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かんばんを使ったITホスティング - 保険会社のケーススタディ

原文(投稿日:2015/11/13)へのリンク

Odile Moreau氏がLean Kanban Benelux 2015カンファレンスで,ある大手保険会社のアジャイル移行をケーススタディとして発表した。同社はITホスティングの15チームを対象に,かんばんを採用したアジャイルの導入に着手している。

InfoQは氏にインタビューして,アジャイル開始前のその保険会社の状況,同社がかんばんを選択した理由,作業フローを管理する上でチームがかんばんをどのように利用しているか,チーム間の作業調整と管理の上でかんばんがどのように用いられているか,等に加えて,今回のかんばん導入から氏が得た教訓についても聞くことができた。

InfoQ: アジャイルを始める前の状況について簡単に説明してください。解決すべき問題はにどのようなものだったのでしょう?

Moreau: この企業は2015年初頭に,大規模な組織変更を行いました。おもな目的は,それぞれユーザ“専用”のチームによって,技術志向ではない,顧客指向の業務を実施することにありました。そのためには,さまざまな“ユーザ”の満足をどう確保していくか,という点が問題となります。満足というのはつまり,要求を理解し,適切に順序付けし,適切な方法で(品質やコンプライアンス上の要件もすべて留意しながら),適切な(必要な)時に提供できる,ということです。そこで,今回のアジャイル移行を開始するに当たって,このアイデアを導入する対象として15程度のチームを選択しました。これらのチームは,単一の特別なITスキルで多数のユーザに対応するのではなく,各チームが特定のユーザを対象にした業務を行っています。

InfoQ: かんばんを選択した理由を教えてください。

Moreau: 今回の企業には,ソフトウェア開発からビジネスまで,すでに多数のスクラムチームが存在していました。ですからITホスティングでもスクラムを始めることにしたのです。専任チーム(1ユーザに1チーム)という構成も,スクラムを始める上で重要な要素でした。いくつかの開発チームで成功を収めていたというのも理由のひとつです。ところが2週間程過ぎた頃,私は,スクラムがチームの役に立っていないという理由で呼び出されました。バックログによる視覚性や日毎のスタンドアップなどの決まり事は運用されていたのですが,スクラムによる仕事の進め方に非常に苦労していたのです。

かんばんを選択した最大の理由は,2週間というイテレーションがうまく機能しなかったことにあります。ITホスティングチームの作業は,修正と実行の繰り返しです。つまり,何かの問題が発生した時,“この問題は次のイテレーションで解決しよう”とは言えないのです。イテレーションを廃止したことで,チームメンバは安心してくれたようでした。

ふたつめの理由は,チームの行う作業が標準プロセス(ITILが基本)に従ったものであったことです。ToDo, Busy, Doneで構成されたスクラムボードでは,問題やボトルネックを追跡するには抽象的過ぎたため,すべてがBusyに溜まっていました。そこで私たちは,ほとんどの作業を定例にしました。スタンドアップとスプリント計画を週の始めに実施し,レトロスペクティブを必ず実行すると同時に,カイゼンのためのセッションを導入しました。

かんばんを選択した第3の理由は,不連続ではなく,進化的な変更を行うアプローチのためです。チームはすでに多くの経験を積んでいましたから,何をすべきかを指示するのではなく,自分たちにとって最善の行動は何であるかを積極的に考え,それを自ら実施に移せるような機会を与える必要がありました。

InfoQ: チームのワークフローの管理に,かんばんをどうのように使っているのですか?

Moreau: それぞれのチームが自分たちの現在の作業方法を表現できるように,かんばんシステムを自ら開発しています。かんばんのシステムは,同社のツールであるJiraに置き換えられました。ほとんどのチームのメンバがオランダ国外を含むさまざまな場所に分散しているので,メンバ全員の同期を取るためには分散型ツールが不可欠なのです。

特定の問題が発生した瞬間から,そのチームメンバが,その作業の進行に責任を持ちます。タスクの変化は,“今週実施すべきこと”の欄に割り当てられます。視覚化されていないタスクの作業をしてはいけない,というのが鉄則です。

そのようにしていても,最初にそのタスクが本当に重要なのか,ユーザに関連したものなのかを確認できないまま,同僚から直接依頼される場合があります。この新しい作業方法になかなか馴染めないチームメンバがいることも事実です。彼らは仲間に“ノー”と言えないのです。しかし,そういった状況は把握できます。あるメンバが進行中のカードをたくさん持ち過ぎていることが,視覚上明らかだからです。

この他にもチームには,最善の方法で自分たちを管理することが許されています。進捗と課題,ボトルネックに注目したスタンドアップも,チームメンバが成果をあげる上で効果があります。

InfoQ: チーム間の作業調整や管理を行う上で,かんばんがどのように使用されているのか,具体的な例をあげて頂けますか?

Moreau:現在は,ITホスティング部門(15チーム)全体での“週の初め”ミーティングを試しています。さまざまなスクラムチームからチームリーダや技術プロジェクトリーダ,プロダクトオーナが週1回集まって,バックログの調整をするのです。Jiraのメリットは,ITホスティング全般で何が起きているのか,全体像を全員が見られる点にあります。これまでは,そうではありませんでした。

現在はバックログ全体の視認性が高くなったので,作業の優先度を調整したり,チーム間の作業の依存性を確認できるようになりました。また,徐々にですが,チームの再編成にも着手しています。作業を行う上で十分なキャパシティを確保するために,何人かのメンバが別のチームに移動しています。さらに,作業のサイロ化を打破するための試みも行っています。

InfoQ: かんばん導入からどのようなことを学んだのでしょうか?

Moreau: かんばんシステムは“開いたドア”のように思えるかも知れませんが,コミットメントとマネジメントがなければ,その可能性を最大限に引き出すことはできません。かんばん導入を成功させるためには,必ず成功させるという意思が必要なのです。

アジャイル性を向上する上での大きな障害のひとつは,チームの自己組織化が必要なことだと思います。これは間違いなく事実なのですが,マネジメントを含むチーム全体にも,達成を目指す明確な目標,あるいは目的意識がなくてはなりません。チームメンバは,何が重要かを理解したり,あるいは間違った期待を回避するために必要なスキルやビジョンを持っていません。ただしメンバの中には,素晴らしい予見性を持っている人がいることも事実です。 彼らは実際に,バックログの優先度に影響を与えたり,自身の洞察によってユーザを支援したりするために,自分自身の経験を利用しているのです。優先度や要求管理に対処するために,私たちにはまだ,強力なリーダが必要です。チームのためだけではありません。チームリーダやマネージャが必要としているのです。そのことを学んだ今,私たちは,かんばんとは何なのか,どのように機能するのかを説いたかんばん導入のスタートラインに,改めて立っています。今は自分たちが達成したい目標を設定するために,これまでよりも多くの時間を費やしています。 マネジメント層はさまざまな決まり事にはもちろんの事,ワークショップにも参加しなくてはなりません。

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