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Mastering Blockchain第3版: 著者とのQ&A

原文(投稿日:2021/01/03)へのリンク

2018年の初版発行から数えて第3版となるPackt Publishingの"Mastering Blockchain" は、開発者や学生など、ブロックチェーンアプリケーション開発やブロックチェーンアプリの基盤技術の学習に関心のあるすべての人々を対象に、ブロックチェーンを包括的に紹介するための書籍である。

ブロックチェーンを理論と実践の両面から取り上げており、読者がブロックチェーンを深く理解すると同時に、ブロックチェーンアプリケーション開発の基礎知識になることを目標としている。第3版は22章構成となり、初版の13章から補筆されている。各章は暗号化や暗号通貨、Bitcoin、Ethereumなど、ブロックチェーンに関するすべての話題を網羅する他、新たな4章ではコンセンサスアルゴリズム、セレニティ(Ethereum 2.0)、トークン化、エンタープライズブロックチェーンを取り上げている。

InfoQは今回、著者であるImran Bashir氏と話して、同書とブロックチェーンの今後について学ぶ機会を得ることができた。

InfoQ: "Mastering Blockchain"第3版を書こうと思ったきっかけは何でしたか?

Imran Bashir: 前版を発行して以来、ブロックチェーンテクノロジは非常に大きな進歩を遂げました。この進歩に貢献したアイデアの中には、新しい暗号化プロトコル、新しいコンセンサスアルゴリズム、新しいプライバシテクニック、そしてスケーラビリティに関するさまざまな開発があります。さらに、基盤となるテクノロジの制限に対処するために開発された、革新的なタイプのブロックチェーンが登場したことで、エンタープライズ環境におけるブロックチェーンテクノロジへの関心が深くなりました。このような変化のそれぞれから、最新の業界情勢を反映した改訂を行うべきだと思うに至ったのです。

InfoQ: 最新版にはコンセンサスアルゴリズムやセレニティ(Ethereum 2.0)、トークン化に関する新たな章が設けられていますが、これらの新たな開発成果がブロックチェーンのエコシステムに何をもたらすのか、簡単に説明して頂けますか?

Bashir: 新版ではコンセンサスアルゴリズム、Ethereum 2.0、トークン化、エンタープライズブロックチェーンなど、最新のトピックのいくかを取り上げた章が新たに設けられています。コンセンサスアルゴリズムはコンピュータサイエンスの観点からは新しいトピックではないのですが、分散システムであるブロックチェーンで採用されたことによって新たな関心を集めています。このアルゴリズムは、ブロックチェーン参加者がブロックチェーンの状態への同意することを可能にするもので、プロトコルの完全性という面から非常に重要なものです。これまでにも、PBFTやRAFTといった既存のプロトコルがブロックチェーンの世界に持ち込まれて、同意、安全、活性といったものを実現するために適用されてきました。これら従来のプロトコルの中から、IBFTのような比較的新しいバリエーションや、HotstuffやDiemBFTのような改良型プロトコルも開発されており、ユニークで優れた特性が数多く導入されています。さらには、予想どおり、トークン化がブロックチェーンテクノロジにおいて最も注目すべきアプリケーションとして浮上してきました。DeFi(分散型金融)や支払システム、その他の多くのDAPP、トークンといったまったく新しいエコシステムは、Ethereumやその他のプラットフォーム上で開発が続けられ、従来のプロセスをより効率的なものにしています。さらに、トークンによって生まれたまったく新しいエコシステムは、多くの産業においてたくさんの新たな可能性を開いているのです。

InfoQ: 初版を執筆してから、ブロックチェーン経済はどの程度現実のものになったのでしょう?普及の上で、何か障害があるのでしょうか?ブロックチェーンはいまだその用途を探している状況だ、と思ってよいのでしょうか?

Bashir: ブロックチェーン経済が現実のものになっていることは間違いありません。先日の報道によると、Bitcoinへの投資を考えている人の数が、金よりも多くなっているのです。最近、Bitcoinの価格が20,000ドルを越えました。これは、ブロックチェーンが経済に影響を与えていることを明確に示しています。分散型金融が160億ドル以上の資産をロックインしているということも、ブロックチェーンが経済の一部になっていることの明らかな印です。法制化は完全でありませんし、詐欺や窃盗事件も発生しています。また、多くの人たちは従来の金融をより信頼していますし、ブロックチェーンを理解していません。経済全体から見れば、まだごく一部なのですが ... すでに現実のものなのです。

InfoQ: 新版にはブロックチェーンのスケーラビリティに関する記述が増えていますが、この領域でどのような進歩があったのか、説明して頂けますか?

Bashir: スケーラビリティに関しては、多くの取り組みが行われてきました。ZK-ロールアップやライトニングネットワーク、ステートチャネル(state channel)、プラズマ(plasma)といったソリューションは、この分野において大きな進歩があったことを示すものです。これらはいずれも、ブロックチェーンのスケーラビリティに関する問題に対処すべく開発された新たなテクノロジなのです。このトレンドは今後もきっと続くでしょう。

InfoQ: ブロックチェーンの大規模化を阻んでいる他のファクタ、例えばプライバシ、法規制、コンプライアンスなどについては、どのような変化がありましたか?

Bashir: 一般論としてですが、みなさんが考えているよりも、ブロックチェーンは広範に利用されていると思っています。広く知られているのがBitcoinだけであっても、その基盤にあるテクノロジ、すなわちブロックチェーンが大きく関わっているのです。私の個人的な経験からも、暗号通貨とブロックチェーンに対して、人々は大きな関心を持つようになってきています。当然ですが、一般の人々にとって、この関心はもっぱら暗号通貨に対するものです。それでも近年、業界や学会から大きな関心が寄せられていることは、この分野における新たなイノベーションやレベルの高い研究論文の多さが証明しています。

InfoQ: 通貨や金融以外でのブロックチェーンの利用という面では、他のどのような分野が有望でしょうか?

Bashir: ブロックチェーンはBitcoinなどの暗号通貨で導入されましたが、この素晴らしいテクノロジは他の産業にもメリットがあります。不動産や医療、IoT、マシンラーニング、ゲーム産業、政治、保健衛生、音楽、メディア、さらにはスポーツ産業に至るまで、ブロックチェーンテクノロジは、すでに幅広い用途を見出しています。大きなメリットとなっているのが、他の参加者や通信相手とのセキュアで敏速なデータ共有能力です。これにより、必要なインフラストラクチャやデータ転送面での課題、セキュリティ上の取り決めといったコストを即座に低減することができます。エコシステムに参加するアクタ同士が、サードパーティを必要とせずに直接対話できることによって、従来のTTP(trusted third-party)モデルに比べて、はるかにコスト効率のよいメカニズムを実現しているのです。例えばヘルスケア産業では、薬品の偽造を阻止することによって、サプライチェーンに大きな恩恵を与えています。またIoTでは、ブロックチェーンによるP2Pコミュニケーションやセキュリティ保証を活用できると同時に、コンセンサスアルゴリズムによって、比較的低いコストで、実装に関する問題もなく、効率性やセキュリティを実現することが可能になります。

InfoQ: 最後になりますが、私たちは近年、エンタープライズブロックチェーンの興隆を目の当たりにしてきました。この状況の持つ意味と、今後対処すべき重要な課題について説明して頂けますか?

Bashir: エンタープライズブロックチェーンは、企業によるブロックチェーンテクノロジのメリットの活用を可能にします。パブリックなブロックチェーンは、パフォーマンスやプライバシ、アクセスコントロールといった要件から、多くの企業のユースケースに適していません。ですが、それらを修正して、企業のユースケースをブロックチェーンで実装できるようにすることは可能です。エンタープライズブロックチェーンは組織内、あるいはさまざまな組織によるコンソーシアム内で運用することが可能です。そのおもな目的は、ビジネスプロセスの効率性と低コストを達成することにあります。代表的な一例は、他の組織とのセキュアなデータ共有が簡単に実現できることです。これにより、信頼度の向上が実現できるとともに、銀行間での支払決済ネットワークを、コストを要する調停プロセスを必要とせずに運用することが可能になるのです。

Imran Bashir

Imran Bashir氏はLondon大学Royal Holloway校の理学修士(M.Sc)を所有し、ソフトウェア開発、ソリューションアーキテクチャ、インフラストラクチャ管理、ITサービス管理をバックグラウンドとする。IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)とBCS(British Computer Society)のメンバでもあります。金融サービス業界に移るまでの氏は、公共部門で大規模なITプロジェクトに携わっていたため、公共関係と金融関係の両方で豊富な経験がある。 現在はヨーロッパの金融の中心であるロンドンにおいて、数多くの金融企業にさまざまな技術的な役職で従事している。

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