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IBMがコグニティブ・コンピューティングのための相変化メモリによる人工ニューロンの開発に成功

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原文(投稿日:2016/09/13)へのリンク

チューリッヒのIBM Researchにて,科学者チームが相変化材料(phase-change materials)を使用し,データの保持と処理が可能な人工ニューロンを開発した。 これら相変化ベースの人工ニューロンは,ビッグデータ(イベントベース・データのリアルタイム・ストリーム)におけるパターン認識や相関の発見に利用できる。また,教師なし学習を高速かつ小エネルギーで実施することができる。

相変化材料のメモリへの適用に関する数十年の研究の成果は,最近のNature Nanotechnologyに掲載された。 研究チームのリーダはEvangelos Eleftheriou氏である。

コグニティブ・コンピューティングへの適用を目指した,エネルギー効率が高く,超高密度な統合ニューロモルフィック技術の開発は,高い関心を集めている。 この技術は,イベント・ベースのコンピューティングの基礎となっており,超高密度ニューロモルフィック・コンピューティング・システム(extremely dense neuromorphic computing systems)(脳を模倣して作られたコンピュータ)開発を牽引する可能性がある。 この技術は,メモリと処理ユニットが同一素子に配置されており,コグニティブ・コンピューティングやIoTビッグデータ分析を高速化する。

深層学習(Deep learning)は人工知能分野において近年活発に開発が行われている。 深層学習は生物学的な脳の構造や働きに対する科学的考察に発想を得ている。

チームは,一連の電気パルスを人工ニューロンに与えた。 この結果,相変化材料は前進結晶化(progressive crystallization)した。 これにより最終的に,ニューロンは"発火"することになる。 これは“integrate-and-fire”として知られる生物学上のニューロンの性質と同様の機能である。 彼らは数百の人工ニューロンを編成し,高速かつ複雑なシグナルの表現に使用した。 さらに,人工ニューロンは,莫大な数のスイッチングサイクルに耐えることが明らかになった。 耐性は,100Hzでの更新処理が数年にわたって行われた場合に相当する。 ニューロンの更新に必要なエネルギーは,5ピコジュール未満であり,平均的な電力は120マイクロワット未満である。 参考までに,60ワットの電球に必要な電力は6千万マイクロワットである。

インタビューにおいて,研究チームメンバの一人,Manuel Le Gallo (IBM 研究科学者)は,ニューロモルフィック・コンピューティングが現在のコンピューティングに対し,どれだけ効率的かを説明している。

現在のコンピューティングでは,メモリと論理ユニットが分離しています。 コンピュータ処理を行いたいときは,メモリにアクセスし,データを取得し,論理ユニットに転送し,結果が戻る,という処理が必要です。 結果を受け取りたいときは,結果をいったんメモリに転送せねばなりません。 このプロセスは毎回行われます。 これが,巨大なデータを扱うときに大きな問題になるのです。

ニューラル・ネットワークでは,コンピューティングとストレージは同一素子に配置されています。 論理ユニットとメモリ間での通信は必要ありません。 単に,別のニューロンとの適切な接続を構築するだけです。 これが,私たちのアプローチがより効率的である,と考える理由です。 特に巨大なデータを扱うときに,この点が顕著になります。

ビッグデータや機械学習の分野では,この技術の活用場所がたくさんある。 例えば,Internet of Things(IoT)において,センサは大量の気象データを端末で集め,分析することにより,高速な予測を行うことができる。 人工ニューロンは,金融トランザクションにおいて不一致が発生した際のパターンを検出するために使用できる。 また,ソーシャル・メディアを元に,新たな文化的な流行をリアルタイムで発見することができる。 大規模,高速,低エネルギー,ナノスケールのニューロンは,さらにメモリと処理ユニットを同一素子に持つニューロモルフィック・コプロセッサとして使用できる。

次のステップは,ネットワークとリンクしたニューロンの実験である。 センサに接続し,様々な種類のIoTデータ(工場設備の温度異常や,患者の心音変化,金融市場での特定のトレードといったもの)を検出するように調整するのである。

これらのネットワークの大規模版は,標準的なコンピュータ・チップ上に構成することも可能である。 高速かつ省エネルギーの,パターン認識用コプロセッサを設計することができる。 パターン認識(音声認識や顔認証)処理は現在,標準的なコンピュータ回路上で,低速かつ効率の悪いソフトウェアとして動作している。 最終目標は人工の脳と本物の脳との概念的な差を縮めることである。

InfoQはManuel Le Gallo氏に対し,彼らの研究プロジェクトと次の目標についての取材を行った。

InfoQ: 読者に対して,あなたの研究プロジェクトの概要と,データを保持する人工ニューロンの開発に関する次のブレークスルーを説明していただけますか?

Manuel Le Gallo氏:私たちは,相変化材料を使用することで,ニューロンの発火機能と統合の模倣を実現しました。 この機能はイベント・ベース・コンピューテーションの基盤となります。 これは原理的には,私たちの脳が外部刺激に対して反応する様子と同様の動きです。 例えば,私たちが熱いものに触ったときの反応などです。

こういった人工ニューロンは,それ自身でデータを処理したり,大規模に組織化(populations)されて処理を行います。 この組織化による計算能力の集約は,脳の機能としてのニューロンの動きによく似ています。 この技術により,ニューロモルフィック・コンピュータの開発が進むでしょう。 メモリと処理ユニットが単一素子に配置されていることにより,コグニティブ・コンピューティングやInternet of Thingsからのデータ分析の速度向上が見込まれます。

InfoQ: ビッグデータや機械学習において,人工ニューロンはどのように活用されるのでしょうか?

Le Gallo氏:人工ニューロンやシナプスは,非常に強力な計算能力を持ちます。 単独の人工ニューロンでさえ,イベント・ベース・データのリアルタイム・ストリーミングにおいて,パターンの発見や相関の発見に使用できるのです。 例えば,Internet of Thingsにおいて,迅速な天気予報のために,センサが末端にて天候データを収集し,分析するといったことができます。 人工ニューロンはさらに,金融トランザクションから食い違いパターンを発見することにも利用できます。 また,ソーシャルメディアを元に,文化的な流行をリアルタイムで発見することもできるでしょう。 大規模に組織された,高速,低エネルギーでナノスケールの人工ニューロンは,メモリと処理ユニットを同一素子に配置したニューロモルフィック・コプロセッサとして使用することもできます。

InfoQ:ニューロモルフィック技術と既存のアプローチでは,エネルギー効率とコスト効率はどう変わるのですか?

Le Gallo氏:今日のコンピュータは,フォン・ノイマン型アーキテクチャです。 これは,演算ユニットとメモリユニットが物理的に分離しています。 このアーキテクチャは,コクニティブ・コンピューティングでのデータ中心の考え方にとっては,きわめて非効率です。 大量のデータを高速に,メモリと演算ユニット間で転送せねばなりません。 効率的なコグニティブ・コンピュータを構築するため,私たちは非フォン・ノイマン型アーキテクチャに移行せねばなりません。 メモリと演算ユニットが同一素子に構成するアーキテクチャです。

ニューロモルフィック・コンピューティングは,非フォン・ノイマン型コンピューティングとして非常に将来性のあるアプローチです。 生物学的な脳の働きにヒントを得て構成されています。 生物学的なニューロンの機能を真似ることにより,複雑な計算タスク(ノイズを含む環境下におけるパターン認識やデータマイニングにおける特徴抽出)のエネルギーとコストは劇的に減少しました。

InfoQ:人工ニューロンを用いてデータを保存し,処理する上での制約はありますか?

Le Gallo氏:Nature Nanotechnology誌上の私たちの論文の中からご紹介しましょう。

ニューロサイエンスにおいて使用されている,一般的なスパイク・ベースのニューロンモデル,およびCMOSベースのニューロン回路,ニューロンネットワーク実装の高レベルプラットフォームと比較すると,相変化ニューロンにはいくつかの限界があります。 ほとんどの確率的な性質は,結晶化の物理的特性からくるものです。 確率的応答の度合い,ニューラル・パラメータ,そして極小回路に要求される薄膜の潜在的な動的特性には限界があります。 特に,高次元パラメータの適合とホメオスタシス,また比較的高速の周期的動作,例えば非線形の電子リークに対しては,さらに論理や電子コンポーネントが必要でしょう。 別のアプローチとして,メムリスタ素子(memristive device)を従来型回路における統計的な追加要素として使用することが挙げられます。 また,極端に小さな技術ノードを実現しようとすると,定型パターンによる影響が明らかになると思われます。 また,素子の多様化やナノスケールの物理的な効果による一時的なノイズも明らかになるでしょう。 これらは確率性を厳密に制御する必要のあるアルゴリズムにおいて,弱点となる可能性があります

InfoQ:研究プロジェクトの将来はいかがでしょう?次の研究対象は何でしょうか?

Le Gallo氏:相変化ニューロンは相変化シナプスとシームレスに組み合わせられます。 これは私たちの後続研究のデモにおいて行いました(Tuma et al., IEEE Electron Device Letters; and Pantazi et al., IOP Nanotechnology)。 これは,高密度なニューロモルフィック・システムの構築だけでなく,相変化メムリスタ素子にもつながります。 この研究は,別のメムリスタ・ベース・シナプスや,メムリスタ・ベースのニューロン,その他の記憶素子の研究から得られた結果と相補的な関係を持っています。 また,これらの研究の組合せは,超並列計算システムにおける密度の向上と,素子数の削減に貢献しています。

 

 
 

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