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アレグザンダー祭りにて、James.O.Coplienが語るアジャイルとスクラムの源流とは

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「パターン」と呼ばれる設計手法をご存知ですか?この建築の分野ではじまった設計の形式知化手法、および、使う人と作る人の対話のプロセスは、私たちソフトウェアの世界に援用されて1995年に「デザインパターン」という書籍で注目を浴びました。さらに、アジャイルと呼ばれる開発手法には、ユーザーといっしょに対話をしながら設計を進める「パターン」の思想が脈々と引き継がれているのです。この「パターン」の源流は、一人の建築家のアイディアから始まっています - その建築家の名は、クリストファー・アレグザンダー。

 2010115日、東京の国立オリンピック記念青少年総合センターにて、オブジェクト倶楽部が主催する「アレグザンダー祭りが開催されました。現在、「ソフトウェア」と「建築」というそれぞれの分野で、建築家クリストファー・アレグザンダーの唱えた「パターン」という設計手法が使われています。日本でこのパターンについて考え、体験しようというこの会には、デンマークからソフトウェアパターンの中心者であるJames.O.Coplien氏(通称、Cope)が、さらにパターンを活かした建築・町づくりの第一人者であり、アレグザンダーに師事した経験をもつ中埜博氏/笹川万国氏が招かれ、基調講演とワークショップが開かれました。

「パターン」の結末としての「アジャイル」そして、「リーン」との交配種としての「スクラム」

James O. Coplien は、From Patters: Eastward to Lean, Westward to true object」(パターンから始まった運動: 東洋のリーンへ、西洋の真のオブジェクト指向へ)と題した基調講演の中で、「パターンから始まるムーブメントが現在のアジャイルとなり、そして、トヨタウェイ(リーン)の考え方が合流してスクラムに影響を与えている」として、パターンとリーンの関係を、スクラムを合流点として捉える全体絵の中で示しました。

アレグザンダーの考え方の原点は、自然の秩序に潜む性質を捉えることです。これは、著作「Nature of Order」の目的の一つでもあり、パターンのアイディアの元になっています。水が流れる形を作る、風と砂が風紋を生む、そこにある法則です。アレグザンダーのパターンは、この自然が作る形を研究し、「よい形とは何か」という根源的な問いへの回答を求めて、パターンへと到達しました。パターンは、文脈、問題とそれに対応する設計解に名前をつけてカタログ化していったもので、これらを組み合わせて実際の建築や町を設計していきます。この手法を真似たのが、ソフトウェアのパターン運動で、その1つの成果が1995年に出版された「デザインパターン」です。ソフトウェアで起こったパターン運動は、コミュニティを形成します。Copeはその中心でした。その後、パターンは開発プロセスへと応用され、現在のアジャイルソフトウェアという1つのジャンルを確立するに至ります。それが到達した1つの形が、現在でもっともポピュラーに使われているアジャイル方法論の1つである、スクラムです。Copeは、そのパターンコミュニティの中心であり、Kent Beck Extreme Programmingを生み出すきっかけになる、組織・プロセスパターンの著者でもあります。

さて、東洋でうまれたリーン(トヨタ生産方式)の原点である、トヨタウェイ、を見てみると同じように、自然の法則を見つめています。コミュニティ、人間性尊重、顧客の価値の重視など。そしてトヨタウェイに基づく、JIT(ジャストインタイム)や継続的改善などのリーンプラクティスが、直接スクラムにも大きな影響を与えているのです。これが、この講演の題名の前半である、Patterns: Eastward to Lean の全体像です。

このように、かれは、パターンと東洋のリンクを語りました。そして、アレグザンダーの研究対象である「形」の部分がソフトウェアの中に、未だ見出されずに残された部分である、と指摘しました。ここから、後半の「Westward to true object」の部分、すなわち、残された「形」についての課題の解決として彼が提唱している真のオブジェクト指向の形としてのDCIアーキテクチャの話に繋がっていきます。

 

オブジェクト指向が苦手としてしまった「関心事の分離」を救い出す、場のアーキテクチャDCI

オブジェクト指向、が、ユーザーのメンタルモデル(頭の中の認識)をコンピュータの中に作り出すことが、アランケイの思想であったこと、そして、MVCモデル(Model-View-Controller)が、その実装モデルになったこと。しかし、Java 言語等では、オブジェクトが中心ではなく、「クラス」が中心コンセプトになってしまっている、さらに、ドメインオブジェクトのデータクラスはビジネスロジックを実装する場所として不適切、とCopeは指摘します。真のオブジェクト指向であるためには、関心事を分離する必要がある。ユースケース(コンテクスト)の中のロール(オブジェクトの役割)に注目し、ロールのメソッドとしてビジネスロジックを実装、そしてそれを、ドメイン・オブジェクト(何もしないダム・オブジェクト)とコンテキストの中で組み合わせる手法として、DCIアーキテクチャを解説しました。これまで、オブジェクト指向言語でコーディングされたソースコードが、「あちこちに飛んで読みづらい」と言われてきました。DCIによって、ユースケースがコードで素直に表現され、「読める」ようになりますし、また、安定したビジネス・ロジックもその居場所を見つけることができます。AOPやマルチパラダイムデザインが標榜した、「関心事の分離」が最もうまく実現できるのが、DCIアーキテクチャであり、彼が題で true object と読んでいるものの姿です。しかし、これが「素直に」出来る言語はまだ限られています。Ruby ではロールを module として実装、mixin によってオブジェクトに追加することでこれが実現できます。Scala では traits を、C++では、テンプレートを使います。残念ながら現在のJavaではうまく実装できません。

 

過去のディケードと未来のディケード

最後に、Cope10年前に彼が東京で行なった「West Meets East」の講演にふれ、そのとき、日本には世界へメッセージを発信するチャンスだった、と指摘しました。それから10年(a decade)がたち、再度日本に来たCopeには、日本の現状はどう映ったでしょうか。

今回のアレグザンダー祭りは、オブジェクト倶楽部の角谷信一郎氏と懸田剛氏が企画。彼らは有志たちと「アレグザンダー読書会」と称して、アレグザンダーの新刊書籍「Nature of Order」を読み進めていたところ、2000年に来日したCopeの講演資料を偶然発見、その「West Meets East」と題したパターンの講演のコンセプトに惹かれて企画され、中埜氏/笹川氏との夢の共演が実現しました。ソフトウェアと建築、という2つの違った分野で洋の東西に分かれてアレグザンダーの活動を継承している活躍している中心人物、Copeと中埜氏を会わせることも、大きな目的であったようです。

この会の翌日には、Copeと中埜氏/笹川氏らは、ソフトウェア開発と建築の両分野から希望者を募って、アレグザンダーの日本での作品である、盈進学園東野高校(埼玉県入間市)を一緒に見学し、ユーザーとの対話によって設計された建築の現在の姿を瞳に焼き付けたとのことです。

西洋では下火になってしまったソフトウェアパターンの運動は、再度日本で、その意味を見つけることができるでしょうか。日本では、まだパターンに関心を持ち続けているグループがあります。そして、建築のグループと交流を始めています。今後の10年、日本から再度、パターン活動を基礎にした新しいソフトウェアの活動が芽生える可能性があります。10年後、ソフトウェアの中で、再度アレグザンダーの思想が別の形での表現を見つけることに、今後も日本で参画していきたいと思います。

 

参考資料:

当日の資料等は、オブジェクト倶楽部のサイトから取得できます。

http://www.objectclub.jp/event/2010alexander/

 クリストファー・アレグザンダーがソフトウェアに与えた影響と、ソフトウェア開発でのパターンムーブメントからアジャイルムーブメントへの全体像については、平鍋のブログに解説があります。

http://blogs.itmedia.co.jp/hiranabe/2005/10/post_dc1e.html

 DCIアーキテクチャについてのInfoQ記事がこちらにあります。

http://www.infoq.com/jp/news/2009/05/dci-coplien-reenskau

 

著者

平鍋健児(ひらなべけんじ)

株式会社チェンジビジョン 代表。

UMLエディタastah*の開発、プロジェクトファシリテーションの実践を中心に、日本でのアジャイル開発を先導。「マルチパラダイムデザイン」の翻訳でCopeと知り合い、以降、コミュニティ作りに関する影響を受ける。

アジャイルの実践貢献者に毎年贈られる Gordon Pask Award 2008 受賞

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