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Agile2008 チーム参加レポート - カンファレンス参加編

| 作者 懸田 剛 フォローする 0 人のフォロワー 投稿日 2008年11月22日. 推定読書時間: 13 分 |

前回までのあらすじ

Agileカンファレンスに「参加者としてだけでなく、発表者として参加しよう」を掲げたチームgoyattomは、サブミッションを提出し、7つ のセッションが日本から選択されました。サブミッションが選択された人、そうでない人も含めて、個々の目的意識の確認、膨大なプログラムから聞きたいセッ ションの選択、旅行の準備、プレゼンテーションの準備の期間を終えて、無事当日を迎えました。

出発〜前日(8/3)

現地での合流組もあったため、一緒に成田から旅立ったのは8名でした。12時間のフライトの後、カンファレンス前日の8/3にトロントに到着しまし た。今回の会場はシェラトンホテルで宿泊とカンファレンス会場がセットになっていました。この形式は海外の国際会議ではよくあるようです。現地合流組みと 一緒に夕食をとって、明日からのカンファレンスのため鋭気を養いました。

初日(8/4)

カンファレンスの初日は、まずレジストレーションを済ませると、Open Spaceと呼ばれる、フリーのディスカッションスペースに行き、そこの壁に勝手に日本チームの時間割を作り、日本からのアピールや貼り物をペタペタと貼りました。以降はここが日本チームの集合場所となりました。

ResearchPaperという調査論文の発表が行われていました。初日の夜に行なわれるアイスブレーキングパーティーまでの間に、Muzik Mastiと呼ばれる音楽で参加者同士がコミュニケーションをはかりつつ楽しもうという趣旨のセッションが行われていました。日本からの参加者では、セントラルソフトの林氏が、日本勢としては最初のセッションとして「ドラムサークル」 [1] を開催しました。ドラムサークルとは、打楽器を用いて参加者が輪となり、それぞれのリズムを即興で奏でていく形式の演奏です。ここでキーとなるのが輪の中心にいるドラムサークルファシリテーターで、個々人の状況を逐一観察し、アイコンタクトでリズムの変更や、盛り上げ、一体感を演出していく役割です。林氏 はこのファシリテーターをつとめて、輪となったドラムサークルを大いに盛り上げてくれました。

そして、初日の夜のアイスブレイキングパーティーが開催されました。ここでは本格的にカンファンレンスが開始される前に、立食パーティーで参加者同士が交流を深めるというものです。この場所で多くの人と交流しておくと、この後のカンファレンス期間がより楽しめるのです。このパーティーでは、今年の4月に来日して、トヨタ工場の見学や、チェンジビジョンにも遊びにきてくれたデンマークのBent Jensen氏や、Thomas Blomseth Christiansen氏と再開を果しました。同様に2007年10月に日本最初のScrum Master Trainingの講師だったBas Vodde氏にも再会しました。また会場には、多くのAgile界の著名人がおり、話し掛けようと試みたのですが、取り巻きが多く躊躇して話しかけるタイ ミングを失なうことが多かったのです。ここは「空気を読まずに」人の会話に割り込む勢いで行くのが正解なのですが、まだまだ筆者にはそのスキルが足りないようです。

会場で初めた会った参加者の中で、韓国から来ている2人のエンジニアとの出会いがありました。彼らはMike Cohn氏の「User Story Applied」を始めとしたAgileに関する書籍、記事を翻訳している最中だと言ってました。日本から10名以上ものチームで来たんだと話すと、「来 年は自分達もチームを組んで来たい」と語っていました。初日以降もパーティーはいくつか開催されますが、この初日のパーティーで多くの知り合いを作ること が、この後のカンファレンス期間でも情報交換や、絆を深めるために必要な気がしました。

二日目(8/5)

実質的な初日である8/5の午前中の10:30-12:30の間に日本人のセッションが集中しました。Tools for Agilityステージでは、筆者の「Tangible Bug Tracking Using LEGO Bricks」 [2] が、Leadership and Teamステージでは、木下氏の「Practices of an Agile Team」 [3] 、Agile & Organizational Cultureステージでは、平鍋氏の「Learning Kaizen from TOYOTA [with MindMaps]」 [4] が同じ時間帯に重なったのです。

筆者のセッションは、ソフトウェアの障害(バグ)をレゴブロックを使って「見える化」をすることによるいくつものメリットを伝えました。木下氏の セッションは、自身のチームのプラクティス(実践、習慣)と、その改善を厳しい現場の制約の中で行ってきた発表を行いました。このセッションは満席に近い 人が集り、とても評判がよかったそうです。平鍋氏のセッションは、Agile2007でも行った、トヨタの改善についての動画を鑑賞した後、グループ毎で気づきをマインドマップを使ってまとめていくというワークショップです。Agile2007ではMary Poppendieckと二人で行ったのを、平鍋氏が1人で実施しました。このセッションは昨年の評判を聞いた人が多数訪れる人気セッションとなりまし た。互いのセッションを応援に行けないのは残念でしたが、それぞれが堂々と発表をしていたことが録画したビデオから伝わりました。

そして午後のセッションでは Agile & Organizational Cultureステージで安井・串田両氏が「Agile Communities in Japan」(英語版: [5] 、日本語版 [6] )という日本のIT業界を取り巻く産業構造と、アジャイルに関するコミュニティの状況を発表しました。参加者は少なかったのですが、逆に密なコミュニケーションで随時質問が飛び交い、日本のIT業界をとりまく産業構造が参加者に伝わりました。

三日目(8/6)

朝最初の時間帯に、Leadership & Teamsステージで、平鍋氏の「New Car Development in Toyota」 [7] のセッションがありました。このセッションは、トヨタでスープラやレクサスなどの開発に携わったチーフエンジニアの片山氏の発表を平鍋氏が代弁するという 内容でした。現在、アジャイル開発のコンテキストでは、トヨタ生産方式や、そこに源流を持つリーン生産が注目されていることもあり、盛況だったそうです。

四日目(8/7)

四日目の午後には、平鍋氏とサポートで筆者が参加した「Exploring user stories through mind mapping」 [8] がありました。このセッションはマインドマップでユーザーストーリー(要求)を探索するという実験的な内容にも関わらず、我々の予想を遥かに越える参加者 がありました。ワークショップ形式の開催でしたが、参加者が積極的に参加してくれ、寸劇も好評で主催側にも満足のいく内容でした。特にマインドマップを、 ユーザーストーリーやユースケースのような要求の収集、整理に使うという手法はとても先進的なことも参加者のツボだったようです。 [9]

また、その頃、Main Stageでは、日本でもお馴染のLightning Talkが開催され、そこで串田氏が「Yukata Driven Communication」という発表をしました。 [10] この発表は、串田氏がAgile2008において浴衣を着てパーティーに参加した時の経験を元に、アジアのエンジニアに向けた熱いメッセージでした。余談ですが、Lightning Talk自体は、開催前の段取り、進め方も含めて、日本で日々開催されているLightning Talksの方がレベルが高いと感じました。来年は、是非日本人がこのセッションを取り仕切りたいものです。 [11]

またカンファレンス期間中は、Open JAMと呼ばれる発表形式がありました。これは自分でしゃべりたい内容をホワイトボードのスケジュールに表明して、自由に発表するという形式で、サブミッションの合否に関わらず発表できます。このコーナーがOpen Space内に設けられていたため、この日筆者はOpen JAMで「沢田マンション(沢マン)とアジャイル開発」についての発表をしようと聴衆を待ち構えていました。

沢田マンションとは、夫婦2人だけで、6階建の鉄筋コンクリート造のマンションを作ってしまったという、高知市に存在する伝説的なマンションです。 [12] 最近、日本の一部のエンジニアの間で、沢田マンションとアジャイル開発の類似点に興味を持つ人がおり、筆者もその1人として沢マンを紹介しようと試みました。しかしながら残念なことに、声を掛けても興味を持ってくれる参加者はいませんでした。仕方ないので、goyattomの一部のメンバーにプレゼンをするに留まりました。沢マンの魅力を伝えるのは、筆者の来年の課題としておきます。

この日の夜には、Banquetというパーティーが催されました。その中で、キーノートであるRobert.C.Martin氏の講演が行われた後 に、J.B.Rainsberger氏が壇上に立ち、誰かの紹介をはじめました。「彼はAgileの重要な本を翻訳し、マインドマッピングという創造性に 溢れた手法を紹介し、かんばんというアイディアを紹介した...」そして最後にこう言ったのです。「ヒラナベサンガ、ゴードンパスクアワードデス。オメデトウゴザイマス」 紹介を受けて平鍋氏が壇上に立ちました。まったくこのことを聞いていなかった筆者を初めとした日本人は、最初は何が起きたのかまったくわかりませんでし た。しかしその後の平鍋氏のスピーチを聞いたとき、何が起きたかを初めて知ったのです。 平鍋氏は「Gordon Pask Award」という賞を受賞しました。この賞は、年に一度「広くは知られていないが、Agileコミュニティに貢献した人」を選考して送られるものです。 平鍋氏は、日本の顔として書籍の翻訳や、世界に向けての発表の成果が認められての受賞となりました。 [13] 筆者は、氏がXPやAgileといった海外で発生したムーブメントに着目し、数年に渡り日本で広める活動を続けてきたことを身近に知っています。そんな筆者にとって、この平鍋氏の受賞は言葉に言い表せない感動を受けました。 [14]

Banquetのトリを飾ったのは、日本のサブミッションの中で一番最初に通過した、「DearXP」でした。DearXPは、日本のeXtreme Programmingのユーザーグループである日本XPユーザーグループ (XPJUG) [15] の公式ソングです。侍塊s [16] というバンドが、2006年のXP祭り [17] において、本曲を初めて披露してから、XPJUG公式ソングとして各所で歌われています。 今回はその英語版の歌詞を、J.B.Rainceberger氏に翻訳してもらい、カンファレンス参加者の串田氏をボーカルにして全員で歌うことになった のです。この時、日本チーム全員も壇上に立ち、シンプルなステップを披露しながら歌いました。この歌とステップは数日前から朝晩に少しづつ練習をしていた ものですが、直前までなかなか上手くいきませんでした。しかし本番になってカチッっとうまくいき1600人の観衆の喝采を浴びました。 [18]

Banquetの後に、多くの参加者から「よかったよ」との声を掛けてもらいました。音楽は国境を越えると言いますが、自分がその渦中になってはじめて実感した気がします。

五日目(8/8)

最終日は、午前中のみのセッションとなりました。基調講演のAlan Cooper氏が、Agileとユーザーエクスペリエンス(UX)との親和性について力説した後で、これまでのセッションの中から評判がよかったセッショ ンの再演(Re-run)の発表がありました。このリストの中に、平鍋氏のトヨタ関係のセッションが2つ含まれていました。再演に選ばれたのです。 Agile2008の平鍋氏の活躍には本当に驚かされます。

午後になると、参加者がそれぞれの国、地域へ帰っていきます。片づけられる会場、荷物をまとめる参加者、たった5日の出来事だったのですが、とても 名残り惜しく思えてなりません。初日に知り合って、何度も会場で会話した韓国の参加者とも別れの挨拶をし、また日本勢でも違う飛行機で行く人達と別れて、 カンファレンスは終りを迎えたのです。

著者について

(株)チェンジビジョン所属。

フリーランスエンジニア、教育、コンサルタントを経て、プロジェクトの見える化ツールTRICHORDの開発に携わる。Agileとの出会いは2000年からで、eXtremeProgrammingとRubyが引きあわせてくれた。現在の興味対象は、持続可能な社会に本当に必要なシステム、ソフトウェアを、Agileでどう作りあげるかという点。

個人の日記は http://giantech.jp/blog/

 

[1] : http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%A0%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%AB
[2] : http://www.slideshare.net/kkd/tangible-bug-tracking-using-lego-bricks-in-agile2008-toronto/
[3] : http://www.slideshare.net/fkino/practices-of-an-agile-team-542565
[4] : http://submissions.agile2008.org/node/2400
[5] : http://www.slideshare.net/yattom/agile-communities-in-japan-537747/
[6] : http://www.slideshare.net/yattom/agile-communities-in-japanj-presentation
[7] : http://submissions.agile2008.org/node/2769
[8] : http://www.slideshare.net/hiranabe/exploring-user-stories-through-mindmapping-546609
[9] : http://www.change-vision.com/en/agilemodelingwithmindmapanduml.pdf
[10] : http://www.infoq.com/jp/presentations/Agile2008_Kushida_LT
[11] : 日本のLightning Talksの歴史的経緯については筆者の記事が詳しい http://giantech.jp/wiki/LTHistoryForEM
[12] : http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%A2%E7%94%B0%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3
[13] : http://www.agilealliance.com/show/1656
[14] : http://www.infoq.com/jp/interviews/hiranabe_agile2008_award
[15] : http://www.xpjug.org/
[16] : http://na-s.jp/samurai/
[17] : 2002年より毎年開催している年に一度のXPJUG最大のイベント
[18] : http://jp.youtube.com/watch?v=CF_u-b4mKIg

 

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