Barclaysの作業部長であるJonathan Smart氏と同社PMO(Project Management Officer)のMorag McCall氏が、先月ロンドンで開催されたDevOps Enterprise Summitで、アイデアのトリアージから製品としてのリリースに至るまでの作業フロー全体の再考について講演した。具体的な内容は、アプリケーションおよびサービスポートフォリオの管理方法へのアジリティの導入と、PMOおよび財務部門の役割の変更である。
Smart氏は過去にも数年にわたって、BarclaysにおけるアジャイルおよびDevOps導入の成功について講演している。これらの転換は、エンジニアリングに重点を起きながらも、ビジネスに新たな成果をもたらすリードタイム短縮を支援する目的で実施されている。改めてこのアクティビティを端々まで – 最初のビジネスアイデアからプロダクトの新機能ないしストーリまで – 見ると、エンジニアリングが実際に始まる前のアクティビティにおいて、新たに作成されたフローに極めて大きな改善があったことが見て取れる。完全なバリューストリームは、毎月のアイデアのトリアージに始まり、四半期間の運用の後、年末の承認へと続くのだが、その前に新たなアイデアが開発バックログに追加されるような場合もある。このようなミスマッチ(18ヶ月に及ぶポートフォリオ管理プロセスと、アジャイルエンジニアリングのプロセス)を、Smart氏は“緊急パラドックス(urgency paradox)”と呼んでいる。
改訂されたポートフォリオ管理プロセスは、まず戦略的な目標から始まるようになった。これは企業にとって最も長期的な、複数年のビジネスビジョン(CEOの5大目標)か、あるいはBrexitのような大規模なプログラムである。これらの目標はブレークダウンされて、3年を視野とするポートフォリオ目標(portpholio objective)になる。ポートフォリオオブジェクトは、ひとつないし複数のポートフォリオエピックをまとめたものだ。これら年次ポートフォリオのエピックは、3ヶ月ないしそれ以下のビジネス成果(日常業務の単位)に分割された上で、同時進行数を4つに制限しつつ、定常的に評価を受ける。そして最後に、毎月提供されるフィーチャが、対応するビジネス結果の進捗状況として(試験的に)測定される。Smart氏によると、Barclaysのエンジニアたちは、CEOの目標のトップ5に至るまで(複数のストーリが月次のフィーチャを構成する)、自らが従事するストーリをすべて、いつでもトレースすることが可能である。
提供: Jonathan Smart、Morag McCall (Barclays)
重要なのは、垂直的なこれらの取り組みが、(長期的な)プロダクトやサービスに対して水平展開されている点だ。複数の(長期的)サービスやプロダクトのために、ひとつのビジネス成果の変更が必要になる場合がある。例えば、不正取引と株式取引という2つのサービスを変更が必要なビジネス成果によって、それぞれのサービスに関わる複数のプロダクトの変更が必要になるかも知れない。いずれにせよ、目的は依存関係の継続的な削減にある、とSmart氏は述べている。
この新しいポートフォリオ管理手法は、PMOの役割が時代遅れであることを意味するのではなく、その逆である。ただし、ポートフォリオ管理チームには、作業計画や(自己)最適化に向けて、よりアジャイルなアプローチへの改革 – おそらくはアジャイルコーチの支援を受けて、進行中の作業を最小化することによる、ビジネス成果のフローの最大化(“開始するのを止めて、完成を目指す(stop starting, start finishing)”)が必要になる。チーム全体の作業を視覚化するためには、物理的な作業ボードが有効である。電子ボードを導入するのは、その後で十分だ。プロジェクト的発想から(長期的な)プロダクト指向(と、それに伴う長期的プロダクトチームへの)移行も重要になる。ポートフォリオ管理の最終的な目標は、アドバイス役を通じたビジネス価値の実現にある – 企業内の他部門をコンサルティングしサポートする、すなわち、依存性やリリース管理を支援すること(作業を計画するのではなく、作業を前に進めること)が必要だ。
Smart氏によると、四半期毎に変化するビジネス成果を伴うリーン・ポートフォリオ管理を実現するためには、財務面での変化も必要となる。プロジェクトに代えてバリューストリームへの資金提供、ライトウェイトなビジネスケースの検討、調達プロセスのアジャイル化などがその要件となる。
Smart氏とMcCall氏による講演は、大企業のポートフォリオ管理の改善を開始するための一連の推奨事項で締め括られた。
- 長期的なバリューストリームとプロダクトを認識すること
- 四半期毎のビジネス成果を認識すること
- 進行中作業(WIP)のポートフォリオを視覚化し、制限すること
- リードタイム削減に注力すること
- イネーブラ(enabler)となってアジリティを構築すること
講演のビデオは、DevOps Enterprise Summitの主催者であるIT Revolutionからオンラインで公開されている。
この記事を評価
- 編集者評
- 編集長アクション