその思考の実践される様子を見せてくれます。

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