Agile Coaching Ethics Initiativeは、アジャイルコーチングに関する水準向上を目的とする行動規範の草案を公開した。この活動は、幅広いアジャイルコミュニティを独立性を持って代表するため、Agile Allianceの支援下で行われている。
公開された"Code of Ethucal Conduct" 2021年1月版ドラフトは、9つの主題分野を対象とする18のポイントで構成されている。
- 機密性と情報安全性
- 能力の範囲内での活動
- 内省と継続的な専門能力の開発
- 利益の相反
- 多様性と一体性を含む社会的責任
- コーチとクライアント双方に有益な関係性
- 境界に関する合意
- 権力の乱用
- 専門的業務の責任
Ethics Scenariosは、アジャイルコーチが経験の深さに関わらず共通的に体験する課題に対して、この行動規範がどのように関わるかについてのガイダンスを提供するものだ。
そこで期待するのは、組織内においてアジャイルコーチ役を担う者が倫理的ジレンマに陥った時の行動指針の一環として、レベルを問わずにこの行動規範を用いることができる、という状況である。
倫理規範と、それに関連するアジャイルシナリオに対する質問やフィードバックがあれば、AgileCoachingEthics@agilealliance.orgでイニシアティブチームにコンタクトすることができる。
Craig Smith、Shane Hastie両氏に、この倫理的行動規範についてインタビューした。
InfoQ: この草案はどのようにして作られたのでしょう?
Shane Hastie: 草案作成のプロセスには、なかなか面白いものがありました。私たちは多様性の非常に高い30名からなるチームで、それぞれが自身の経験やバックグラウンドをこの仕事に持ち込んでいるのです。最初は、インスピレーションを引き出すために、既存の倫理的規範について調査することから始めました。次に、対処が必要と思われる領域を特定した上で、コラボレーティブな会話の中で、各ポイントの文章表現について議論しました。
トピックを規範に含めるべきかどうかを判断する時には、次のようなガイドラインに従うことにしました。
- 倫理的な考慮事項であるためには、その倫理規範を取り入れた人がすぐに実行できるものでなければなりません。新人コーチがその声明を読んで、自身の職務遂行に直ちに適用できるようなものであることが必要なのです。
- 倫理的な考慮事項であるためには、その声明に背いた場合には、自分自身、職務、あるいはその他に危害を及ぼす可能性があるという、広範な同意が存在するものでなくてはなりません。
- これらのポイントは、組織内のアジャイルコーチ、外部のアジャイルコーチ、他の職務の一環としてアジャイルコーチを行う人たち(例えば、アジャイルコーチを兼任する必要のある組織のマネージャ。同じようにスクラムマスタも、アジャイルコーチ的な側面を持つことが多々あります)に対して、分け隔てなく適応できるものでなくてはなりません。
これらのガイドラインに、可能な限り多くの視点から獲得したインプットを加えることで、倫理的なアジャイルコーチングを具現化すると考えられる18の声明を取りまとめることができました。
Craig Smith: Ethics Senarios文書の目的は、アジャイルのコーチングを行う上で直面すると思われるシナリオを、発展的なセットとして提供することです。このシナリオで私たちは、直面する倫理的課題、倫理的行動規範を適用する方法、そのようにアドバイスする理由、といったものを明確にしたかったのです。
これらの倫理シナリオに対して、私たちは、次のようなガイドラインを考案しました。
- シナリオは、組織内のアジャイルコーチ、外部のアジャイルコーチ、他の職務の一環としてアジャイルコーチを行う人たち(例えば、アジャイルコーチを兼任する必要のある組織のマネージャ。同じようにスクラムマスタも、アジャイルコーチ的な側面を持つことが多々あります)に対して、分け隔てなく適応できるものでなければならない。
- シナリオは、アジャイルコーチングを実践し、個人やチーム、組織を対象に、その行動様式やアドバイス、期待されているアプローチを指導する人々に対する、ガイドラインの提供を意図していなければならない。
- そのシナリオは、基本的なアジャイルの価値観と原則 — 焦点、勇気、尊敬、約束、開放性、透明性、検査と適応、あるいはアジャイル憲章の価値観や原則を問うものか?そうならば、それを加えよう!アジャイルコーチ、クライアント、組織が手を取り合ってアジャイルへと進む上で、アジャイルの価値観は我々の倫理的羅針盤なのだ。
- そのシナリオは、コントリビュータを"分割して関与"させ、最終的に長く、複雑で、多様な議論に行き着く類のものなのか?そうならば、それを加えよう!私たちは課題と対話を通じて成長し、"挑戦的"状況を考慮することで他者を成長させることができる。
- そのシナリオは、アジャイルコミュニティにおける我々の読者に"関連する"ものなのか?世界中の多様な文化的状況/地域/企業状況において、普遍的かつ頻繁にみられるものなのか?そうならば、それを加えよう。
- アジャイル産業の評価やクライアントの(組織的および個人的)評価に大きな影響力(ハイリスク、ハイインパクト)を与え得るシナリオはあるのか?そうならば、それを加えよう。優れた個人倫理とガバナンスが、悲劇的状況(black swan event)を回避する一助となることだろう。
予想できることですが、明らかに倫理的なシナリオや倫理的でないシナリオを作ることは、たいして難しくはありません。本当に難しいのは、いわゆる"グレーゾーン"、つまりその行為の行われる状況が、下される判断の倫理的影響に重大な影響力を与える場合なのです。これらは盛んに議論されたものですが、シナリオに含まれた指針が、それぞれの置かれた立場において最善の決断を下すために役立てば、と私たちは願っています。
InfoQ: コーチングを業務として行う上で、コーチにはどのような責任があるのでしょうか?
Smith: Code of Ethicsを取り入れる人はみな、難しい意思決定を伴う場合においても、倫理的に振る舞うように努めます。この行動規範は困難な意思決定が必要な場合のサポートとして役立つと同時に、クライアントに対する意思決定をサポートする役割も果たします。自身の行動について説明する手段となるのです。
Hastie: 専門的職務の分野に対する責任を探求する際、私たちが指摘したことのひとつは、倫理的に行動するためには、非倫理的行動を沈黙によって容認せず、積極的に指摘することの必要性です。行動規範には次のような声明が含まれています。
私は、職業としてのアジャイルコーチングの評価を支持します。
私は、アジャイルコーチによる非倫理行為を容認せず、異議を唱えます。
私は、他者の考えを適切に帰属させるとともに、自らのものであるように見せる振る舞いは回避します。
InfoQ: アジャイルコーチが自身の能力を超えた振る舞いをしていないことを確認するには、どのようにすればよいのでしょう?
Hastie: これは自己認識の問題であり、コミュニティの中で行動する、ということです。倫理行動規範の第4項には、自分自身のバイアスに注意を払い、他からの指導を仰ぐ、ということが述べられています。
私は、内省に努めると同時に、他のグループやメンタとともに、
アジャイルコーチとしての自分の行動に関わる倫理的ないしその他の課題に取り組みます。
InfoQ: コーチは通常、組織変革を支援するために請われるものですが、介入中に発生する利害の相反を防ぐには、どのようなことが可能なのでしょうか?
Hastie: 利害の相反に関しては、次のような宣言があります。
私は、影響を与える可能性のあるすべての人々の、あらゆる潜在的な利害的対立に対して透過的であり、侮蔑的に振る舞うことはありません。
対立の適切な管理が不可能ならば、私はその関係性から身を引きます。
利害の対立は起こるでしょう。重要なのは、潜在的な衝突を透過的に目に見えるものにするとともに、すべての利害関係者とコーチングの立場から接することであらゆる衝突を確実に把握し、衝突に起因するリスクを確実に管理することです。衝突が効果的に管理ないし削減できない場合は、その関わりから身を引いた方がよいでしょう。