人間の脳は多くの異なる方法で学習をする。トレーニングの方法は目的と望んでいる結果に合致している必要がある。Training From the BACK of the Room!に書かれている実践方法はトレーニングを定着させることができる。大きなチャレンジを強制することは恐怖として認識される。それゆえ、心理的な安全性と好奇心の育成が肝心で、関係を途切れさせるようなフィードバックではなく、対話を継続させるようなフィードバックを与えるのが良い。
アジャイルコーチであるJenny Tarwater氏はAgile Games conference 2018で、脳に基づいたトレーニングについて話をした。InfoQはこのイベントを記事やインタビューで取り上げている。
InfoQは氏にインタビューをし、人間の脳の学習の方法やTraining From the BACK of the Room!に書かれていることを応用する方法、学習を定着させるために教師ができることについて、また、人間の脳の仕組みから得られる洞察を活用する方法や日常の業務でどのようにして教えることを学ぶかについて話を聞いた。
InfoQ: 人間の脳はどのように学習するのでしょうか。
Jenny Tarwater: 大きな質問ですね。答えは神経科学者にために取っておきましょう。私は、学習者とファシリテーターとしての自分の経験から語ることはできます。
私は望んでいる結果に注目します。トレーニングのモードについては熟慮すべきです。概念的なことを理解したいなら、Audibleやポッドキャストを聴き、カンファレンスの動画を見ます。それを応用してみたいと思ったら、さらに学習します。大抵の場合、他の学習者と共に教室で学習します。そして、本当に体得したい技術だと思ったら、会話を通じて非公式的に他の人に教えたり、ミートアップやカンファレンス、教室で公式的に教えます。
学習経験を設計する場合も同じように考えます。望ましい学習結果について考え、その結果が生まれるための空間をどのように作るのが最適かを考えます。例えば、"12のアジャイルマニュフェストの原則を理解する"という学習結果を望むなら、このマニュフェストのコンセプトを学習者に示し、これらを言い換えてもらいます。"アジャイルマニュフェストの原則のどれかひとつが適用されているかどうかを判断する"という学習結果を望むなら、もっと実験的な要素を盛り込むでしょう。
人間の脳はどのように学習をするのか。多くの異なる方法で学習すると思います。目的に合致しているかどうかがとても重要です。
InfoQ: カンファレンスではSharon Bowman氏の著書であるTraining From the BACK of the Room!に書かれている4Cマップをやりましたね。これについて詳しく教えてください。
Jenny Tarwater: 4Cマップは私がSharon Bowman氏のTraining From the BACK of the Room!(TBR)から学んだふたつの基礎的な実践方法のうちのひとつです。簡単に学び、覚えられ、使うことができる、教授の設計であり、デリバリモデルです。4Cマップを使えば、学習者が単に新しい情報に触れるだけでなく、それを学べるようにできます。私の経験では、多くのトレーナーがC2だけに注目しています。つまり、学習者に多くの情報を提供するだけになっているのです。他の3つの"C"を取り込むことでより効果的になります。4Cとは、
C1 - Connection - 学習者がすでに知っていることは何か。
C2 - Concept - 学習者が知る必要があることは何か。
C3 - Concrete Practice - それを知っているということはどのように示せるか。
C4 - Conclusion - それをどのように活用するか。
C1は学習者の頭の中にこれから学習することと結びつく何かがある、ということを保証します。既存の神経回路があり、それが新しい学習内容に注意を向け、強化されます。C3は学習者にC2の概念を応用する機会を与えます。これは、"ティーチバック"、つまり学習者同士がペアになって互いに教えあう(人は話しているときもっとも学習しています)ことと同程度に簡単なことです。しかし、可能であれば、C3は実際に新しいスキルを使ってみた方がいいでしょう。
例えば、カンファレンスで私は、4Cマップ、シックストランプ、そして、ゲームデザインカンバスのコンセプトを説明しました。そして、部屋をグループに分けて、4Cマップとシックストランプのどちらかを教えるというゲームを設計しました。ほんの短い時間で参加者がコンセプトを理解したのがわかりました。
そして、4Cは帰結です。学習を現実のものにします。学習者に"彼らがこれをどのように使うか"について考える余地を与えます。特に、私はひとつの具体的な、実行可能で、かつ、学習者が達成できる項目に注目するのが好みです。そして、きちんと実行するようにコミットメントすることを薦めます。
InfoQ: 学習を定着させるために、教師は何をすればいいでしょうか。
Tarwater: シックストランプ(脳をベースにした原則)や4Cマップ(デザインキャンバス)を含むTraining From the BACK of the Room!のアプローチは、たくさんのサンプルのアクティビティとともに、すべて、学習を定着させるのに活用できます。4Cマップについては道具をアレンジする方法として説明しました。次に6つの脳の原則について話しましょう。これらは学習のすべてのステップに関連があります。次の6つです。
- 「座っている」より「行動する」
- 「聞く」より「話す
- 「言葉」より「イメージ」
- 「読む」より「書く」
- 「長い」より「短い」
- 「同じ」より「違う」
私のお気に入りは「長い」より「短い」です。時間のスパンは10分以下に保つ必要があります。私たちの脳はすぐに調整を始めるので、変化を定期的に導入する必要があります。脳が習慣化してしまうのを避けるためには、「同じ」より「違う」という原則を用いて、Reticular Activating System(RAS)を目覚めさせておく必要があります。しかし、学習者を"びっくりさせ"たいと思っているわけではありません。ただ、ちょっとギアを切り替えたいだけです。私は、6つの原則を4Cマップに撒く"種"として考えるのが好きです。
私は、Sharon Bowman氏が複数の神経科学の研究(と自身の経験)からとても複雑なアイディアを取り出し、それらの原則を私に定着させてくれたことに感謝します。
The Neuroscience of Agile Leadershipという記事では、Jenni Jepsen氏が私たちの脳の働き方がアジャイル導入を難しくしていることについて解説している。
どんなものであれ変化は、脳によって極めて新しいものとして受け取られます。アジャイル導入もそうです。私たちは変化に抵抗するように作られています。脳のエラー検知システムは新しいものやいつも通りではないものに注目し、変化に抵抗するように仕向けます。このエラー検知システムが頻繁に同作すると、不安や恐怖の状態が持続します。
InfoQ: この点についてあなたはどう考えていますか。人々は変化に抵抗するように作られているのでしょうか。
Tarwater: 進化論的には、パターンに従い予測することは私たちにとって利点です。とても優れたことです。危険を特定し回避するのに役立ちますし、脳のエネルギーを節約できます。逆に言えば、不確実性は大脳辺縁系のシステムを起動します。止まるか、戦うか、逃げるかの反応はここから生まれます。扁桃体ハイジャックを経験するのです。
私は、この不確実性に対する深い反応を尊重し、学習者がこの脳の部位に"ダウンシフト"しないようにします。学習者の過去を否定するのではなく褒め称えます。振り返りを行い、パターンに基づいた結論を生み出す仮定を調べ、そこから出発します。これは、ダブルループ・ラーニングになります。新しい情報を学ぶだけでなく、自分の仮定と信念に問いを投げるからです。
InfoQ: 脳の仕組みから得られるインサイトや日常の業務の中での学習をどのように活用できますか。
Tarwater: "ダウンシフト"して過覚醒状態になってしまうことは避けたいです。大きな変化を起こし、それに従ってもらう場合、この変化は恐怖に感じられます。失敗しても安全な小さな変化なら、扁桃体ハイジャックを避けられる環境を作るのに役立ちます。以下に私が好んで使うテクニックを紹介します。
- 学習者のために心理的な安全を作る。どのように実現するか。まず、学習者同士を結びつけます。そして、私も結びつきます。そして、私が失敗のモデルになります。私は、完璧でないことは問題のないことだということを示すため"失敗のお辞儀"をするのが好きです。尊敬を持って異議を唱えることを推奨します。そして、グループ内の"約束事"を作るのに時間を使います。どのように一緒にやっていくかを明示的に合意をするのです。
- 判断ではなく好奇心から出発すること。他人が歩んできた道筋を理解することはできません。だからこそ、彼らがどのようにしてその結論にたどり着いたのかを知ることで、彼らの現在の思考に光を当てることができます。そして、変化をどの程度より良く受け入れてくれるかも見ることができます。
- 具体的にフィードバックする。"それは正しくない"とか"それじゃうまくいかない"とは言いません。"私の経験では、私が発見したのは…."や"一般的な考えでは…"というような言い方をします。この言い方によって学習者に対話継続する機会を与えることができます。
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