BT

最新技術を追い求めるデベロッパのための情報コミュニティ

寄稿

Topics

地域を選ぶ

InfoQ ホームページ アーティクル 数字を用いたコミュニケーション - アジャイルの精神で

数字を用いたコミュニケーション - アジャイルの精神で

これはよくある話です。われわれ専門技術者は、マーケティングの人間やマネージャ(いわゆる経営陣)に屈します。それはわれわれが押し返す方法を知らないからです。その結果、開発者は経営陣に後ろ向きで反抗的と捉えられます。また経営陣は開発者から、何も分かっていないとか、「嘘をついている」とまでレッテルを貼られるのです。これは、いまだ続く「こちらとあちら」の対立なのです。Linda Rising氏は、根本的な誤解がこの問題の根底にありうることを示唆しています。それは経営陣が人やチームに関する決定を下す際、数字を用いることが多いためです。一方、開発者は主に計算のために数字を使用します。

和解の道はないのでしょうか。Linda氏は「あります!」と答えます。 -- 少し指導すれば、開発者はまさに、言わんとすることを伝え、その隙間を埋められるだけの経営陣との話し方を身につけられるのです。この物語で「アジャイルの精」が指摘するように、その秘訣は計算では解決できない問題や課題を意思決定に役に立つ数字言語へと置き換えることにあります。


Rickは彼らが現れるのを横目で見た。Rickは逃げ出し、机の下に隠れたかった。どうにか逃げたかったのだが、もう手遅れだった。彼のチームリーダのJimとマーケティングの人間であるSamの2人が彼の作業場に来て見下ろすように立っていた。

「やあ、Rick!」と、Samは言った。「君は、まさにわれわれを救うことができる人間だよ。新たな顧客がわれわれのFramitsにとても興味を示しているんだ。つまりこういうことだ、彼はまさにWhatsisモジュールを必要としていて、これまでの顧客より早くそれが必要なんだ。月末までに手に入れることができるなら、われわれに特別報酬を払ってもいいと言っている。それが君にプレッシャーになることはわかっているよ。でも君はこれまで差し迫った中でも、いつだって切り抜けてきたよね。どうだろう、手伝ってもらえないかな。これは会社にとってとても大事なことなんだ。今のところ、第3四半期はあまり良い状態とは言えないからね。」

Rickは、落ち着かない様子で視線を泳がせており、罠にかかったネズミのようであった。そして、相手の眼をきちんと見ることすらできず、Jimは助けにならなかった。Jimもまた強要されていることをRickは知っていたのだ。このような駆け引きが以前にもなかったわけではない。だが、Rickはチームが「アジャイル」になってから、状況が変わることをどこかで信じていたのだ。が結局そうはならなかった。彼らはなおも、これまでとさして変わらぬやり方で作業に取り組んでいたからだ。彼はこう言うのが精一杯だった。「その期限、つまり月末、を守れるかどうかわかりません。というのも、このモジュール作業は結構なもので、どんな問題が起きるかわかるほど私には経験がないのです。私は…」

「わかっているさ、Rick、そうなんだよ」と、Samは言った。「君たち開発者っていうのはみんな同じだな。『何とかしましょう』っていう姿勢はどこへ行っちまったんだ。なあ、週末に働く気があるなら、たしか時間外勤務に特別手当が出るって聞いてるぞ。」

「お金の問題ではありませんよ、Sam」と、Rickは言い返した。「私は、本当にわからないんです。それにどれぐらいかかるのかも、でも…」

「でも、何だい、Rick?」、Samが割り込んできた。「数字を見せてほしいんだよ!話し合おうじゃないか!私には何度も同じことに耳を傾けている時間などないんだ、顧客のところに戻って、商談が成立したと言わなければならないからな。」Samは立ち去った。

Jimはその場で立ちすくみ、やり場のない表情を浮かべてRickを見た。「すまない、Rick。私は、「アジャイル」の新入りで、さっきのようなマーケティングの人間に何を話したらいいかわからなくてね。でも、君にはそれがどういうものかわかっているよね。顧客、顧客か。ねえ、顧客もアジャイルの一部ってことなの?」

「そうだと思います。」と、Rickはうなずいた。

「また後で話そう」、Jimは気乗りしない様子で手を振り、去って行った。

Rickは、両手で頭を抱えその場に座りこんだ。彼は会社が順調にいくことを望んでいた。彼が「チームプレーヤ」で、いつでも自分の役割を果たす意思があることをみんなにわかって欲しかった。彼は邪魔されているように感じた。彼が言っていることは本当だった。そのモジュールについて本当にまだよく知らなかったのである。ストーリーカードは何枚もあったのに、実際、それに取り掛かろうとする者は誰もいなかった。突然、物音がしたので彼は驚いた。すると、また音がした。彼はあたりを見まわし何かを目にしたが、実際、自分が何を見ているのかよくわからなかった。何か幻のようなものが、くすくすと笑っていたのである!


「君は一体何なの?」と、Rickは小声で話しかけた。

「静かに、周りからはあなたがひとりごとを言っているように思われますよ!」、幻影のような姿をしたものは微笑んでいた。「あなたを助けに来たのです。別に幻を見ているわけではありませんよ。いや、もしかしたらそうかもしれませんけど!」

「『助けに来た』ってどういうこと?」、Rickはじっと見つめた。「君は一体何なの?それに、私の仕事場で何をしているんだい?」

「大丈夫、Rick」。その幻影は突然真顔になった。「あなたは厄介な問題を抱えていますよね。そして、それは多くの開発者が苦しみながらも何とかしようとしている問題です。だから私は立ち寄ることにしたんです。あなたを助けることができれば、おそらく、あなたはその話を他の人に広めることができるでしょう。いくら私が本物のアジャイルだからといって、全員にそうする時間はありませんからね!」。その幻影は再びくすくすと笑った。

Rickの困惑する顔を見て、幻影はうなずくと、語り出した。「ではまず、自己紹介を。私はアジャイルの精です。私はあらゆる種類の「アジャイル」そのものなのです。私はあなたがXPやScrumをしているかどうかなど気にしておりません。Gary McGrawが言う『ヤギの虐殺』は『ヤギの虐殺』そのものを愛すというものです。まあ、これは冗談ですが。」精霊は二重に見えたが、Rickは頭を振り、目を凝らした。

精霊は咳払いをし、話を続けた。「私はいつもこういったことをよく目にします。つまりマーケティングの人間やマネージャ(いわゆる経営陣)に屈服している開発者です。経営陣に後ろ向きで反抗的と捉えられる開発側と、開発側に何も分かっていないとか嘘つき呼ばわりされている経営陣です。これは、いまだ続く対立です。『こちらとあちら』という和解の望みのない対立なのです。」

「ええ」と、Rickは同意した。「確かに、彼らは何もわかっちゃいない。彼らは日付と数字をばらまき、それらが何も意味していなくてもお構いなしだ。私のチームのメンバが交渉の場で数字を提示する時、それには意味があるんだ。数字は意味をなすべきで、彼ら経営陣のようではだめなんだ!」

「問題はそこなんです。」と、精霊は言った。「あなたは、ことわざの『論理』ハンマーでことわざの釘を打ちました。開発側は数字がある1 つのものを意味すると考えており、経営陣は数字が何か別のものを意味すると考えています。」

「待って!」、Rickは声を張り上げ、急に立ち上がると、通路を見渡した。問題なかった。彼の話を聞いている者などいなかった。たとえ聞かれていたとして、またひとりごとを言っているくらいにしか思われなかっただろう。「数字は数字が意味するものを意味するんだ。」Rickは握ったこぶしを上下させていた。「たとえば2という数字がある人には1つのことを意味し、別の人には別のことを意味するなんておかしいよ。そんなの、ナンセンスだ!数字は数字だ…」

「ちょっと待って」、精霊はさえぎった。「私の話を聞いてもらえますか。一つ例を挙げてみましょう。われわれは共に知りうる言語の表現を使用する場合、あなたが私の言うことを理解していると仮定しています。こうして、会話ができるんですよね?」

「その通り!」と、Rickは言った。「まさにそれだよ!数字が意味をなすように、言葉も意味をなす。さもなければ、われわれは同じことを考えているのに異なる意味を伝えることになってしまう。」

「でもきっと、あなたが何かを言って、誰かがその意味を誤解するといったことがありましたよね?あなたと他の誰かが同じ言葉を使用していたのに、意図せぬ意味でとられてしまったとか?」

「はい、その通りです」と、Rickは同意した。「こういったことは常に起こります。私がここで言うことの半分は誤解されるんだ。特に期限に関してはね。」

「あなたが先ほど言ったことに戻りましょう、Rick」、精霊はしゃがみこみ、まじめな顔つきになった。「あなたは、2は2でそれ以上はないと言いましたよね。間違いないですか?」

「その通り!」と、Rickは叫び、手で口をふさいだ。「その通り!」と、彼は声を小さくして言った。

「でも」と、精霊は続けた。「数字が『作られる』というのも事実ではないですよね。あなたは、現実世界に出て行き、『2』そのものを探し出せますか?」

「ええ、まあ」と、Rickは同意した。「それは、数学者が作った人工的なシステムだからね。でも、だからといって、2が一貫した特定の解釈をもたない、ってことにはならないよ。」

「でも、それがさっき話した言葉の誤解と同様なら、どうでしょう?本当に数字の解釈が異なっていたら、どうですか?あなたは、経営陣が数字に関して『嘘をついている』と言いましたよね?」

「いつもだ!」

「彼らが、ただその数字に対し異なる解釈をしていたということではないですか?」

「ありえない!」

「落ち着いて」と、精霊は促した。「マーケティングや経営側の人間、あるいはあなたのマネージャの役割について考えてみましょう。彼らが直面する現実には、数多くの意味合いを持つ『正確性』があります。時に『正確性』は時間やコストの範囲を示すこともあるのです。この範囲にありさえすれば、彼らはそれにすっかり満足し、『本当の』結果などどうでも良くなるのです。範囲がとても広い場合もあれば、狭い場合もあります。これは、リスクや彼らの試みに依存することもあれば、環境に左右されることもあるのです。もちろん、正確さが絶対不可欠なとき(とにかく~以内にといった具体的な期日設定がなされるとき)もあるでしょう。たとえば、彼らにはある納品に関連する予算の見積もりがあるとか、新製品を顧客に納品する際に、数パーセントの売上増を見込んでいると仮定しましょう。売上の増加から収益を予想するには、従業員の新規雇用や新たな機器など、予算や経営プランの場のあらゆることが支出増の要因として考慮される可能性があります。もしそうしなければ、非常にコスト高になることが考えられます。というのも、こういった状況下では、売上増のサポート準備を図りながら、増大する経費をすでに一部負担している可能性があるからです。」

「まあ」、Rickは首を傾げた。「彼らは単に『数字を扱っている』という点はわかったよ。でも、だからと言って、私はそれを受け入れたりはしないよ。」

「あなたが考えていないと思われる点が他にもあります」、精霊は続けた。「経営陣は決定を下すのに数字を使いますが、必ずしも計算のために数字を使っているわけではありません。あなたのチームでアジャイルの採用を望まなかったメンバがいますよね?Fredでしょう?」

「えっ!どうしてそのことを知っているの?君はどのぐらいここにいるの?」

「私は、時にぞっとするようなものにもなりえるのですよ」と、精霊は笑った。「とにかく、あなたはチームリーダのJimのところへ行き、アジャイルの試行でFredが参加するよう働きかける方法がないと言いましたね。ごちゃごちゃ言わずに、Fredが参加する手立てを見つけるよう、Jimがあなたに命じた時、あなたは不満に思いましたよね。では、あなたは何を期待したのですか?Jimは誰かが不平を言ったからといって、メンバを解雇したり異動させたりすることはできないのですよ。それに、Fredは貴重な貢献者なのです。彼はWhatsisの専門家で、過去のプロジェクトでかなりの数を実装してきています。たとえ彼がアジャイルに賛同していなくても、特にこの新しい顧客に関しては、彼の助けが必要となるかもしれないですよ。では、数字の話に戻りましょう。」

「この話で興味深いのは、経営者は数字での処理を好む点です。ですから、あなたがJimのところへ行った時に、問題点を人ではなく何か数字に置き換えていれば、Jimにとって問題点はよりいっそう明確になり影響範囲を容易に理解できたはずです。あなたは納得の行くレスポンスを得て、何らかのアクションをとれたでしょう -- ここでの決定がそこそこ頭を使うものであることが前提ですが。師の一人は私にこう言いました。決定が簡単であるならば、それは決定ではない!経営者はコストと利益を考えなければなりません。彼らが『イエス』と言うと、何が起こるか、そして、彼らが『ノー』と言うと、何が起こるかを考えなくてはならないのです。コストと利益は有形あるいは無形なものです。経営者というものは、たいてい数字を基盤にしているため、有形なものを好み、人間味はありません。彼らに異義を唱えることはできないのです。経営者があなたに食ってかかったり、質問したりするとき、彼らを正当化したり援護したりすることは簡単なのです。また、数字は短期的あるいは長期的な企業の戦略プランに合わせて、何らかの方法で常に調整されています。それは大きな取引の場合も小さな取引の場合もありますが、それでもなおプラス・マイナスで調整されているのです。無形なものは、対処が難しく、正当化や明確化がより困難なのです。取り違える可能性が高く、個人の解釈や異議申し立てがより起こりやすいものになっています。経営者は経営側にいて、必要があれば数字を使います。しかし、経営者は自分たちの決定を正当化するに足るものであれば、具体的な数字を好むものなのです。」

「そこでRick、あなたへメッセージがあります。それは、無形の理由を有形なものにすることです。あなたがJimを前にして説明した理由は、チームメンバの考え方や行動であり、非常に個人的で無形なものでした。つまり、先の人物に関することは、すべて解釈が自由なのです。問題が具体的なものであれば、あなたの論点を経営者が理解する形で納得させていることになります。ここでいう具体的なものとは、会社に対するコスト、作業のやり直し、何かをする際、余分にかかる時間、会議での無駄な時間、といった会社にとってマイナスになるあらゆる実コストです。次は、Jimに働きかける具体的な何かを与えるのです。彼が上司に提示できるような何かを。そうすれば、あなたがより満足いく決定を彼らが下すことができるでしょう。」

「ってことは、単に何かを作り上げればいいってこと?」

「つまり、誰も将来の予測はできません、でも、コミュニケーションをとる際、数字を使わなければ、あなたが話している相手はあなたの言葉以外頼るものがなくなってしまうのです。」

「私の言葉では足りないってこと?」

「その通りです。経営に関する決定をする際、それを裏付けるだけの何の情報もなく、1人の人間の意見を拠りどころとすることはできません。Jimはあなたに同意すらしたかもしれません。しかし、彼は裏付ける情報がないまま決定を下す、あるいは彼の上司に問題を提起するのを正当化できなかったのです。」

「大切なメッセージがあります」と、精霊は言った。これは、私がここにいる本当の理由です。開発者は主に、計算に数字を使います。これが、あなたが主張する『2は2』の論理です。もちろん、それは数字の妥当な使い方です、でも、使い道はそれだけではありません。経営陣は、決定を下すのに数字を使います。実際、彼らは決定を下す際に数字を必要とします。経営陣は技術者ではありません。彼らは問題解決に異なる種類の方法を使い、決してあなたたちの方法を学ぼうとはしないでしょう。あなたたち技術者がこのジレンマに対応する唯一の解決策は、彼らの言語を話すようになることです。もしそうすることができれば、信頼を損なわずに済むだけでなく、経営陣との関係を向上させることができるでしょう。あなたの考え方を彼らが理解しやすいように努めているわけですから。もう一つの利益は、完全に利己的なものになるのですが、あなたは自分自身の考え方に理解を深める必要があります。アジャイルの世界からのメッセージの1つは、見積もりをし、その改善方法を学ぶことです。あなたが交渉の場で数字を提示しないのなら、また、見積もりに数字を使わないのなら、その見積もりを改善することはできません。それにどれくらいかかるか学ぶこともできません、また、その知識を経営側に伝えるよう歩み寄ることはできません。アジャイルの手法をとろうとすること、また、数字を効果的に使おうとすることは、計算のためだけでなく言語としても、あなたのエンジニアリング能力を向上させるでしょう。それは、あなたにとってwin-win-winの関係になりそうですよね。」

「考えるべきことがたくさんあるな」と、Rickは感慨深く言った。「でも、君が言っていることはある程度、理解できていると思うよ。きっと!たぶん、このWhatsisに関しては、Samのために数字を試すことから始めるんだろうな。Fredをヘルプ要員にすることだってできるかもしれない?ああ、私は何を言っているんだ?君は私にひとりごとを言わせるだけでなく、今度はFredと話をさせようとしている!」Rickは立ち上がると、あたりを見まわし、再び彼の作業場には一人しかいないことを確認した。彼は首を横に振った。だがFredの作業場へ向かう時、彼は微笑みながらうなずいていた。

著者について



Linda Rising氏(リンク)は、アリゾナ州立大学にてオブジェクト指向設計メトリクスの分野におき博士課程を修了後、大学での教育、および、電気通信、航空電子工学、戦略兵器システム界での業務に従事してきました。また、パターン、ふりかえり、アジャイル開発手法、プロセス変更に関するテーマの提唱者として国際的に知られています。著書にFearless Change: Patterns for Introducing New Ideas(リンク)(Mary Lynn Manns共著)があり、編者としてDesign Patterns in Communications Software(リンク)、The Pattern Almanac 2000(リンク)、The Patterns Handbook(リンク)の編集に携わっています。

過去に、InfoQ読者の方々は、Linda氏が脳の科学について語った「Bonobo」のインタビュー(参考記事・英語)や、氏の記事Questioning the Retrospective Prime Directive(参考記事)にて、大いに楽しんでいただけたことでしょう。


Barbara Chauvin氏は、IBM、3M、DMR Group、LinkAgeにおいて、ビジネス・システム・デザインや、プロジェクトとポートフォリオの管理を経験してきました。現在はSentry InsuranceのためのBusiness Support - Nonstandard Auto Insuranceにてディレクタを務めています。 


  原文はこちらです:http://www.infoq.com/articles/rising-agile-spirit-numbers
(このArticleは2008年6月13日に原文が掲載されました)

この記事に星をつける

おすすめ度
スタイル

BT