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“規律あるアプローチ”で変化に対応する

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原文(投稿日:2020/10/08)へのリンク

企業がアジャイルを採用しようという時、最初に考えるべきなのは、"アジャイルの実践にはどのフレームワークがよいのか"ではなく、"我々の目標は何か"ということだ。変革に対する規律あるアプローチ(disciplined approach)は、アジャイルに移行する上での"デザインパターンブック"のように、実行可能なプラクティスから方法を選択し、そのプラクティスが有望かどうか、現在の状況がそのプラクティスにとって望ましいものかどうか把握する上で有用なものとなる。

ソフトウェアエンジニアでアジャイルビジネスコーチのFelice Pescatore氏は、Agile Business Day 2020で、変革のための規律あるアプローチの適用について講演した。

Pescatore氏によれば、アジャイルフレームワークは適切な出発点となる可能性がある一方で、社内の現実からかけ離れていて、規範的過ぎることにより、変革に関わる人たちの熱意を損なう可能性もあることが、さまざまな研究の結果として明らかになっている。この効果は俗に"フレームワーク刑務所(framework prison)"と呼ばれる。必要なのは独断的なアプローチではなく、フレームワークのパワーや提言を個々の状況に適合させることだ。

Pescatore氏は、イタリアに基盤を置くある医療関係の企業のアジャイル移行に、PMI Disciplined AgileツールキットとLean Change Management思想を組み合わせて使用した経験を持つ。ここでの変革活動は、結果を評価して活動を続行するか、あるいは別の方法をトライするかを決定するための実験として行われた。

Pescatore氏の提案は、蟻塚のように変化するための規律あるアプローチを検討することだった。

大きな課題を前にしたアリたちは、協調的に行動し、集合的な活動を行います。私たちのケースでは、会社に小さな改善を起こすために選択した"小さな変化"のベクトルが"アリ"に当たります。毎日の仕事の中でその変化を検証し、影響を受けた人たちの反応をテストし、アクション可能なメトリクスを使って結果を評価するのです。これらの結果が期待に即したものであれば、その適用方法をさらに洗練し続けることが可能になります。そうでなかったとしても、問題はありません — 採用すべき別の戦略をすぐさま決めて、アリのように実行すればよいのです!

PMI Disciplined Agileでは、3つの柱 — 原則、ガイドライン、約束 — を基本とした発想を養うことを提案しているが、これらについてPescatore氏は、原則はビジネスアジリティの思想的基盤を提供するものであり、約束は仲間であるチームメイトやステークホルダ、交流関係を持つ組織内の他の人々と作る同意であり、ガイドラインは我々の働き方(WoW — Way of Working)をより効率的にし、時間とともに改善する上で支援となるものだ、と説明している。説明するのは簡単だが、実行するのは難しい、とPescatore氏は言う。

アジャイルフレームワークを用いたアジャイルへの移行について、Felice Pescatore氏に話を聞いた。

InfoQ: 企業組織がアジャイルフレームワークを利用しようとする場合に、課題となるものは何だと思われますか?

Felice Pescatore: 唯一の"最高のフレームワーク"というものは存在しませんが、企業がそれぞれの変革に挑戦する時、それをサポートする有用なフレームワークはいくつかあります。このシナリオで企業がフレームワークを選ぼうとする場合、まず注意すべきなのは、企業の実際の状況と、同じシナリオで候補となるそれぞれのフレームワークが使用可能であることです。一般的にこれは、転換エージェントやアジャイルビジネスコーチの重要な義務です。出発点をキャンバスに描いて、その絵にもっとも相応しいモデルを選び出すのは彼らの仕事なのです。

InfoQ: Agile Business Dayでは、医療関係の企業が経験した変革について講演されましたが、その会社がなぜ、このような変革を起こそうと決めたのか、どのように変革を始めたのか、説明して頂けますか?

Pescatore: その会社には2つの大きな目標がありました。

  • ひとつは社内のコミュニケーションとコラボレーションに関するアプローチを見直して、業務として医師や看護師によりよいサポートを提供すること、
  • もうひとつは共通の戦略的アプローチを作り上げて、ビジネス上の目標に対する重点をより明確にすると同時に、マーケティング、セールス、テクニカル各スタッフ間の適切な連携体制を確立することです。1年前の重点が、外部ニーズに対する日々の対応に偏りすぎていたことが、これには非常に関係していました。

最初に着手した活動は"変革の灯台(transformation lighthouse)"を定義することでした。これは、顧客中心のビジョンを新たに発展させるための試験を選択し、対象とするマーケットから要請されるイノベーションを積極的にサポートする上で、大きな支援になるものです。

InfoQ: 企業がWoWをアジャイル的な方法で発展させるには、どうすればよいのでしょうか?

Pescatore: 私たちは、"変革への規律あるアプローチ(The Disciplined Approach to Change)"と呼んでいる方法を用いています。これは、PMI Disciplined Agileのツールキットと、Lean Chane Managementの思想を組み合わせたものです。具体的には、すべての新たな行動を実験と考えるのです — 例えば、モジュールのコーディングに関するノウハウの共有、という問題を考えてみましょう。この場合、それを実施する方法として、例えばペアプログラミングや、実験をする時間を1スプリントのように定義する、すべてのコード部分を少なくとも2人が知っておかなければならない、というような関連メトリクスを定義する、などが考えられます。スプリントの終わりに結果を評価して、メトリクスが満足いくものであれば、そのプラクティスを続け、他のチームにも展開します。そうでなければ、別の方法で同じ目標にトライするのです。

このような巧妙なアプローチを、Strategic Change CanvasやDA Process Goals(これについては、leanchange.orgやpmi.orgに詳しく紹介されています)などの戦略的ツールでサポートし、レビューを通じて強化していきます。最終的には"変革フレーム"(3回のイテレーション)を作成してすべての成果を確認し、選択したプラクティスに一貫性があり、想定された有効性のあったことを確認しました。

InfoQ: 品質手順の改訂とコンプライアンスの確保を両立する上で、アジャイルをどのように用いたのでしょうか?

Pescatore: これは難しい部分でした。この企業のコアビジネスは、数多くの外部規則や関連法規に準拠する必要があったからです。この課題に関しては割り切って考えて、普通の反復的かつ漸進的なアプローチで対処することにしました。現在の手順からスタートして、何が変更可能かを特定し、最小限のアップグレードを実行して、新たに選択されたアジャイルライフサイクルにすばやく対応する、という方法です(Scrumと似たもので、PMI DAでは"アジャイルライフサイクル"と呼んでいます)。例えば、複数のレベル(機能、統合など)で構造化されたテスト戦略については、高レベルのディスクリプションはそのままにして、テストを作成する方法の調査と改良を行うことにしました。

その一方で、新しいアジャイルアプローチと一貫性のない手順については完全に作り直し、実験して、新たなプラクティスの安定化を確認した上で形式化するようにしました。例えば、当初の開発ライフサイクルは、旧式のウォーターフォールアプローチで述べられていたのですが、DA Agileライフサイクルによる実験を経て、それが適切であると判断したので、この決定を反映するように関連資料の改訂を行いました。

すべての変革ライフサイクルの最後には、監査活動を適切な方法でサポートするために、一貫性のある資料を必ず作成して、最終的な関連法規や規則への準拠の確認を可能にしました。これについて詳しく説明すると — ドキュメント自体の量は削減して、一部は既存のテンプレートを穴埋めする形で自動化しています。例えば、資料の多くは、独自のサポートツールを使って、プロダクトバックログの情報を自動的に適用するようにしました。とは言え、当然のことですが、資料作成が完全になくなった訳ではありません!

InfoQ: アジャイル変革を始めようとしている、あるいは変革の最中である企業組織に対して、何かアドバイスすることはありますか?

Pescatore: そうですね ... 簡単ですがとても大切なこととして、アジャイルそのものが目的ではない、ということを決して忘れないことです!社内の人たちが文化を推し進めて、新しい挑戦的な目標に向かって取り組み続けられるような、脆弱性のない企業を構築する手段として、アジリティを実現することが必要なのです。

文化を変えるのは大変ですが、それは社員でなければできないことです。実験の効果を共有し、結果を反映し、失敗を他人を避難する理由としてではなく、選択肢を絞る自然な手段として受け入れられるような、安心感を持つことのできる環境を作るために、時間とリソースとを傾けてください。

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